第86話:厄神様はかく巡りき
もし『あの人』がいなくても。
第86話をどうぞ。
夜。
街頭や信号機、自販機の明かりだけが街を照らす。
家々は温もりを忘れてしまったかのように暗く、冷たく佇んでいた。
「それにしても、神楽はどういうつもりで……?」
まず確信を持って言える事は、これが伊達や酔狂でやっていることではないということだ。
神楽は間違いなく何らかの目的を持って俺をこんな状況に落とし込んでいる。
ではその目的は何か。
分からん。
なんにしても、とっとと神楽を見つけて答えを聞くまで確かな事は何も分からないな。
そんなことを考えているうちに、俺は最初の目的地に到達した。
学校。
夜の学校といえば怪談の定番スポットだが、明かりが一切ついておらず、非常灯の僅かな光のみが輝くその姿は改めて今の非常識な事態を認識させてくれた。
校門は当然のように固く閉ざされていたが、不本意にも既にこの状況に適応しつつある俺の判断によりそのまま乗り越えることにした。
「ここ全部探すのかよ……」
5階建て校舎を見上げて呟き、ふとそれが独り言であることに気付いた。
「……どうも、あの状況に慣れすぎたみたいだな」
文句を言っても、突っ込みをいれても、それとなく反応してくれていた幽霊。
思えば、ここのところあまり話をしていない気がする。
俺はひとまず死神の言葉を頼りに自分の教室、3−Dから探すことにした。
「よく来たな」
「えー」
3−Dの教室、その教壇に死神は立っていた。正直に言おう、拍子抜けだ。
「あのさ、この際贅沢は言ってられないんだろうが、俺としては校舎内を探し回ることを予想していたんだが」
「最初からそうしてもよかったのだが、少しばかり難易度が高すぎると思ってな」
マジでゲームの主人公になったような気分だ。
「さて、お前がここに来た以上俺はお前に伝えなければならないことがある」
「このゲームもどきの目的か?」
「それはここでは言えない。俺が言えるのは、以前と同じだ」
俺と厄病神の関係。
そう言い残して、死神は教室を出て行った。
「お、おい! だから意味が分からな――」
慌てて廊下に飛び出すと、そこにもう死神の姿はなかった。
なんなんだ。
「……というか、次はどこへ行けばいいんだ?」
死神がいた教壇の周りを探すと、教卓の上にメモを見つけた。
『油揚げ』
「…………」
あいつもいるのか。
さて、油揚げという単語と結び付く知り合いは玉藻しかいないわけだが、場所が問題だ。
教室のどこを探しても他のメモは見つからなかった。
「ということは、これが場所のヒントにもなってるってことか……」
油揚げと聞いて最初に連想するのはなんだろう。
考えるまでもなかった。きつねうどんだ。あいつの好みを考えるとそれ以外は想定していないだろう。
「きつねうどん……確かこの前学校の近くにチェーン店がオープンしたよな」
ひとまずそこへ行こう。
『うどん処・きつね』。それがチェーン店の看板に掲げられた店の名前だった。余計なお世話かもしれないが、もう少しマシなネーミングはなかったのだろうか。
とりあえず反応のない自動ドアを無理やりこじ開けると、店の中は暗く、誰かがいるような雰囲気ではなかった。
「あれ、違ったか……?」
ひとまず厨房の方まで行くと、そこにはきつねうどんの調理法などが書かれた紙が何枚か貼ってあった。その中の1つに『油揚げ・緊急時の確保先』と書かれたA4くらいの張り紙がある。
『仕入れミスなどにより油揚げの在庫が無くなりそうな時はすぐさま店長に報告すること。店長不在の場合は、連絡をとった後下記の店から買い取ること』
張り紙の下半分は地図になっていた。どうやらここからそう遠くないらしい。俺ははがした張り紙を片手に商店街へと急いだ。
「『うどん処・あぶらげ』……」
親子揃ってネーミングセンス皆無だな。ん? 親子?
