第91話:厄神様はかく掴みき
無事に科目登録が終わりました。
選外をくらうこともなく、まずは平穏な大学生活に向けて第一歩を踏み出せたようです。
そういうのはブログで書けよと自分に突っ込みを入れつつ、第91話をどうぞ。
「オイーッス!!」
「……試験一日前に何の用だ」
放課後。今回頑張らねば一学期の成績が見るも無残な結果で確定してしまうため、油断は許されないこの状況。正直言って一番来て欲しくない奴がやってきた。
「いやですねーセンパイー。試験なんて堅苦しいものは忘れてパーっと行きましょうよー!」
「断る」
辻を無視して教室を出ようとすると、そこには今度は市原の姿があった。
「狭山さん。試験のような表面的な優劣のつけ方にこだわっていると物事の本質を見失ってしまいますよ」
「時にはそれも必要なんだ。お前も遊んでないで勉強しろ」
「では、私に勉強を教えてください」
やられた。
「さぁーー!! 舞さん、今日はバンバン行きますよー!!」
「そうですね」
「結局こうなるのか……」
辻と市原に拉致されてやって来たのはゲームセンター。どうやらUFOキャッチャーに挑んだあの時から辻の中でブームが到来したようだ。
「直樹さん、あまり無駄遣いしないでくださいね」
「今すぐ帰るのが一番の節約だと思うんだが」
「ちょっとセンパイー!? 早く来てくださいよー!!」
どうやらそれも叶わぬ願いのようだ。
「またUFOキャッチャーか」
「ふっふっふー。まー私の腕を見ててください。あ、お金はそこです」
「俺が入れるのか」
仕方がなくなけなしの100円玉を投入すると、待ってましたとばかりにアームが反応した。
「さー舞さん! どれが欲しいですか!?」
「ではあの埴輪を」
市原が指差したのはなんともやる気のなくなりそうな顔をした埴輪のキーホルダー。
相変わらずのセンスである。
「ではいきますよー! ほいっ!」
妙ちくりんな掛け声だが、辻の操るアームは造作もなく埴輪を捕らえ、そのまま景品口まで直送してしまった。
「どうですかセンパイ!? この私の上達ぶりを見て言うことがあるんじゃないですか!?」
「うんまあ、勉強しろ」
こいつはいくらUFOキャッチャーにつぎ込んだんだろうか。案外桜乃弟あたりが被害に遭ってるのかもしれないな。
そんなことを考えている間に市原は埴輪を手に取り、満足げに見つめていた。
「素敵なキーホルダーですね!」
「小夜さんもそう思いますか。これは中々の逸品です」
100円だぞそれ。
「さてセンパイ、次はなにをやりますか?」
「というかだな、俺は市原に勉強を教えてくれと言われてついてきたんだが」
「嘘です」
最後の希望をあっけなく崩してくれてありがとう。
「舞さん、勉強はしなくていいんですか?」
「大丈夫です。どうせ夕飯の後に神楽さんが20年分の過去問を持参して押し掛けてくるでしょうから」
あの親馬鹿め。そんなのがあるならむしろ俺によこせ。
「というわけですからセンパイ、心置きなく遊びましょー!」
「俺とお前の問題が解決していないっ!」
「むー……じゃあ、ここはゲームセンターらしく格闘ゲームで決めましょう!」
「舞さん、今度はあのシューティングなんてどうですか!?」
「良いですね。やりましょう」
「……辻さんと舞さん、行ってしまいましたけどいいんですか?」
「そっとしておいてくれ……」
ゲーセン通いの奴に格闘ゲーム対決を持ち込まれた時点で罠だと気付くべきだった。
レバーの感覚にも慣れないうちにガード不可コンボを喰らい即死、その次も適当にボタン連打で抵抗するもカウンター技っぽいものを喰らいよく分からないうちに死亡し、奇跡に賭けた3戦目も超必殺技で余裕勝ちされ、要するに3戦終わるのに2分もかからなかった。どんだけやりこんでるんだあいつは。
そしてその後は何故かUFOキャッチャーにおける獲得テクニックを延々と辻に伝授され、やがて飽きたのか市原を引き連れて現在の状況に到っている。
「小夜……今何時くらいだ?」
「えーと……だいたい5時くらいですね」
ということは1時間もここにいたのか。もうそろそろ帰らないとマズイ。時間とか俺の財布とか色々。
「おい辻、市原。そろそろ帰るぞ」
「ちょっと待ってください。このボスを倒せばハイスコアに到達しそうなんです。あ、舞さんそこの雑魚お願いします」
「分かりました」
なんかボスの方が可哀想になってくるくらい一方的に撃たれ続け、スタッフロールが流れ始める頃には辻は良い笑顔で銃型コントローラをしまっていた。
「いやぁ〜、やっぱりゲーセンはいいですね〜」
「そうかい。そろそろ帰るぞ」
