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第85話:厄神様はかく捜せり

もし『あの人』がいなかったら。



第85話をどうぞ。

――バタン!!

「……ハァ……ハァ……」

 死神の部屋はもともと空き部屋で、使っていない布団なんかを入れていたところだった。

 死神が来てからはそれを押入れにしまい、部屋には制服と勉強道具と布団だけという生活感をいまいち感じられない風景が広がっていた。

 いま、死神の部屋には布団がたたまれていた。

 ……いや、布団しかなかった。

「……くそっ!」

 玉藻の部屋へ駆け込む。

 整理しろと散々俺や厄病神に注意されても収納というものを覚えなかった成れの果て。

 そんなものは、なかった。

「…………」

 誰もいない。

 いや、誰も『いなかった』。

 あまりにも理不尽で、あまりにも納得のいかない現実を突きつけられて、俺はそこにずるずると崩れ落ちることしかできなかった。

「……はは……」

 自虐的な笑いがこみ上げてくる。

「意味、わかんねーから……」

 こんなことされて喜ぶ奴なんていないだろうよ。

 なら、それを分かっていながらあえて実行に移せる奴は誰だ?

 

――『もし誰かがなかったら』と考えた事はあるかね!?

 

 脳裏に、何も考えていない風でいながら何を考えているのか分からない1人の男の姿が浮かぶ。

「……神楽……」

 どういうつもりでこんなことをしたのか知らないが、少なくともこんなことができるのはあいつくらいしかいないだろう。

 俺は震える膝を叱咤して立ち上がると、制服のまま外へ飛び出した。

 

 

「ハァ……ハァ……ッ!」

 神楽と市原の住むマンション。

 そこへ向かってひたすら走る。

 仕事帰りのサラリーマンが家へと帰ってくる時間帯だというのに、不思議と辺りに人影はない。

 そのことに妙に納得しながらも、俺はひたすらにマンションへと走り続けた。

 

 

「市原の部屋は……!? 何号室だ……!?」

 マンションの玄関ホールに辿り着いたものの、市原と神楽がどの部屋で生活していたかなんてことを気にも留めなかったことが今になって響いてくる。

「……くそっ!」

 たまらず玄関ホールを飛び出して、マンションの裏手に回り、1階部分の通路へよじのぼった。

「これで警備会社だけ普通に勤務してたら訴えてやるからなっ」

 再びロビー内側へ戻り、ロッカーの名前を確認する。

「……502号室……市原……」

 それだけを認識すると、俺は階段を駆け上って5階へ。神楽の部屋は市原の隣、つまり501号室だろう。

――ドンドンドン!!

「おい神楽! 開けろ! 話がある!」

 ドアを叩いても呼び鈴を連打しても反応がない。ひょっとして反対側だったろうか。503号室に回りこんで再び呼び鈴を押す。

「……いない……?」

 こちらも反応がない。

 表札をよく見ると、まったく別の名前が書かれていた。

「……なんなんだよ!?」

 この際仕方がない。市原の部屋で呑気に夕食でも食べている可能性もある、俺は市原の家のドアをノックした。

「……反応なしか……」

 少し冷静になってあたりを見回す。

 静か過ぎた。

 人の迷惑も知らずに自己満足でマフラーを吹かせているバイクの音も、ただどこかへ行こうと走らせている車の音も、労働者を最寄の駅まで運搬する電車の音も、一切聞こえない。

