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第88話:厄神様はかく霞みき

誰もいなくなった世界。

ただひたすらに廻り続ける世界。

 

 

第88話をどうぞ。

 街の音。

 決してなくならない、人の音。

 人が在る限り、なくならない音。

 誰かが在らずとも、なくならない音。

 

 

 自分のおかれた状況を理解した時には、俺はもう校門へ走り出していた。

 どちらかの世界、だと。

 えらく大迎な響きの癖に、実際選ぶのは人外どもがいていいか否かだけだ。

 では俺にとって奴らはどんな存在だ?

 あいつらは、この世界に存在していていいのか?

 

 

――ああ、そうだ。1つ言い忘れていたよ。

 校門を出たところでどこからか声が聞こえてきた。もはや突っ込む気力も余裕もない。

――君のことだから、どちらの世界を選ぶか、などという質問は無意味だったかもしれないね。

 残念だったな、まだ考え中だ。

――選ばれなかった時は……ま、大人しく消え去るとしよう。

 お前もか。生徒会長がいなくなったら学校は大変だぞ。

――そんな君に忠告しておくが、夜明けまでに選べば良いのではない。夜明けまでに、証明するんだ。

 また証明か。俺は数学に嫌われたから文系なんだぞ。

――君は、どう思っていたか。そこをよく考えることだ。

 それっきり声は聞こえなくなった。

 ……俺は。

 

 

 今は何時頃なのだろう。

 深夜ということだけは分かるが、残念ながら携帯は電池切れ、時計も見当たらなかった。

 毎日充電しているんだけどな。

 

 

 俺の家には誰もいなかった。

 改めて自分の置かれている状況に戸惑いながら、ひとまず寒さ対策のコートを羽織り、もう一度街へ飛び出す。

 あいつらがどこにいるかなんて分からない。

 がむしゃらに探し続けるだけだ。

 

 

 俺は、平穏な生活が割と気に入っていた。

 もっと言ってしまえば、好きだった。

 このまま変わらないでいて欲しい、そんなことを考えながら日々を過ごしていた。

 それなのに、ある日突然現れた幽霊が俺の日常を全て引っ掻き回し始めた。

 

 

 俺は、1人暮らしが割と気に入っていた。

 もっと言ってしまえば、好きだった。

 どうせなら父さんも母さんもこのまま1人暮らしをさせてくれれば、そんな希望を抱きながら日々を過ごしていた。

 それなのに、ある日突然押し掛けた幽霊と死神と妖怪と同居することになった。

 

 

 俺は、神を信じていなかった。

 もっと言えば、妖怪も幽霊もいる筈がないと思っていた。

 もしもいるならこんな世界をどうにかしているはずだ、そんな反発を持ちながら日々を過ごしていた。

 それなのに、ある日突然訪れた友人が自分は神だと言ってきた。

 

 

 俺は、人に関心を持たれることに慣れていなかった。

 もっと言えば、できる限り知らない人間と関わろうとしなかった。

 俺なんかと関わっていていいことなんてないだろう、そんな自虐的な思考で日々を過ごしていた。

 それなのに、ある日突然襲ってきた吸血鬼はえらく俺の血がお好みのようだった。

 

 

 俺は、どうだったのだろうか?

 あの幽霊は、あの神様は、あの死神は、あの妖狐は、あの吸血鬼は、邪魔だったのだろうか?

 平穏な日常を生きていく方が、ずっと望ましかったのだろうか?

 

 

 ……そんな訳がない。

 俺は邪魔な奴を家に居候させるほどお人好しじゃない。

 平穏を望んでいたら、自分が神だなどという告白を信じる訳もないし、吸血鬼に血を吸わせる訳もない。

 ああ、楽しかったさ。

 平穏な日常なんてものがどんなものなのか忘れてしまうくらい、楽しかった。

 

 

 でも。

 それでも、あいつらはいない。

 それでも、あいつらは見つからない。

 なんでだ、もう充分だろ?

 これ以上はルール違反だ、違うか?

 

 

 人は、明ける夜を待って眠る。

 それはすなわち、明けない夜はないということだ。

 明けない夜を望む事は、罪なのだろうか?

 止まない雨を望む事が、罪であるように。

 

 

 空が白み始めた。

 気付けばもう随分と時間が経っていた。

 日の光から逃げるように、走る。

 お願いだ、待ってくれ。

 まだ、終われない。

 終わるわけにはいかないんだ。

 

 

 時は流れる。

 本当に進んでいるのか疑わしくなるほど変わらないまま。

 だが気付けば戻れないところまで変わってしまうほどはっきりと。 

 

 

――夜が、明ける。

僕の世界は、終わりを告げた。

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厄神様とガラスの靴
こっそり開設。
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