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第90話:厄神様はかく戻りき

大変長らくお待たせいたしました!

覚えておいででしょうか!?


覚えてない! そんなあなたに前回までのあらすじ!


小夜がいなくなってパニックな直樹はどうにかこうにか元の生活に戻ったのであった! 終わり!


……では、第90話です。

「まぁ予想通りというかなんというか、本来ならば銃殺刑に処したいところだが現実に実行できる刑罰といえば全力でお前を殴ることぐらいだったが、ロスタイムを用意してくれたことも考慮して3割増だ。ありがたく思え」

「……なんの事だかさっぱりな上に、何故威力が増しているのか疑問だよ……」

 床に転がっている生徒会長が何やら呟いているが、残念ながら声が小さすぎて聞き取れない。実に残念だ。

 この世界は特に何の変化もなく、変わったとしても俺の周りの一部の呼称だけであり、世界は今日も平和であった。

「さて、それじゃ自分の教室に戻るか。行くぞ、小夜、死神」

「あの、本当にどうして神楽さんがあんな目にあっているのでしょうか……?」

「天罰なのかもしれないな」

 

 

 教室に戻る。俺の後ろの席の奴は机につっぷしたまま動かなかった。

「おい、なんで藤阪はあんなことになってんだ?」

 どうしたことかと首を傾げていると、桜乃が耳元で囁き尋ねてきた。

「今日は珍しく2人とも早いんだな」

「そこは問題じゃない。お前、昨日あいつとなんかあったか?」

 昨日と言われても、昨日のアレがどこまで夢だったか定かではない。そんな中で思い出せるのは……まあ、あの事故くらいだ。

「……な、なあ藤阪。今日は勉強会やるか?」

――ガタガタッ!

「あ、あんなもん中止よ中止! 役に立たないわねもう!」

 分かったからそんなにつば飛ばして叫ぶな。あとさりげなく不愉快だな。

「とにかく! あとは自分でやるからいいの! わかった!?」

「はいはい。分かったよ

「はいは一回!」

 へいへい。

「おい、勉強会って何のことだ?」

 とりあえず桜乃は無視しておいた。

 

 

「――そしてこの時生成されたピルビン酸はミトコンドリアに入り、二酸化炭素と水素に分解される。この反応過程はクエン酸回路と呼ばれていて――」

 ……眠い。

 今受けている生物の授業は担任教師が鬼のように厳しいことで有名であり、授業中の居眠りや私語、忘れ物などをした者には厳しい制裁が待っている。

 現に今日宿題を忘れた桜乃はドアの横で水の入ったバケツを水平に持ち続けるという地獄を味わっている最中だ。腕を下ろしてしまった暁には校庭50週。どこの体育教師だお前は。

 したがってここで睡魔に負けることは即ち死を意味する。なんとしても耐え抜かなければならない。

「――じゃあこの反応で得られるのは水素と二酸化炭素、それから何だ? 安藤」

「ATPです」

「よし正解。そしてこのATPによって――」

 いかん、本当に眠くなってきた。

 大丈夫、きっとバレない……。

「な、直樹さん、寝たらダメですっ」

 ユサユサと小夜が体を揺らしてくるが、この睡魔の前では心地良い刺激にしかならない。

 さらば現実。ウェルカム夢の世界。

「な、直樹さん!」

 つんつん。

 わき腹を突くな、こそばゆい。

「――こうして好気呼吸ではグルコース1分子あたり合計して38分子のATPがつくられる。これは嫌気呼吸の19倍で――」

 つんつんつんつん。

 ……ぶすっ。

「……痛てえぇぇぇぇぇ!!」

 電流が走ったかのような刺激に飛び起きる。今確かに何かが刺さった。

「……狭山、お前はそんなに友達を1人で走らせたくないのか……」

「……あー……えー……」

 しんと静まり返った教室。

 教師の顔に浮かび上がった血管が、俺に本物の怖さとは何かを教えてくれたような気がした。

 

 

「なんだったの、お前」

「気にするな。お前の存在価値くらいどうでもいいことだ」

「それが親友に対する態度ですか!?」

 えっほえっほと校庭を走る男子高校生2人。これが体育の授業中ならば怪しくもなんともないが、今は3限と4限の間である。教室移動のある生徒達の視線が痛い。

「っていうか、10分で50週って無理だろ……」

「確実に生徒いじめだな」

 くそ、まだわき腹がジンジンする。どうやら小夜に思い切りシャーペンで突き刺されたらしい。

 そして、元凶であるところの小夜はといえば、憎たらしくも俺達の周回を計っている。

「あと43週です! 直樹さん、桜乃さん、頑張ってください!」

 やかましい。

「もう疲れた……。おし、サボろうぜ」

「……実は俺達はさっきからずっと監視されてたんだ。最後まで誠実に走っていた俺は合格だが、サボろうとしたお前は許されないだろう」

「マジかよ!? ど、どどどうすればいいんだ!?」

「安心しろ。このまま50週走りきればいい。そうしたら許してもらえるよう俺が頼み込んでおいてやる」

「サンキュー狭山! やっぱ持つべきものは友達だよな!!」

 さ、鬱陶しい奴は勝手に走り始めたし、4限が始まる前に教室に戻るとするか。

 

 

