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第89話:厄神様はかく受け入れ

それでも、僕は――

 どこをどう走ったのか定かではない。

 気が付くと、街を見下ろすことができるちょっとした丘へ来ていた。

 一番上は展望スペースになっていて、こじんまりとしている割にはいい眺めを堪能することができる。

 そこから街を見て、初めて気付いた。

 

 

 ……俺は、大切なものをなくしてしまったんだ。

 

 

 膝の力が抜けて立っていられなくなりそうなのを、手すりを握り締めてなんとか堪える。

 あいつらが来なければきっと知らなかった、この気持ち。

 あいつらが来なければきっと気付かなかった、あの楽しさ。

 俺は、あいつらと一緒にいたかった。

 もっとずっと、一緒にいたかった。

 それでも、もう声は届かなくて。

 

 

――……!!

 

 

 零れた叫びは、ただ街へと消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「直樹さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 声が、した。

 

 

 振り返りたくて、でも振り返るのが怖くて、街を見たまま、ただ立ち尽くす。

「直樹さん」

 もう一度、声が聞こえた。

「……ちょっと、聞いてくれるか?」

「……はい」

「俺は、今まで平穏に生きてきたんだ。そうしたら突然変な幽霊がやって来て、それから散々な目に遭った」

 それでも、俺は思ったんだ。

「楽しかった。斬られかかったのも、トラックが突っ込んできたせいで外泊を強いられたのも、車に轢かれて退院してパーティーして、吸血鬼に記憶消されて殺されかけて血を吸われて。全部全部、楽しかったんだ」

 変な話だよな。

「……変じゃないです。わたしも、とっても楽しかったです」

 後ろからの声は、少しだけ弱弱しくて。

「……わたしの話も、聞いてくれますか?」

「……ああ、いいぞ」

「わたしは、ある人と出会いました。その人はとっても厳しくて、でもとっても優しくて、わたしはいつも助けられてばっかりで」

 そうかね。どうせろくでもない男だろ。

「いいえ、そんなことないです。その人は、学校でもたくさんお友達の方がいて、楽しそうで、わたしがそれを邪魔しているみたいでした」

 なんでそんな風に思うんだ。そんなこと言われたことないだろ。

「はい。その人もそう言ってくれました。でも、ずっとそんな気がしてたんです」

「……そいつ、最悪だな」

「……そんなことないです」

 なんて、意味のない会話なんだろう。

 どうして、ずっと続いて欲しいと思うのだろう。

「でも、きっとな。きっとそいつ、こう思ってるぞ」

 朝日が眩しくて、ろくに街が見れない。

「お前のこと、家族だって。かけがえのない、家族だって」

「……わたしは、家族でいられるんでしょうか。いていいんでしょうか」

 俺の家には幽霊が住んでいる。

 そいつはいつも自信なさげで気が弱くて、それでも誰より優しくて。

 そんな奴が、厄病神なのだろうか。

 幸せを奪い、不幸を運ぶ、忌むべき存在なのだろうか。

 いや――

 

 

「当たり前だ」

 

 

 そんな呼び名はもういらない。

 そんな呼び名はなくていい。

 だから、俺は振り向いた。

 

 

――そこにいる家族の一員を、迎えるために。

 

 

「おかえり、小夜」

「……ただいま、ですっ――」

 

 

――ドスン。

 いきなり飛びかかられたと思ったら、背中に衝撃。

 もしや手すりが壊れて展望台から落ちたのだろうか。

 目を開けると、見慣れた天上が見えた。

「…………は?」

 首をひねればそこはベッドで、乱れた布団が半分もベッドからずり下がり、それにくるまれた俺は床にアホみたいに横たわっていた。

「…………」

 起き上がって窓を開ける。

 暗闇の中ぽつぽつと光る夜空の星や街頭、人っ子一人通らない道路は今が結構な深夜であることを教えてくれた。

 次に机で充電してある携帯電話を手に取り、待ち受け画面を表示する。

「7月5日・火曜日……、03時20分……」

 …………。

「夢ぇぇぇぇーーーーーーーーー!?」

「どどどどうしたんですか直樹さん!? 何があったんですか!?」

「うるさいわー! あんみんぼうがいでうったえるぞ!」

「近所迷惑だ。発狂するならせめて時間と場所を考えろ」

 近所の皆さん、本当に申し訳ない。

 

 

