2ループ目 ― 無表情系メイドさんと出会う ―
さっき、僕は確かに死んだ。
緑色の生物に見つかって、追いかけられて、棍棒で殴られて死んだ。
さてさて、なんで僕はまたココに生きた状態でいるんだろうね。
基本冷静な僕だけど取り乱したって許されるでしょう。許してください。
分らないなぁ理解不能だ。
この場所は僕がココに来たときの、まさに始めにいた地点だよね?
もう一度辺りをぐるりと見渡す。
鬱蒼と生い茂る木々。その中で目の前の大木だけ根元から折れている。
風に揺らされた葉がサワサワと音をたてて、風に落とされた葉は足元の一本道を隠していく。
道はどこまでも続いていそうで、前か後ろどちらに進めば早く森を抜けることができるのか全く予想ができない。
で、前回(?)の僕は愚かにも焦って後ろに進んでしまったがためにゴブリン(仮)に襲われる事態になったわけだよ。
見事な逃げ腰だった。
冷静になれなかったが故の失敗。
さあ、落ち着くんだ僕。
たかが殺されたと思ったら生きていただけの話だね。「という夢を見ました」ってやつだよ、たぶん。
今でもゴブリン(仮)に追いかけられている恐怖とか殴られた衝撃とかしっかり思い出せるようなリアルな夢だったけど。
予知夢ができたところで今度は前に進もうか。
…………。あれ?
後ろに気配を感じて振り返る。
と、メイドさんがいた。メ イ ド さ ん が い た。
「うわあ!?」
僕はその場にへたり込んで彼女を見上げた。
襟付きの黒いワンピースの上から白のフリルエプロンをつけて、頭には白のレース付きカチューシャをつけている。(ちなみにスカートの丈はロングなので下から見上げてもパンツは見ることはできない。)
もちろん僕は喜んだ。だって「人間」に会えたのだ。
その上彼女はメイドさん。そう、あのメイドさんだ。興奮しない男はいないだろう。
でも、だけど。
ひどい違和感を覚えた。
「人間」の枠に当てはめるには、いささか感情表現が下手糞すぎやしないだろうか。
というのも茶髪のショートヘアーで可愛さのテンプレートをそのまま当てはめた様な顔は、表情が無い。目が合わない。真顔のままずっと前を見ている。
お互い固まること約一分。
そろそろ僕のほうが辛くなってきたので声をかけてみた。
「こんにちは、可愛いメイドさん。笑ったらもっと可愛くなると思うよ。余計なお世話だったかな」
「…………。」
「僕さ、家でテレビ見ていたらいたら突然この森にいたんだけど、何か知ってることは無いかな」
「…………。」
「この森ってどっちに行けば早く抜けることができるのか知ってますか。」
「…………。」
メイドさんはチラリと僕のほうを見た後、また視線を戻した。
チクショウ!全然反応してくれないよ!
完全に無視を決め込まれてるよ!
いないことにされちゃってるよ!
ああ、違う違う。冷静になるんだ、僕。
これはあれだ、照れちゃってるんだ。
「急に男性に声かけれちゃった、どーしよぉ」と心中で困っているに違いない。
無表情だけど。
ツンデレってやつだよ、たぶん。いやクーデレか。
でも僕って実は豆腐メンタルだからできれば相手してくれた方が嬉しいんだけどな。
あ、いや待て。もしかしたら日本語が通じてないかもしれn
「異次元から来ましたか?」
「はい?」
「異次元から来ましたか?」
はい?
はい。
異次元ですか。
地球ってところから来たんですけどそこは異次元ですかね。
日本語ばっちり伝わってましたね。
僕の質問は総スルーされちゃいました。
悲しいです。
いきなりの質問してきて内容が異次元から来たかどうかなんて、特殊思考回路の持ち主だよね、このメイドさん。
普通そこは僕の疑問を解消すべく答えを用意するか、「大丈夫ですか」と心配するべきだと僕は思うんだよ。
まあいいよ、別に。僕に反応してくれたし。可愛いから全部許しちゃうね。
とりあえず返事を返しておくことにしようか。
「地球って星の日本から来ました。ここからは遠いところだったりしますか」
「じゃあ行きましょう」
うん、行きましょう。
いやどこに!?会話のキャッチボールできてないよねこれ!
僕は特殊思考回路無表情系メイドさんに腕を引っ掴えられ、瞬間、視界が白く塗りつぶされた。
天国の母さん、僕ちゃんと家に帰れるのかな。
次話でこの世界について詳しく書きます!