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第8話:厄神様はかく説けりし

後編です。

思いのほかシリアスな空気が強くなりました。

「ソレは、なんだ」

 ソレ……?

「あ、ああ。この服か? これは俺の母親に買っておくよう頼まれた最新の……」

「そうではない。お前の後ろにいる、その女は誰だと訊いている」

「え……」

 全身に鳥肌がたつ感触がした。

 汗腺が開き、暑くもないのに嫌な汗が吹き出る。

「人間ではないな。怨霊の類か」

「な……何を言っているんだ? 何もないじゃないか」

「気付いていないのか……ならばいい、私が(はら)ってやる」

 どういうことだ厄病神。お前の存在は他の人間には見えないんじゃないのか。いくら厄を呼び込むのが仕事だといっても、自分の体を張ってまでやることじゃないだろう。

「狭山。ついてこい」

 

 

 俺は碧海の家まで連れて来られた。こいつの家に来るのは久し振りか。俺の家など比べ物にならない広大な敷地に、これまた俺の家の数倍の広さをもつ専門の道場。俺たちはそこに案内された。

「お前には霊が憑いている」

 なんでこいつには見えているんだ。厄病神、お前もなんか言え。いや、言ったらまずいのか?

「…………」

 おいおいおい、何で沈黙しているんだ。そんな追い詰められたかのような顔をするな。

「……やはりお前自身も気付いているようだな」

 しまった。つい厄病神を見てしまった。

「理解していないようだから言っておく。ソレは霊だ。それも、恐らく悪霊の類のものだ」

 なかなか鋭いな。

「数日前にお前を助けた時から気にはなっていた。お前の周りに負の気が漂っていたからな」

 これはもしかしなくてもまずいんじゃないだろうか。見ろ、碧海は話しながらも道場の奥に掛けてある刀を手にとっているではないか。なんでそんな物があるんだ。

「その時は気が付かなかったが、今日お前の後ろにいるソレを見て確信した。ソレは近い内に必ずお前に害悪をもたらす」

 そういえばあの時は厄病神がいなかったな。というか既にもう被害に遭っている気もするが。

「と、というかだな、そもそも霊だの何だの言っているが、お前はなんでそんなものが見えるんだ?」

「私の家は代々退魔の仕事を請け負っている」

 初めて聞いたぞそんな職業。

「私もその跡取りとしてそれなりの稽古を受けてきた。安心しろ、お前には一切危害を加えん」

 そんな刀持ちながら言われても。

 碧海が刀を抜くと冷たく光る刀身が顔を除かせた。よりによって真剣か。

「悪霊よ。今すぐ立ち去れ。さもなくば……斬る」

「待て待て待て待て!」

 ここで止めないわけにはいかない。おい、お前も何とか言え。

「私は……」

 そうだ、神様修行だと言え。それなら悪霊呼ばわりされることもない。

「直樹さんの幸せを分けてもらっているんです!」

 くらっときたね。

 どうしてわざわざそっちを言うのか。碧海も理解が追いついていないみたいだ。

「……悪霊、貴様の目的は理解した」

 わかってくれたかと思ったが違った。目が据わっている。

「理解した上で、斬る」

「きゃあ!!」

 殺那、碧海の姿が一瞬ぶれたかと思うと、俺の後ろで厄病神が浮いていたところを一閃していた。厄病神が避けていなければ恐らくそのまま昇天していたことだろう。

「お、おい!」

「狭山は黙っていろ!!」

 そうはいくか。

「最後まで話を聞け! そいつは神様だかなんだかになるために俺の幸せが必要なんだよ!」

「そんな話は聞いたことがない!」

 奇遇だな、俺もなかった。

「あ、碧海さん!!」

 俺が碧海をどうにか説得できそうな文句を考えていると、厄病神自身が碧海の正面に立った。汗びっしょりで、体も震えているが、真っ直ぐに碧海のことを見つめている。

「私は、神様になりたいんです! 困っている人たちを助けたいんです! ………そのためには、直樹さんの幸せが必要なんです」

 大きく息を吸って、厄病神は続けた。

 もう、体は震えていなかった。

「碧海さんも、誰かを幸せにしたいと思いませんか?」

「……私は……」

「碧海さんの考える幸せがどのようなものなのか、それを叶えるために何をすればいいのかはわたしにはわかりません。でも、私が幸せを届けるためにはまず直樹さんの幸せが必要なんです」

「……刀を収めて、くれませんか?」

 静かに、しかし曲がらない口調。迷いのないものだった。

「……狭山は、いいのか?」

 碧海は刀を下ろし、振り向いて俺に問いかけた。

「……碧海。俺は、そこの厄病神が言っている皆の幸せがどうとかには正直興味がない。ただ……」

 自分本位な考えかもしれないが、思う。

「俺の知ってる人が、少しでも幸せになれるようにとは思っている」

 もちろん、お前もだ。

 しばらく沈黙が場を覆い、やがて刀を鞘に収める音がした。

「碧海……悪い」

「まったく……。お前がそんなことを言うとは思わなかった」

 俺もそう思う。似合わないことは言うもんじゃないな。

「その悪霊……いや、神様になる、だったか? その霊が来たからか、お前が変わったように思う」

 そうかね。俺にはわからん。

「そこの霊」

「は、はいっ!?」

「お前がやろうとしていることは一方違えれば一人の人間を抜け殻同然にすることだ。それを忘れるな。万が一狭山がそうなりかけたときは、今度は狭山が何を言おうとお前を斬る」

「……はい! わかりました!」

「狭山、すまなかったな。お前自身が選んだことなら私に口をはさむ余地はない。だが、立場が立場だ。あまり無理はするなよ」

「あ、ああ。こっちこそ悪かった。恩に着る」

 そうだ、そう言えばこの間助けてもらった礼もまだしてなかったな。

 俺が情けなくもへたり込んでいた腰を叱咤(しった)し立ち上がろうとすると、綺麗に掃除された道場の床にかかる摩擦力が限界を超えた。

 簡単に言うと、滑った。

「やばっ……!」

「直樹さん!?」

「!? さやっ……ま……?」

 俺の体は必死に安定を求めて目の前にあった碧海を補足、無意識のうちにしがみついていた。

「何を……」

「やっているんですか……?」

 な、なに?

 碧海はともかくなんで厄病神まで一緒に黒いオーラを出しているんだ?

 俺の危機察知能力が警鐘を鳴らし、能細胞から発令された指令に従って逃走を試みる。

「どこに行くつもりだ?」

「ちゃんと説明してくださいね?」

 失敗。

 首根っこを猫のように掴まれ、両手を後ろ手に拘束されたまま、俺はいつの間にか結託していた碧海と厄病神によって道場の奥へと消えていった。

 

 

 なんだこれは? 誰がオチをつけろなどと頼んだ。

 俺の心の声が彼女達に届くことは遂になかったのであった。痛い。


真面目な話を書く力が欲しいです。

初めて感想を頂きました。

冗談抜きで涙が出るほど嬉しかったです。

わざわざ感想を書いていただいた人のためにも面白い話を書いていきたいのですが、難しいものです……。

今回は特に難産でした。激しく自信がありません。

自分で面白いと思うものが作れないのは世間一般で言うスランプなのでしょうか。早いよ。

気を取り直して次回は、新キャラ登場の予定です。

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厄神様とガラスの靴
こっそり開設。
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