第98話:厄神様はかく打ち上げ
どうもこんにちは、しばらく生と死の境界を漂っていたガラスの靴です。
……いやぁ、大学って怖い。
まあそんなこんなで非常識に遅くなってしまい、しかも特に素晴らしい文章ができたわけでもないのですが、よければご覧ください。
では第98話、どうぞー。
――キーンコーンカーンコーン。
「はい、それでは解答用紙を後ろから回収してください」
「……終わったぁーーー!!」
長い戦いは終わりを告げ、今、クラスの心はひとつになっていた。下手をすればカンニングと見なされそうな馬鹿の叫びにも不思議と共感できる。
「――では、1週間後の終業式まで試験休みとなります。夏休みに補習を受ける必要がある人にはその間に連絡がいくので、気を付けてください桜乃君」
「なんでオレを見るんすか!?」
「では、今日はこれで解散としましょう。お疲れ様でした」
担任が労いの言葉をかけてHRを終えると、教室のあちこちでこれからの予定を話し合う声が聞こえてくる。
「なぁ狭山!! これからどっか行こうぜ!!」
「……来ると思った……」
「藤阪も来るよな!?」
「めんどくさいわねー」
とか言いながら特に断る素振りもないところを見ると行くつもりのようだ。
「お前らはどうするんだ?」
「わたしもお付き合いします」
「たまには羽を伸ばすのもいいかもしれん」
そうすると結構な大所帯となるな。ついでに碧海にも声をかけてみる。
「碧海、お前はどうする?」
「……そうだな、構わないのであればご一緒させて貰おう」
そんな訳で、俺達はぞろぞろと移動を開始したのであった。
「すみませーん! ピザとポテト追加お願いしまーす!!」
「かしこまりましたー」
「……どうしてこんなことに……」
考えてみればもっともな話だった。
そんな大人数で楽しめるものは限られているし、何より他にもそういう奴らは大勢いるのだ。
カラオケ、ボーリング、そういったものを全て排除した残りとして選ばれたのが、ファミレスでの打ち上げ。
「直樹が払ってくれるでしょ」
という理不尽な宣告により、俺は今未曾有の危機を迎えていた。
「どうしたのかね直樹氏!? 楽しまなければ損だよ!!」
「そうですよー。大丈夫です、足りなかったら拓斗とかが払いますから」
「なんか増えてるし……」
どこからどう情報が漏洩したのか、ファミレスに着いたときには色々憑いてきた。
受付のウェイターには『いつもありがとうございます』などと言われてしまったし、完全にお得意様として定着したようだ。
「シズちゃんのおかげでテストはばっちりだったの」
「そ、そう? それはよかったわ!」
「さ、狭山先輩! さっきの満月の言葉は嘘ですよね!?」
「……拓斗くん、大丈夫?」
「ところで食べ放題でないようですが、本当に追加注文は自由なのでしょうか?」
「そうらしいの。それにしてもきつねうどんがないとは、さーびすせいしんに欠ける店じゃ!」
「ってちょっと待てーーー!!」
今いるはずのない声が聞こえたぞ!?
「どこだ!? おいこら玉藻ー!!」
「……どうしたのあんた」
「タマモって誰のことだ?」
あいつめ、こういうときばかり小さくなって隠れているな。そもそも誰か気付けよ。
「しかしこうして皆が集まるのは久しぶりだね! 青春とはかくも美しいものか!」
「妙なことに感心している前にここの会計の心配をしてくれ」
「リブステーキとサラダの追加を頼む」
「お前はこの状況を理解してんのかコラーーー!?」
駄目だ、周りは全員敵だ。
俺が多勢に無勢の無力感に苛まれているところに、ネーベルがやってきた。最初はその経済力を活かして立て替えてくれるのかと思ったが、深刻な顔をしているところを見るとどうやら違うらしい。
「……ナオキ。少し話したいことがあるの」
「……あ、ああ……?」
「高橋さんから、何か訊いた?」
「……ああ」
お前の様子が少しおかしいってな。クラスで何かあるのか?
