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第84話:厄神様はかく去り行き

長編とかなんとかいいつつ今回も藤阪さんのお話です。


ひとまずは青春の1ページをお楽しみください。

「では、今週は木曜日からもうテストが始まります。しっかりと対策をしておいてください」

 6限に授業があった担任が最後に連絡事項を告げると、本日は解散となった。

「直樹さん、今日はどうするんですか?」

「悪い、今日も藤阪の家で勉強するから、先に帰っててくれ」

「……そうですか……」

 毎度毎度この台詞を言うのも多少の罪悪感を覚えなくはないが、仮についてきたとしても退屈な時間を過ごすだけだ。それだったら厄病神も死神と一緒に家に帰ったほうがいいだろう。

――ガラッ!

「やあやあ直樹氏! 調子はどうかね!?」

 何の脈絡もなくバカ神がやってきた。

「はっはっは! そんな露骨に嫌な顔をしなくてもよいではないか! 僕としても多少は傷付くというものだよ!」

 どうせ1時間もすれば跡形もなく消え去る傷だろ。

「いやはや、相変わらず手厳しいね! まあ今日はどちらかといえば黄泉君に用があるのさ」

「俺はここだが」

 だったら最初から俺を呼ぶな。そう思いながら後ろで爆睡している藤阪を起こそうとする。

「そうそう直樹氏! 僕と黄泉君はこれで退散するが、1つ質問していいかな!?」

「なんだ」

「『もし誰かがいなかったら』と考えた事はあるかね!?」

 なんだそりゃ。平行世界に関する考察か?

「はっはっは! そこまで深く考えなくとも構わないよ! ただ、明日になって急に殴られてはたまらないからね!」

 意味もなく不愉快になる笑い声をあげながら神楽は教室を去っていった。

「どういう意味だったんだ? 今の」

「俺に分かるはずもない」

 と死神。神楽、こいつに用があったんじゃないのか。

「では俺も行くとしよう」

「ああ。夕飯の時間に間に合わなくなりそうなら連絡する」

「……俺は、ここにいる」

「は?」

「いや、なんでもない。ではな」

 死神は何事もなかったかのように教室を去り、何のことか分からないといった顔の厄病神も俺に軽く会釈すると後を追って廊下へと出て行った。

「……なんなんだ、あいつら……」

 

 

「今日、何やってたっけ?」

「……いい加減に殴っていいか?」

 日本史をまったく勉強していない藤阪に対し、今日言ってたことくらいは覚えてるだろと訊いたところ帰ってきた返事を受けても何とかこらえている俺の理性はそろそろ賞賛を受けてもいいのではないだろうか。

「まったく……。歴史を学ばない奴は過去の人間と同じ過ちを犯すんだよ」

「ふん、後ろを振り返ってるだけじゃ前になんて進めないわよ」

 前ばかり見て爆走するのもどうかと思うが。

「仕方がない。日本史なんかはまず基礎知識がないと話にならないから、今度だな。せめて教科書くらい読んでおけよ」

「気が向いたらね」

 こいつは一生読まない気がする。

「結局、いつも通りに英語か」

「面倒なのよねー」

「いいからやるぞ。ほら、リーディングの12ページ」

「えーと……ああ、子供が質問してくるのにきちんと答えろとかいう退屈な話?」

 書いた人間もこんな奴に退屈だと言われるためにこの文章を書いたわけじゃないだろうな。

 

 

「はい、最初。『Some parents may start to become annoyed at about the time their kids learn to ask, "Why?"』。訳してみろ」

「……えーと……いくつかの、親は……彼らの子供たちについて? 「Why(なぜ)」か訊かれると……annoyedって何よ。アンニュイ? アンニュイが始まる――」

「ストップ」

 ご丁寧にも俺の3日間ほどの努力を打ち消してくれるような訳にたまらず待ったをかける。

「お前、俺が言ってたこと訊いてたか?」

「多少は」

 なら間違っても訳の中にフランス語の単語は混じらないと思うんだが。

「いいか? まず最初のSome parentsは直訳すれば『いくつかの親は』になるが、主語にSomeがある時は『〜する親もいる』みたいに『〜もいる』って訳すんだ。で、この前も言ったように、英語はまず前から順番に考えていけ。後ろから訳そうとすると絶対にこんがらがる」