 時は流れ、昼休み。

「さ、狭山」

「碧海。どうしたんだ?」

「い、いや、その……」

 今日は桜乃もいないし藤阪も寝てるしどこで食べようかと考えていると珍しく碧海が席までやってきた。

「狭山は昼食はどうするつもりだ……?」

「まあ後ろがこんなんだし、適当に購買でも行こうかと」

 そういえば死神は昼休みにどこに行っているのだろうか。休み時間にもほとんど姿を見かけないが。

「で、ではその……っ、きょ、今日はたまたま、弁当が余っているのだが……」

「……はい?」

 

 

「あの……直樹さん? どういうことでしょうか」

「いや、俺に訊かれても……」

 碧海が出してきた自称弁当の余りはまるまる一人前、これが弁当ですよと言われて違和感なく受け取れるものだった。

「なあ碧海、弁当というのは余るものなのか?」

「あ、ああ。余るんだ」

「……そうか。なら仕方ないな」

「ああ、仕方がない」

 色々質問を心の底に放りやって、弁当箱の蓋を開ける。

「おぉ……?」

 色鮮やかなおかずが敷き詰められていて、見栄えは非常に良い。

 良いのだが、昨日もらった弁当とどこか違うような気がする。

「な、何かよくないだろうか……?」

 不安気に見つめてくる碧海の手はよく見ると絆創膏だらけだった。

「……もしかして、お前が作ったのか?」

「す、すまない! こっちのは母上が作ったものだから、これを食べるといい!」

 いや、そうじゃなくてだな。

「ありがたくいただ――」

「よかったですね? 直樹さん。手作りのお弁当ですよ?」

「……くよ、って、あの、小夜さん?」

 なんだろう、原因不明の寒気を感じる。

「……『小夜』? 今までは厄病神と呼んでいなかったか?」

「あ、ああ。まあ色々あってな」

「…………」

 ずい。

 弁当箱が俺の手元に押し付けられる。

「あの、碧海?」

「さあ。味の感想を訊かせてくれ。今後の参考にしたい」

「……あ〜……」

「そうですよ直樹さん? せっかくのご厚意なんですから、わたしのことなんて気にせずにどうぞ」

 ……志願者がいるなら今すぐ俺のところに来い。代わってやるから。

 

 

「お前……いっぺん死んで来い……」

「精神的に死んできたから大丈夫だ……」

 昼休みの終わりに満身創痍の桜乃が帰ってきたが、こっちもそれどころではなく、結局2人して机にへばりつく羽目になったのであった。

 

 

 放課後になり、さて帰ろうかと学校を出ると、校門の真正面に見慣れた車が停まっていた。

「……あれって、ネーベルさんの……」

「……だよな」

 とりあえず窓を軽くノックしてみる。パワーウインドウが開いて、中から高橋さんの顔が現れた。

「これはこれは狭山様。お久しぶりでございます」

「ネーベルの迎えですか?」

「はい。お嬢様もとうとう学校へとお通いになられるようになり、我々も一安心でございます」

 昼間にあいつがいない分執事も暇だろうからな。少しは楽になったのだろうか。

「……それが、そうもいかない状況でございまして……」

「なにかあったんですか?」

「はい……おや、お嬢様がいらっしゃいましたね。この話はまた機会があれば」

 振り返ると、やたらと目立つ銀髪の少女が日傘をさしてこちらへ向かってきていた。

「ナオキ」

「よ」

 小夜にも挨拶をして、ネーベルは車に乗り込んだ。

「いかがでしょうか? もしよろしければ屋敷へお寄りになるというのは」

「あー……小夜、どうする?」

「うーん……玉藻さんも待ってますし、今日は買い物に行かないといけないから、時間があんまりなさそうです」

「……すいません、今日はちょっと無理みたいです」

「左様ですか」

 ネーベルが何やらものすごく残念そうな顔をしているのが視界の端に見て取れたが、今度また改めて遊びに行くとしよう。

「ところで、幽霊のお嬢さんとは何かございましたか?」

「分かるんですか?」

「あなたの態度が以前と比べてほんの少し柔らかいものになっておりましたので」

 一流の執事というのはこういうものなのだろうな。高橋さんに隠し事は出来なさそうだ。

「では、我々はこれで」

 そう言うと、黒ベンツはその場から走り去っていった。

「そういえば死神は?」

「たぶん先に帰ったと思います」

 今度からはどうせだから3人でまとめて帰るか。

 

 

「ただいまー」

「よく帰ったの!」

「おかえりなさい、ですよ。玉藻さん」

「むう……おかえり」

「今日の夕飯は何だ」

「ハンバーグだそうだ」

 家に帰ると誰もいない、なんてことは当然なく、俺達はいつも通りの生活に戻った。

 家族というものを、感じながら。

辻「これはアレですか? 作者を撲殺していいという神さまの思し召しですよね」

舞「証拠の残らない方法を探しておきましょう」

松「あの、貴女たち……冗談、よね?」



というわけでこんにちは、ガラスの靴です。

いやーようやく更新できました。

あんまりいいネタが思いつかなかったのもあるのですが、新生活が予想以上に忙しく、特にここ数日は軽く限界突破してました。


とはいえ、なんとか『更新停止』と言われないギリギリのラインで踏みとどまれたんじゃないかな? という気はするので結果オーライということで。


楽しみに待っていてくださった読者様、本当に申し訳ございませんでした。

……待ってない? またまたそんなご冗談を〜。

……冗談じゃない? あはは〜……


さて、どうやら100話を突破しそうですね。

100話になった時にちょっとした企画を考えているので、もしよければそれまでお付き合いください。


ではでは〜!

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厄神様とガラスの靴
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