 ……いや、そんなものが、ないのだ。

「……なんなんだよ……」

 いきなりこんな世界に放り込まれても、俺はアクション小説の主人公なんかじゃないんだ。謎を解いて元の世界に帰るなんて真似できるか。

 夢だと信じて自分の家のベッドに潜り込みたい衝動を必死に堪えてもう一度501号室へ。深呼吸をして、ノックなしにドアノブを回す。

「……開いた」

 ドアはわずかに軋む音を立ててゆっくりと開いた。部屋の中へ入る。

 501号室は、空き部屋になっていた。

 そのリビングとも言える突き当りの一番大きな部屋、その真ん中に1枚の紙切れが落ちていた。

『神の存在を証明せよ』

 ふざけている。

 そんなものはプラトンかアリストテレスに頼め。

 そう思って放り投げようとしたその時、裏面にも何か書いてあることに気付いた。

『君にとって、最も確かな方法で』

 ……間違いない。

 これは神楽が書いたものだ。

 そして、嫌がらせか悪意で俺をこんな孤独な世界に放り込んだわけでもなさそうだ。

 なんとなく、この裏面のメッセージがそれを伝えてくれた。

「……確かな方法、か」

 神の存在証明。

 キリスト教の信仰に哲学的・理性的根拠を与えるための努力で、自然が存在する以上その作者がいなければばならぬといった宇宙論的証明や、神は完全である、したがってその完全な中には存在というものも含まれなければならず、つまり神が完全であるためには存在することが必然であるという存在論的証明、他にもいくつかの証明法が模索されてきたが、俺にとっては自然はもとからそこにあるから自然なのだし、後者に至っては屁理屈としか言い様がない。

 ならば、俺にとって神が存在すると最もわかりやすく証明できるものは何か。

 ……決まっている。

 あの人外どもを目の前に突き出してやればいいのだ。

 根本的に神と崇められない素質をもつ最高神や、いつもいらんことばかり言って俺を不幸な目に遭わせてくれやがる死神や、勝手に人から不幸を貰うだの言っておいて本当にそれが実行できているのか怪しい厄病神もどきの幽霊。これだけいれば充分だ。なんならオマケで一般人より弱い妖狐や二重人格の吸血鬼を入れてもいい。

 よし、やるべきことが見えてきた。後は誰からしょっぴくかだが。

「今時ゲームだってよく調べればヒントがあるんだ。これでノーヒントだったら本気で殴るぞ」

 神楽の部屋をくまなく捜索してみる。すると押入れの奥から見覚えはないが聞き覚えのある物体が出てきた。

「マジで土偶だ……」

 以前、市原が神楽に贈ったと言っていた土偶。その背中に、メモ用紙が。

『死して屍拾うものなし』

「…………」

 さて、リアクションに困る。

「……まあ、十中八九あいつのことだろうな」

 なんとなくバカにされている気もするが、文句なら見つけてからたっぷりと言ってやろう。

「で、どこを探せばいいんだ」

 他に調べてみてもメモはない。

 とすると今日のあいつの言動で何かおかしなことはなかったか……。

「……そういう意味か」

 この意味の分からない探偵ごっこが何を目的としているかは後で直接神楽に訊こう。

 俺は土偶をもとの位置にしまうと、そのままマンションを飛び出した。

藤「いやー、それにしてもここもずいぶんと寂しくなったわねー。他の奴らはなんやかやで出てこないし」

碧「私もいるのだが」

藤「別にいちゃ悪いって訳じゃないわよ。というか凛がここに来ることってあんまり無いわよね」

碧「人と話すことがあまり得意ではないからな」

辻「はいはーい! 私もいまーす!」

藤「あんたは来なくてもいいわよ。今回の話に一切関与してないし」

辻「ぶー! 今回のシリーズで藤阪センパイも碧海センパイも出てるのに私だけないなんてどういうことなんですかー!?」



まあ、察してください。

という訳で第85話でした。

いないのは小夜だけではなかった、というのを前回あまり、というかまったく伝えられていなかったのですが、まあ今回の話の通り、そして誰もいなくなりました。


次回から無駄に推理モノっぽくなるかもしれませんが、たぶんこの作品の根幹は失われないと思うのでどうかお許しを。

というかこの作品の根幹ってなんなんでしょうね。


ではでは、次回をお楽しみに。

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厄神様とガラスの靴
こっそり開設。
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