第93話:厄神様はかく振りまき
さて、日々勢いを失い続けているこの作品ですが、このたびアクセス人数が延べ7万人となりました。
作者自身なんでこんな無駄に長いのを読み続けてくれているのか首を傾げるところですが、まぁ個人的には万々歳なのでよしとしましょう。
というわけで遅くなりました。後編です。
「まー悪あがきで状況を延ばすことは出来ても逆転させることはできませんよねー」
前方、3‐Eの教室前には辻。
「君がこれからどう反撃するのか、楽しみだよ!」
後方、3‐Cの教室前には神楽が陣取っている。
その気になればすぐにでも俺を捕まえられるこの状況で、まるで自分の巣にかかった獲物をいたぶる蜘蛛のようにじわりじわりと距離をとるのは余裕の表れであろう。
そしてその余裕こそが脱出の要となる。
「ところで神楽、俺以外の奴らは追わなくていいのか?」
「問題ないよ! まずは君を捕まえることが最優先事項さ!」
「どうせこの状況から逃げられないんですから、覚悟してくださいねー」
さて、忘れている奴もいるだろうから確認しておくと、我がチームにはステルスモード搭載の奴が2人いる。
1人は当然小夜のことだが、こちらは強制ステルスなので残念ながらこの状況を変える力はない。
だが、ステルスモードと通常モードを自由に変えられるとしたら?
――ガラッ!!
「え? あれ?」
その時、3‐Dの扉が勢いよく開いた。
「おかしいですねー……? さっき覗いた時には誰もいなかったような気がしたんですけど……」
「ほうほう! なるほど! そして直樹氏はこの状況をどう利用するつもりなのかな!?」
利用する必要はない。
あとはあいつに任せよう。
「……よっ」
「あ、桜乃センパイ」
「おや、響氏ではないかね」
「……え?」
……ちょっと待て、この状況はなんだ。
俺はさっき作戦を聞いてこいと小夜に言った。
そしてさっき小夜が大丈夫だとの合図を神楽の背中越しに出しているのも見えた。
「……なのになんでお前がここにいるんだーーー!?」
「オレは悪くねぇーーー!!」
「なに仲間割れしてんですか? 計算通りじゃなかったんですか?」
ああその通りさ。
「響氏はどのようにして教室に侵入したのかね!? 僕にも全く分からなかったよ!」
まさかこいつも実は幽霊だったのだろうか。
「い、いやー……。実はオレも教室に隠れてようとしてさ。さっきまで掃除用具入れの中に入ってた」
……つまり。
「完全に意図がかぶっちゃったわけですね」
「お前、俺が教室行くこと聞いてただろ!?」
「まさかここだとは思わなかったんだよ!!」
さて、どうしようか。
この状況では兎が1匹から2匹になっただけだ。ピンチであることに揺らぎない。
「しかし困ったな……」
「何が」
――ガラッ。
「藤阪もいるんだよ」
「あんたたち、もうちょっと頭使って隠れる場所選びなさいよ」
「…………」
もう嫌だ。
「……で、藤阪センパイはどこにいたんですか?」
「教卓の中」
知らない人間が見たらさぞかしシュールな光景だっただろうな。
「そ、それでもここまで来たらきっと死神もこの中に……!」
『階段の踊り場にいるが』
「空気読めよこんちくしょー!!」
さで、昔の人は言いました。
――1本の矢では折れてしまうが、3本束ねた矢は決して折れない。
ですが隊長、矢がボロければやっぱり3本とも折れてしまうと思うのです。
「という訳で桜乃、3本折れるよりは1本折って他の2本を生かす方がいいだろ」
「何の話かわかりたくありません!!」
『そうだな。それが一番合理的だ』
「うわーーー!? 指揮官に見捨てられていった歩兵を忘れるなーーー!!」
「ひ、響氏!? 何故こっちに突進……のぁぁぁぁ!?」
「行くか」
「そうね」
「あー!? 逃げちゃダメですよー! 神楽センパイもいつまで延びてんですかー!」
さらばだ桜乃。お前の犠牲は決して忘れん。
「――で、あの、いつからルールが変わったんですか?」
「鬼が2人ではいつまで経っても捕まえられないだろうと思ってね!」
「しかも不思議なことに、センパイを追い詰める度に他の人が犠牲になってたんですよー」
「当然その方たちの利害は一致します」
「年貢の収め時ってヤツだ。覚悟しろよ」
「優秀な兵士は敵の手に渡る前に味方の手で暗殺されることもある」
「そんなとこね。やっぱりこっちの方が性にあってるわ」
どいつもこいつも。大体藤阪は捕まってないだろ。何を簡単に寝返ってるんだ。
「直樹さん、どうするんですか?」
「今こそお前の出番だ。こう、厄をどばーっと解放してくれ」
「……いいんですか?」
「ああ」
ゾンビ化した鬼どもが厄に見舞われている隙に脱出する。
「……それじゃ、行きますよ?」
思えば小夜が厄を解放するのを冷静に観察するのは初めてだな。何か粒子っぽいものでも出るんだろうか。
「……これ、直樹さんにしか効かないのに……」
「…………は?」
観察に専念して一瞬理解するのが遅れたのがまずかった。
「今だ! かかれぇーーー!!」
「……ぎゃあああああああああああああ!?」
「自業自得だな」
「頼むから黙ってくれ……」
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「今肩を叩かれたらそのまま倒れそうだ」
帰り道。何故かどさくさ紛れにボコボコにされた俺は正に生死の境をさまよっていた。
『……ガガ……』
そうしていると、取るのを忘れていたイヤホンから通信音が。
『お、繋がった繋がった』
「桜乃か、なんだ」
やがて聞き慣れた声。この通信範囲はどのくらいなのだろう。
『狭山か。ちょっと不思議に思ったことがあってさ』
そうかい。俺は日常的に不思議の中にいるから感覚が麻痺してるよ。
『実はな、お前と話してると時々知らない女の子の声が混じるんだよ』
……なんだって?
『それもたまたま通り過ぎたって感じじゃない。明らかにお前に話しかけてたんだ。……お前、ひょっとして何かにとり憑かれてんじゃないのか?』
「スマン、切るぞ」
『え? お、おい――』
死神の方を見る。
「……恐らくは、電子情報へと変換される際に万人が感知できる共通情報化されるのだろう。同じ原理でビデオカメラを通して映像化される可能性もある」
……つまり、機械を通せば小夜がいるのが分かるってことか。
「あの、わ、わたしはどうすればいいんでしょうか……?」
「……そうだな……」
今の段階ではプラスの情報なのかマイナスの情報なのか判断しかねる。
だがまあ。
「心配はないだろう。神に報告してそれでこの件に関しては終了だ」
「だな」
今さらそんなことを気にする必要はない。
そんなことは関係ないくらい不思議なことが起きているんだから。
そう、この出来事は、これから起きる事態の前座に過ぎなかったのだ。
事件は、この夜に始まる。
舞「私の扱いが不当な気がします」
ネ「私、出てないの……」
直「そんなの俺に言われてもどうしようもないんだが……」
というわけで相も変わらずグダグダ展開一直線、ガラスの靴でございます。
この2話はせっかくだからあのイヤホン使って何かしたいなーと思ったのがきっかけで、結局イヤホン自体パワーアップして伏線も何もない話になりました。
個人的にはあるシーンが書けたので満足です。
それがどこかは各自のご想像にお任せします。
さて、またしても微妙に後味の悪い締め方ですが、今回はバカ展開なので安心安全です。
しかも次話は既に書きあがっているこの珍しさ。
ではでは、何事もなければまた次回〜!