「だって最終的に訳す順番ってだいたい後ろから順々に、って感じじゃない」

「それでも、だ。主語、動詞、目的語って風に意味ごとに区切っていかないと、複雑な文じゃその手は通用しないぞ」

 英語には英語の語順みたいなものがあるんだ。

「で、annoyedはannoyの過去分詞で『苛々(いらいら)させられる』、つまり『苛々する』ってことだ。その前のmay start to becomeと合わせて『苛々してき始めるだろう』ってとこか」

「ずいぶん不自然な日本語ね」

 文句があるなら自分で自然なのに直せ。文法に忠実な言い方をしているだけだ、確固たる自信はないが。

「で、そのあとのat about the timeが何に苛々しているかを指してる。そこだけ訳してみろ」

「んー……『その時について』」

「そんな感じだな。で、『その時』がどんな時かを次でさらに詳しく説明しているわけだ」

 their kids learn to ask, "why?"で、だな。『自分達の子供が"Why(どうして)?"と尋ねるようになる』時。

「それじゃ、一文まとめて訳してみろ」

「……自分達の子供が、『どうして?』と尋ねるようになる時、に、いらいら……するようになるであろう、親も……いる?」

「そんなもんだろうな」

 本当かは知らんが、中学入れても5年ちょっとしか英語というものに触れていない俺の頭は一応の正解という判断を下した。

「じゃあ次いくぞ」

「休憩」

 早っ。

「お前なぁ……、そんなんだから試験範囲終わらないなんて事になるんだぞ」

「気にしない気にしない。なんか飲み物もってくるわね」

 朝に散々文句を言われたのは気のせいだろうか。

 俺の呟きなど気にすることもなく藤阪は飲み物を取りにリビングへ行ってしまい、手持ちぶさたになった俺はなんとなく居心地の悪さを誤魔化すかのように教科書を閉じて部屋を見回した。

 リビングでやると鬱陶しいのがいる――という藤阪の意見により、勉強会は藤阪の自室で行われることになり、実際3日ほどこの場所で勉強していたのだが、よくよく考えてみれば藤阪の部屋に入ることも滅多になく、今の状況は結構特殊と言えなくもなかった。

「……中学の時って、どんなんだったんだろうな……?」

 ふとそんな疑問が頭を掠めた。考えてみれば俺達は桜乃も入れてもう旧くからの仲のように行動しているわけだが、実際は桜乃と藤阪の中に俺が入り込んだ形である。そう考えるとどうも自分の存在に自信を持てなくなってくる。