「……怒らない?」
俺は娘を叱る父親か。だいたい怒るかどうかは話の内容によるんだから、話す前にそんなことを訊いても意味がない、と思いながらも、なんとなく訊いておきたくなるのは人の性なのだろうか。
「……実はね、学校で」
「学校で?」
「友達ができないの」
怒るぞ。
どうやらネーベルはクラスでも若干浮いた存在になっているらしい。入学当初(書類上は)から長らく学校に来なかった上に、クラスの中で一人銀色の髪をなびかせているのだから、あり得ない話ではなかった。
「しかしな、市原とは話せてるんだろ?」
「……でも、マイもあんまり他の人と話さないの」
「お呼びでしょうか」
「うわ」
噂をすれば、というよりどうやら最初から聞いていたらしい。早速質問してみる。
「お前、なんで他の奴らと話さないんだ?」
「話す必要がないと思いまして」
なんだろうな、俺の中学時代にもそんな奴がいたような気がするな。
「でもお前、神楽と話しているのは楽しいからだろ。同じように話していて楽しいと思えるような奴がクラスにいないと決め付けるのは早いんじゃないか?」
「そうですね。私自身はあまり興味もないのですが、ネーベルさんのためにここは努力してみることにしましょう」
何か引っ掛かる言い方だが、まあいい、とりあえず後は様子を見よう。
「それじゃ、あとはそっちでやってくれ。俺はいなくなる」
「……いっちゃうの?」
「ああ。お前らも戻るか? 早くしないと食べるものなくなるぞ」
俺の場合はどれだけ追加注文されているかという恐怖も付きまとっているしな。
「……ところで狭山さん」
「なんだ」
「私たちが次にいつクラスとして登校するか、分かっているのでしょうか」
「そんなの終業式――」
――終業式。
1学期の終わり。
つまり。
「2学期までこの話は保留ということになりますね」
「しまったぁーーー!!」
忘れていた。学校には夏休みというものがあるんだった。なきゃ困るが。
「……じゃあ、まだナオキと一緒なの?」
「一緒ってなんだ。でもそうだな、この作戦は9月以降に持ち越しか」
「では戻りましょう。先程注文したチョコバナナパフェがそろそろ届く頃でしょうし」
はい1280円消えたー。
「よう狭山どうした! なんか顔色悪いぞ!」
「こいつら……!」
ネーベル達と席に戻っても、一向に状況は変わっていなかった。いやむしろ金額の面で言えば秒単位で悪化している。
「おいおいおいおい……マジでこんなに金ないぞ」
「……直樹さん、大丈夫ですか?」
はっきり言って大丈夫ではない。それにそろそろ店にとっても迷惑になってきた頃合だろう。さっさと退散した方がよさそうだ。
「という訳で意見を訊きたい」
「まずなんでオレらが払わにゃならんのだ」
「どうせなら割り勘にすればいいんじゃないですか……?」
「分かっていないよ響氏! 拓斗君! それこそが男女平等の精神というものだ」
「便利な言葉だな」
そこら辺でくつろいでいた男どもを招集してとりあえずここの代金を支払うことにした。まずは手持ちがいくらか訊いてみようか。
「手持ち? オレはないぞンなもん」
「僕は2000円くらいしか……」
論外。
「神楽、お前の手持ちでなんとかしよう。いくらある?」
「当然、無いよ!」
「……死神、お前は」
「その質問をする前にまずは床に転がっている神をどかした方がよさそうだ」
本当に使えない神様だなまったく。
「……で、死神。お前もしかして持ってたりとか……」
「お前の家に住んでいる俺が1万円を持っていたとして、お前は素直に喜べるか?」
喜べないに決まってるわ。
「直樹さん! いい方法が見つかりました!」
目の前に広がる絶望の光景を半ば放心状態で見つめていた俺の元に幸運の女神がやってきた。やっぱり最後に頼れるのはお前だけだな。
「そ、そんなふうに言われると少し恥ずかしいです……」
「そんなことより、いいから、どんな方法だ?」
「…………」
「店員さーん! ピザ5枚―!」
「あ、こっちはフライドポテト10皿お願いしまーす!」
「だあぁぁぁぁぁ!! ゴメン!! 悪かった!! ありがとう!!」
「直樹さんはもう少し人の気持ちを考えるべきですっ」
気を取り直して、できる限り小夜の気分を害しないように話を進める。
「いくらくらい足りないんですか?」
「ちょっと待てよ……」
さっき置いていかれた追加伝票と財布の中身を照らし合わせると……
「駄目だ、3000円以上足りないな」
「だったら大丈夫です! これを見てください!」
そう言って小夜は目の前に何かを差し出してきた。というか近すぎて見えない。もう少し離せ。
それを取ってみると、この店の求人情報だった。
「……お前、まさか」
「はいっ! 確か『アルバイト』っていうんですよね! ほら、ここに1時間1000円って書いてありますから、3時間お店にいれば大丈夫です!」
……結論。頼れるのは自分だけ。
ちなみに全員から500円ずつ徴収した。
満「ぶー、後輩からも取るなんてヤなセンパイですねー」
直「お前な、1人辺りの単価が1000円超えてる状態でそこまでまけてやったんだから感謝しろよ?」
響「体張ってんなー……」
というわけで恐怖の宴会ファミレスでした。
これは経験者にしか分からない恐怖があります。
作者も実際一度足りなくなったことがありました。
そういえば『小説家になろう!』の採点基準が正式に変わったようで、それに伴い小説の順位も若干変動しているので、小説ランキングを見てみてください。
たぶん皆様目を疑うか脳を疑うか採点基準を疑うかすると思われます。主に18位くらいで。
ではでは、未だ混乱中のガラスの靴でした。