「あとは太鼓ですねー」
「人の話を聞けぇ!!」
どうにかこうにか辻と市原を説得させて外に出ると、夕日が駅前を紅く照らしていた。そして、
「あら?」
「あ」
「げ」
「……こんにちは」
見事通りがかりのある人物に遭遇してしまった。
「……貴方たちは、試験前日だというのに何をしているのかしら?」
「松崎。これはだな、、なんだ、あれだ。話せば長くなるというか」
「狭山くん。貴方は仮にも最高学年なのだから、節度をもった行動をして欲しいわね。少なくとも後輩2人をこんなところに連れてくるというのはどうかと思うわ」
完全に俺のせいになっている。泣きたくなってきた。
「辻さん、市原さん。明日はもう試験なのだから、早く帰って勉強をした方がいいわよ」
まぁ俺の主観で語らせてもらえば、この場にいる面々は俺を除いてテスト直前の一夜漬けにさほど意味のない連中ばかりだろうが。
「いやー、センパイに誘われてついつい遊んじゃいましてー」
「殴っていいか?」
「私はこのキーホルダーが欲しくて来ました」
「……そ、そう。とれてよかったわね……」
市原、市原。松崎も引いてるから。
「そうだ! 部長もなにかやっていきませんか?」
なんと無謀な提案。
「私はいいわ。ゲームセンターなんて興味が――きゃ!?」
「まーまー、案外部長の好きなものがあるかもしれませんよー?」
恐らく部長も共犯者にしてしまおうという辻の作戦は即座にかつ強引に実行へと移された。
それにしてもそんなにうまくいくとは思えないんだが。
「……こ、これは……」
「あー、最近出たやつですねー。カワイイって評判の」
無茶苦茶食いついていた!!
「そういえば部長さん、可愛いものが好きでしたね……」
「甚だしく意外ですね」
「ちょっと言いすぎじゃないか……?」
なんと言ったか、リラックスしてるのかさせるのかよく分からないクマが山のように積みあがっているUFOキャッチャーのある一角に松崎は釘付けになっていた。辻がこっちにしてやったりといった顔でブイサインを送っているのは無視しよう。
「……松崎、欲しいのか?」
「なっ、なにを!? わ、私は別に欲しくもなんとも……!!」
「そういえばこれ、ここでしか手に入らないそうなんですよー。ほら、こんな可愛いものが机の端に置いてあったら、さぞかし幸せでしょうねー」
「…………っ!」
辻さんよ、そこらへんにしておいてやれ。
「……あのな松崎」
「な、なな何かしら?」
「欲しいんだったら取ってやるが」
「え?」
そんな必死な形相で筐体を眺められても他の人から変な目で見られるからな。さっき伝授された技を試すいい機会だ。
「よっ! 大統領ー! いっちょやってくださいー!」
「あ、あの、お金なら私が――」
「いいっていいって。まあ見てろ」
結局、500円で3個という俺にしては見事な戦果を挙げ、余った2個はそれぞれ辻と市原にあげて今日はお開きとなった。
恐らく今日の出来事は辻の閻魔帳にしっかりと書き込まれているんだろうな、と松崎の行く末にちょっとした同情を抱きつつ、他の3人を帰らせて俺は再びゲームセンターへ戻った。
「……? どうしたんですか? 忘れ物はないと思いますけど……」
「いやまぁ、ちょっと」
適当な台を見つけて100円を入れる。
アームを動かして、見事1発で景品口に獲物が落ちた。
「…………?」
「よっ……と、ほら」
出てきた景品を小夜に渡す。こんなんでも俺の所有物扱いされるんだな。
「あの、これは……?」
「まあ、なんだ、あれだ。折角こんなところに来たんだから、土産ってことで」
予算100円の手軽なプレゼントだ。
「……あ、ありがとうございます! わたし、大事にします!」
どうも試験前は普段やらないことをやりたくなるな。
うん、そのせいだろう。
「あ、これ、何か書いてあります」
「なんて」
「えっと……『家内安全』……」
「…………」
ま、お似合いかもな。
松「ひ、久しぶりに出番が来たと思ったら……」
藤「いやーそれにしても随分楽しそうだったわねぇ〜」
松「〜〜〜〜!!」
辻「あれ? なんか私たち、完全に食べられちゃってません?」
舞「きっとそのうちまた出番もあるでしょう」
というわけで、前回出せなかったキャラを出してみました。
よく考えれば、以前直樹が事故った時のお見舞いもこのパーティーでしたね。
たぶん読者様の8割は忘れていると思いますが。
次回はリクエストにあった玉藻の話か、桜乃の話か、もしかしたら全然関係ない話をするかもしれません。
というわけで、リクエスト受付中ですので、どなたでもお気軽にどうぞー。
ではでは、さようならー。