「お待たせー……って、何してんの? あんた」

「いや……、お前ってさ、中学から桜乃と知り合ってたんだよな?」

「そうよ。なんか文句あるの?」

 別にそういう訳ではないが。

「高校に入って俺が割り行ってきて、どう思った?」

「へ? ど、どう思ったって……そりゃあ……その……」

 口ごもる藤阪。

「……やっぱり、鬱陶しかったか?」

「は? あんた何言ってんの?」

 いやまあ、時々こうなるんだ。気にするな。

「……なんかそういうの見てるとムカつくのよねー……。あたしが根性叩き直してあげるわ」

「……おい待て、なんでこっち近づいてくる」

「言ったでしょ? ぶっとばしてあげるって」

 若干ニュアンスが変わってないか。

「待て待て待て待て、いいからこっち来るな!」

「うるさい! 大人しくしてなさい!」

「大人しくしてたら確実に病院送りになるわ!」

 部屋の中央に置かれたちゃぶ台の周りをぐるぐる回る俺達。傍から見たらさぞかし滑稽だろうよ。

「……くっ、いい加減に観念しなさい!」

「そっちがしつこいだろ明らかに!」

「……だったら、こっちにも考えがあるわよ」

 そう言うや否や、あろうことか挟んでいたちゃぶ台を乗り越えてきやがった。いくら自分の物だからってそういうのはどうかと思うぞ。

「もらったぁ!」

「くっ……て、のわぁ!?」

「へ……きゃあ!?」

 思わず後ずさりしようとした俺だったが、ちょうど後ろにあったベッドに足をとられ盛大にずっこけた。その上俺が避けると思っていたのか、全力でこっちに向かってきた藤阪も体勢を立て直し切れずに俺に突進してきた。痛いわ。

「…………」

「…………」

 と、すぐさま言えればよかったのだろう。だがそれは衝撃に備えて目をつぶっていた内に言うべきだった。抗議の声を上げようと目を開けた俺の眼前にあったのは藤阪の顔。

 俺達は、綺麗に重なって倒れこんでいた。

「…………」

「……あ……」

「……う……」

 お互い間抜けな声を発すること数秒。電気ショックでも流されたかのように藤阪が飛びのくことで、俺はようやく解放された。

「…………」

「……あー……」

 とりあえずちゃぶ台の元の位置に正座し直したのだが、気まずいことこの上ない。例えて言うなら不可抗力で女友達を押し倒してしまった後のようだ。って殆ど今の状況と同じじゃないか、まずい、思考回路もまだ復旧していないらしい。

「…………あの、なんだ、……続き、やるか?」

「ひゃい!?」

 なんだその声。

「その、勉強、どうする?」

「あ、あー……。……どう、しよう……?」

 結論。今日は無理。

 

 

 結局、終始まともな言葉を交わすことなく適当に荷物をまとめて退散することとなった。出来る事ならお互い今日の記憶を抹消しておきたい心境だろう。

 そんなわけでどういう道筋を通ったのか曖昧だったが、いつの間にか自宅へと辿り着いた時、辺りはまだ夕焼けと星空がバトンタッチをしているような頃だった。

「……暗いな」

 俺の家は誰もいないかのようにひっそりと佇んでいる。リビングの電気も付いていないところを見ると、玉藻もいないらしい。

 それかあるいは3人でどこかへ食べに行っているのかもしれないな。タイミングの悪いことだ。俺は溜息をつきながら家の鍵を取り出した。

 

 

「…………」

 玄関の扉をくぐった瞬間、何か言いようのない感覚が俺を襲った。違和感、その言葉がいちばん近いか。

「……玉藻……?」

 いないと分かっている居候の名を口にする。誰が答えるでもなく、声は壁に吸い込まれて消えていった。

 ゆっくりと靴を脱ぎ、リビングへ向かう。

 リビングには、誰もいなかった。

「……っ!」

 誰もいないのがこんなに薄気味悪いはずがない。

 何かがおかしい。

 俺は2階へと駆け上り、厄病神の部屋の扉をノックもせずに開いた。

「……な……」

 そこには、何もなかった。

 服も。トライアングルも。料理の本も。

 ……厄病神がいた証が、何一つ残っていなかった。

桜「お前ら、いいなぁ……」

藤「な、何言ってんのよ! いいわけないじゃない!」

桜「それより、意外と後半は凄いことになってんのな」

藤「小夜たちはいないし、直樹もそれどころじゃないってこっちに来ないし」

桜「しばらくは俺達だけか?」

藤「たぶん」



というわけでいよいよもってシリアスっぽく。

あくまでも「っぽく」ですので、お間違えのないようご注意ください。


さてそんなわけで、「はしゃぎすぎてやっちゃったことってあるよね」という第84話でした。

あくまでも今回は藤阪さんの話ということで、シリアスな気分になるのは次回までお待ちください。


ではではー!

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厄神様とガラスの靴
こっそり開設。
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