「まあいいか……」
鍵のかかっていない引き戸をガラガラと開けると、ムワっとだしの香りが鼻をくすぐった。玉藻がきつねうどんを嬉しそうな顔でほおばっていた。何杯も。
「お前な……」
「んん? なんじゃ、お主も食べに来たのか?」
この異常事態の中呑気にきつねうどん啜りに来る奴なんざお前くらいだろうよ。神楽から何か聞いてないか?
「おお、そうじゃったそうじゃった。おぬしが来たらこれを渡せと言っておったの」
よかった。話が早くて助かる。
とぬか喜びさせたかったのだろうか、玉藻が持ってきたのは俺の予想を遥かにぶっとんだ一品だった。
「これはおぬしが食わねばならぬらしいのじゃ。まったく、わらわに食べられた方がきつねうどんも喜ぶものを」
「……なに、これ?」
「なにって、見れば分かるじゃろ。きつねうどんじゃ」
そりゃきつねうどんだってのは見れば分かる。問題なのはなんできつねうどんなんて出されなければならんのかということだ。
「食べきればいいことがあるらしいぞ」
「…………」
仕方がないので玉藻の横に座って食べ始める。うん、美味い。出来る事ならもっとまともな状況で食べたかった。
数分後、だし汁を飲み干すとどんぶりの底に文字が浮かんでいた。これが目的か。
「おお、おもしろいの! わらわにも見せるのじゃ!」
「遊びでやってるわけじゃないんだが」
玉藻は俺からどんぶりをひったくり、読み上げる。
「あくまじょうど――」
「それ以上言わなくていい」
「なんじゃ、まだ言い終わっておらぬぞ」
いいから終わっとけ。
ネーベルの屋敷はいつもと変わらず闇に溶け込んでいた。
今回は外で待っていても誰も出てこない。仕方がないので門を開いて屋敷の中へ進んでいった。
「ネーベルの部屋ってどこだっけ……?」
そもそも行ったことがあるだろうか。
いつもネーベルと会っていたのは応接間だったような気がする。
俺はひとまずそこへ向かうことにした。
「なんだ、意外と早かったな」
「余計なお世話だ」
ネーベルは応接間で退屈そうに本を読んでいた。昼間ならばお嬢様らしかったのだろうが、今では気品の欠片もない。
「まったく、神のすることはよく分からないね。最近は退屈だったからまあいいが」
心底面倒くさいような顔をして本を閉じる。ここにはネーベル以外はいないのだろうか。
「今日は私しかいない。明日は……まあ、お前しだいだろうよ」
「意味が分からん」
「まあ分からなくとも構わないさ。それじゃ、神からの伝言だ。『いつもの場所で君を待つ』だそうだ。何のことだ?」
とりあえず無駄に格好つけてるのは分かるな。
「なんにしても、これであとは神楽と厄病神だけだな」
「……厄病神?」
「ああ、あいつもこっちに来てるはずなんだが。そういうのは分からないのか?」
「……ま、そういうことだな」
退屈なら霧にでもなればいいのではないか。
そう思って部屋を出かけた体をまた後ろに回したが、そこにはもうネーベルの姿はなかった。本当に霧になったのやら、はたまたこの妙ちくりんな世界から抜け出したのやら。
死「ここに来るのも久しぶりだな」
玉「じゃの」
ネ「私は別に来たくなかった」
藤「あ、帰ってきた」
辻「あーあ、これで私たちの天下も終わりですねー」
碧「そもそも始まっていたのか?」
厄神様1回も出てないのにタイトルどないせーっちゅーねん。
どうもこんにちは、ガラスの靴です。
最近はサブタイトルを半分諦めながらつけてますが、今回ほど難しい回はありませんでした。
さて、死神と玉藻とネーベルはこれでお役御免です。
残るは……
ではでは、次回をお楽しみに〜!