 その後はまったく眠れず、生まれてから数えるほどしか見たことのない日の出を拝んだ俺は普段より少し早くリビングに降りて行った。

「あ、おはようございます直樹さん」

「今朝は早いな」

「……ああ、おはよう。ちょっとした悪夢を見てな」

 ……夢。

 なのか、あるいは何かの超常現象が働いたのか。

 どっちにしたって今の俺には知る由もないが。

「夢……ですか? そういえばわたしも少しおかしな夢を見たような気がするんですけど……。なんだか直樹さんとお話をしていたような――」

 ……今の俺には知る由もない。わかってる。

「あれ? どんな夢だったか忘れてしまいました……。さっきまで覚えてたと思うんですけど……?」

「いや、もういい。それより小夜、朝食作ってくれ」

「あ、はい。 分かりました」

 …………。

「……? あれ……?」

 いいから作れ。

「……ええぇぇぇぇぇぇ!?」

 おい、煩いぞ。

「な、なんじゃ!? どうしたのじゃ!?」

「今日は随分と叫び声を聞く日だな」

「い、い、いま、直樹さん……!!」

「なにか文句でもあるのか。あるなら――」

「い、いえ! ないです! ぜんぜん!」

「なんじゃ? 珍しく小夜がおかしなことになっておるの」

「……家族、というわけだ」

「…………?」 

 呼び方を変えたからといって、何かいいことでもあるはずがない。

 ただまあ、人生には変化が必要なのさ。

「小夜。……改めて、よろしくな」

「……? あ、はい! よろしくお願いしますっ」

 結局のところ、俺はどうやらこの騒々しい生活が割と気に入っているようだ。

 

 

 幽霊と死神と妖怪との暮らしは、今朝も好調である。

死「ご愛読ありがとうございました」

直「待て待て待て待て! それは冗談にならん!」

玉「『がらすのくつ先生の次回作にご期待――」

直「嘘のカンペ読むなぁーーー!!」

小「なんだかよくわからないうちによくわからないことになってました……」

神「はっはっは! 直樹氏の努力の賜物さ!」

ネ「半分以上貴様がたきつけたじゃないか」

藤「ホントにこれで最終回だったら暴動ものよ! あたしたち全然出てないじゃない!」

桜「まったくだ! 狭山の親友というポジションにありながらアドバイスにすら出てこなかったし!」

辻「桜乃センパイは出なくてもいーんじゃないですかねー?」

桜「なんですとーーー!?」

舞「せまいです」

碧「それにしても、私の知らないうちにまさかこんな事態になっていたとはな……」

松「どういうことかしら? 私にはさっぱり状況が飲み込めないのだけれど……」

拓「きっと僕たちは知らなくていいことなんでしょう」

す「わたしも知りたいのにー……」

死「それでは皆様ご一緒に。『ありがとうござ――」

直「だから違うわーーー!!」 

小「え、えーと、これからもいろんなことがあるので、もしよろしければもうしばらくの間お付き合いください!」

 

 

終わったぁーーー!!

やっとこさ元の生活に戻りました。

イライラしながら読んでくださった方々、本当にありがとうございました。


さて、最終回でもおかしくない今回のお話でしたが、最終回ではありません。

もうちょっとだけ続くんじゃよ。


彼ら彼女らは変わらず今の生活を続けていきますし、少しずつ変わっていきます。

今回のお話でどこが変わったかはもはや言う必要はありませんね。


というわけで、小説で言えば読み切り1巻が終わり、シリーズ化するかどうかは読者様の反応しだいという段階あたりでしょうか。


ちなみに色んなものに展開が似ていると思われるかもしれませんが気にしてはいけません。

そんなものは自販機の下に転がっていった100円玉くらい忘れるべき存在なのです。


いやぁ〜、本当は言いたいことがいっぱいあったんですよ。

でもあとがきも変なモノローグに占領されちゃったんで、ここまで何にも言えなくなっちゃいました。



というわけで告知!


「厄神様とガラスの靴」


はい皆様! このタイトルに見覚えはあるでしょうか!?

ないという方は今ここで覚えちゃってください!

あるという方は何を言いたいかもうだいたい分かっていると思うので今さらと思いながらも熟読してください!


当方「ガラスの靴」は、この小説の補完を目的としたブログを設立しました! ブログを設立しました!

(大事なことなので2回言いました)


パソコンでご覧になっている方はきっといたるところでこのブログへのリンクを目撃していることでしょうが、まだ見たことがないという方はこのあとがきの下にきっとリンクが貼られているはずなのでご覧ください!


携帯でご覧になっている方は今設置を終えたのでもうリンクできると思います!

携帯ユーザーに優しくないレイアウトですがよかったら覗いてみてください!



ふぅ……。こんなもんですかね。

あとがきが長いというのも自販機の下に(以下略)

ではでは、また次回!

ありがとうございました〜!

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厄神様とガラスの靴
こっそり開設。
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