第95話:厄神様はかく踏みしめ
どうもこんにちは。
七夕の呪い発動です。
ところで七夕というのは直樹が言っていたように織姫と彦星が1年ぶりに再会できる日というのが通説ですが、ここと願い事というのが冷静に考えるとどうも上手く結び付かない気がするのです。
どなたか知っている方がいらっしゃったら教えてください。
では、一夜明けた7月8日のお話です。
「……!! ……!?」
声が聞こえる。
父さんが何かやらかしたのか?
だとしたら止めないとな。
そこで起きようと布団を引っぺがし、フローリング張りの冷たい床に足を――
――フワッ。
「……はい?」
――ダダダダダダ……バタン!!
「直樹さん大変です! わたし目が覚めたら幽霊じゃなくなってました!」
……はい?
「おはよう小夜。それから狭山直樹」
「……お、おはようございます……」
「……お前はこれを見て何とも感じないのか?」
さて、状況を整理してみよう。
どうやら俺は幽霊に、小夜は人間に。
簡単に言えば、2人の立場がそっくりそのまま入れ替わったようである。
原因及び原理は不明。もうそういうことを考えるのに疲れてきたぞ。
「……そうだな。小夜もこいつが憑依していなければこのような生活も送らずに済んだことだろう。まさに厄病神だな」
「……誰が厄病神だこの不幸の権化がぁぁぁぁ!!」
……そして、最も厄介なのは、俺達以外は誰もこの状況に違和感を持っていないことだった。
「ぬ? なんじゃ小夜、起きておったのか」
「た、玉藻さん」
「まあよい。ほれ、わらわも手伝うからいつものように朝ごはんを作るのじゃ。お主はいつも通り役立たずでおれ」
「おのれどいつもこいつも……っ!!」
玉藻は元々どっちでも関係なさそうだし、
「おはよう小夜! 今日も美人だねぇ! 寝起きの悪いお父さんに目覚めのキスをしてくれないか!?」
「死神、殺れ」
「了解した」
「……あ、あの、何もそんな手足を縛りあげなくても……」
父さんも小夜を娘だと信じて疑っていないようである。というかもし娘ならあんな気持ち悪い父親になってたのか。
「それにしても、いったいどうしてこんなことに……?」
お前、よくそんなことを考える気力があるな。
「どうかしたのか。今朝は何やら様子がおかしいな」
「あ、黄泉さん、それが――」
「――なるほど。つまり、お前達の記憶では、今の状況の反対であったという訳だな」
「意外とあっさり信じるんだな」
「常識に囚われていても対処の仕様がないからな」
小夜が事情を話すと、玉藻は終始ハテナマークを浮かべていたものの、死神は割とすぐに俺達の言い分を把握したようである。
「ではまず原因から検討しよう、と言いたいところだが……」
「どうしたんですか?」
「学校に遅刻する」
あ。
「お、おい死神! 学校って、小夜が行くのか!?」
「当然だ。少なくともこの世界軸においては狭山小夜という人間がいることは17年前から揺るぎない真実だからな」
「わ、わたしが生徒……」
「玉藻。父君の意識が戻ったら冷蔵庫にある朝食を出してやれ」
「うむ。では気をつけていってくるのじゃぞ!」
「い、いってきまーす!」
……もしかしてこれ、大変な事になってるんじゃないのか?
「さて、どうしたものか……」
「さすがにこのままでは困りますね……」
朝礼が済んだところで今後の対策を練る。といっても現段階では現状把握が関の山だ。
「いよう小夜ちゃん!」
「さ、桜乃さん」
来て欲しくない奴トップスリーの一角がやってきた。
「今日も藤阪の奴、遅刻なんだよなぁ〜。最近は何か知らんがようやく直ってきたっていうのに」
「「あ」」
忘れていた。
――ガラッ。
「……さ〜よ〜……」
「ひ、ひゃいっ!?」
扉に目を向けるとそこには何か負のオーラを纏う顔馴染み。
「あんたメール忘れたでしょ!? おかげで久し振りの遅刻じゃない!!」
「わ、わたしのせいですか〜!?」
「ちょっと葵〜。また小夜ちゃんいじめて〜」
「そうだそうだ、桜乃のせいにでもしとけ」
「それもそうね。じゃ響、お昼よろしく」
「マジすか!?」
馴染んでいる。
非常に愛されている。
いやまあ、ありえないとは思うが例えばいじめに遭っているとかよりは全然いい。
……いいはず、なのだが。
「どうした、自分以上にクラスに溶け込んでいる小夜を見て自信をなくしたか」
「うっ、煩い! お前に言われたくないわ!」
「まあ良いではないか直樹氏! 小夜君が誰からも愛される存在であることに代わりはないだろう!?」
「だから別に気になぞしとらん……って……」
さて、脳内会議を始めよう。
神楽が犯人だと思う奴は挙手しろ――おぉ、全会一致。
「貴様の仕業かーーー!!」
「何の話だねーーー!?」
「か、神楽さん! 直樹さん、なにやってるんですかー!?」
「まったく、直樹氏は何かと僕を犯人にしたがるね! これでも僕は君が順当にいけば上司なのだよ?」
「まさかこいつも違うとは……」
「すみませんでした神楽さん、いきなり怪我をさせてしまって……」
「はっはっは! 君が気にすることではないよ! 僕にかかれば傷なんてあっという間に回復するさ!」
どうもこうして普段から小夜に接している奴と話をしていると、今の状況を忘れそうだ。
「では、思い出させてやろう」
「あれ? どうしたんですか小夜センパイ?」
「い、いえ、少し話でもしようかと……」
「なんでよりによって辻なんだよ!?」
「適任だろう」
わざわざ後輩のクラスに押し掛ける必要ないだろう。見ろ、みんな勉強して――
「勉強?」
「ていうか小夜センパイ、こんなところで油売ってていいんですか? 今回の試験ヤバいとか言ってませんでしたっけ?」
「え……?」
……おい死神、ちょっと聞いておくが、まさか今は試験期間中ではあるまいな?
「何をバカなことを言っているのだ。当たり前だろう」
「…………っ!? 小夜ーーー!! 早く教室戻って勉強しろーーー!!」
「は、はいー!!」
将来的な大きな危機は時として切迫した小さな危機に覆い隠されることもある。
赤点だけはとりませんように。
神「諸君、おはよう! 突然だがここでは読者の素朴な疑問に答えようと思う!」
直「本当に突然だな」
神「まず最初のお便りだよ! 『P.N.ガラスの靴 読者の皆さんからリクエストを募集したいのですが、どうすればよいでしょうか』」
直「いっそ清清しいほどの自作自演だな」
神「簡単だよ! ここで募集すればよいのさ! ではまた次回!」
直「続くの!?」
というわけでリクエスト大募集中です。
ちなみに今現在受けているリクエストは、
(1)黄泉と神楽の出会いの話
(2)玉藻の話
となっております。
(1)はもう書き上げたので近いうちに番外編に載せる予定です。
(2)はこの七夕騒動の後くらいに1話完結的なものを。
というわけで、テンション空回り甚だしいガラスの靴でした。
次回へ続く!