第83話:厄神様はかく頂き
お久しぶりです。
と、開き直ってはみたものの、更新が滞ってしまい大変失礼しました。
今回からしばらくは珍しく(と書いて無謀にもと読む)真面目な話です。
で、結構長編になりそうな予感なので、イライラしそうな方はちょっと待ってから来るといいと思います。
ではでは、第83話をどうぞー。
「お前さ、ひょっとしてもう治ってんじゃないか?」
「なに言ってんのよ。あんまり失礼なこと言ってるとぶっとばすわよ」
さて、時は7月4日、空は快晴である。誠に不本意ながらもうそろそろ慣れてきたと言わざるを得なくなってきたこの送り迎えだが、いい加減碧海の薬を使っているならば治っているはずである。にもかかわらずいまだ俺がぜえぜえ言いながら学校へと自転車で登校しなければならないのは何故だろう。何故だろう。
「それより、あの子は今日も来るのかしらね?」
あの子、とはネーベルのことだろう。一昨日の時点では学校へ通うことに結構乗り気だったようだが、果たして今日はどうなるのやら。
「だったらまた静流で遊べるんだけど」
「やめとけっての」
「おっす」
「今日は早いんだな」
藤阪と共に教室に入ると既に桜乃の姿があった。えらく上機嫌だな。
「まな。オレとしても心安らぐ時があるワケだ」
「…………?」
相変わらず意味の分からない奴だ。無視するに限る。
「最近は黄泉とも別々に来てんのな」
「藤阪を迎えに行かなくちゃいけないからな。別行動だ」
ついでに言えば厄病神も死神と一緒に来させることにした。話も出来ないのについてこさせるのは退屈だろう。
「で、藤阪はまだ怪我が治んないと。いーねいーねー」
「う、煩いわね! タチが悪いのよタチが!」
嘘つくな。お前面倒くさがって薬塗ってないだけだろ。
「そんなんだから碧海にも注意されるんだ……ん?」
今度もまた何か言ってもらおうと碧海の席を見るが、そこに昨日の救世主の姿はなく、鞄も置いていないことから今日はまだ来ていないようだ。
「あら、珍しいわね。凛が私たちより遅く来るなんて」
対象に関わらずお前より遅く来る奴は珍しいよ。
「昨日の今日だしな。流石の碧海も疲れが出てるんだろ」
「……大いにありうるな」
なんせ普段8時に寝てる奴が深夜2時就寝だ。寝起きはさぞかし辛いに違いない。
「ま、そんなに気にしてもしょうがないでしょ。それより直樹、ボーっとしてたらもう試験の週に入っちゃったじゃないの。そのくせ勉強は進まないし、どうしてくれんのよ」
ここまで理不尽なクレームもそうはないだろう。誰のためにやってると思ってるんだ。
「ちょっと待て。勉強会ってなんだ勉強会って」
「勉強とは何かを哲学する会だ」
「適当っすね……」
案の定首を突っ込んできた桜乃に即興の返事を返すと意外にも大人しく自分の席へと戻っていった。
「どーすんのよ。もし間に合わなかったら試験中もあたしの家来なさいよ」
「俺の勉強はどうするんだよ」
「教える側も勉強だって言うじゃない。ブツクサ言ってるヒマがあったら少しでもテスト範囲を推測しときなさいよ。範囲終わんなかったりヤマが外れたりしたら罰金払わせるわよ」
なんてことだ。
そんな適当な会話を交わしている間に死神たちが登校してきたが、未だ碧海の姿はなかった。そうこうしている内にチャイムが鳴ってしまい、それと同時に担任が顔を出す。
「ではHRを始めます。いない人はいな――」
「す、すみません! 遅れました!」
担任が窓際に空席を発見するのと教室のドアが勢いよく開いたのは同時だった。クラスメイト全員の視線が闖入者に集中する。
「碧海さんがこんな時間に登校とは珍しいですね。何かありましたか?」
「……いえ、寝坊です……」
正直俺は驚きを隠せなかった。碧海が寝坊したところなんて見たことがない。
「……碧海さんは今のところ皆勤ですから、今回も遅刻じゃないということにしましょうか。席についてください」
「ちょっとぉ! あんたあたしの時と全然態度が違うじゃない!」
俺が心の中で突っ込みを入れる前に藤阪が猛抗議を始めた。まあ気持ちは分からんでもない。
「藤阪さんは結構な回数遅刻していますから。今さら1つか2つ増えても変わらないでしょう」
教育者の発言とは思えんな。
「というわけですから碧海さん、どうぞ席へ」
「あ、はい……」
「こら! 軽く流すな!」
これでいいのかという顔の碧海とそれでいいんですという顔の担任、そしていい訳があるかという藤阪によって朝のHRは随分騒がしいものとなった。
4時限目の授業中。
何とはなしに碧海の席を見ると、普段は板書を写すために伸ばしている背筋が微妙に曲がっている。時折思い出したかのように伸びるが、暫くするとまたコクリコクリと俯きだしていた。
「……ノート、読めなくなってるんだよな」
睡魔と闘いながら書いた文字はそこら辺の遺跡か美術展のどちらかに置いておけばそれなりの評価を受けそうな形状をしているものだ。きっとこのままだと後で見た時に愕然とするんだろうな。
「狭山ー。昼休みだぞー」
「ボケ老人じゃあるまいし、分かってる」
実際本気で昼休みだということだけを言いに来たとしたら桜乃の頭の方が大変だが。
「…………」
碧海はチャイムが鳴ると同時にバっと顔を上げ、ノートと黒板を見比べて慌てていた。このまま困った姿を見続けるのも新鮮だが、生憎俺にそういった趣味はない。
「悪い、今日は違うところで食べる」
「なんだよ。つれねーなー」
日常には変革が必要な時もあるのさ。
「よ、碧海」
「さ、狭山か。どうした?」
どうしたも何も、そのままじゃノート大変だろ。
「……見ていたのか?」
「まあ少しばかり」
「…………」
そんなに顔を赤くするほどのことでもないと思うんだがな。俺の後ろの席の奴なんか起きてる授業の方が珍しいくらいだ。
「ま、とにかくこのままじゃアレだろ。ノート貸してやる」
「いや、大丈夫だ。自分で写す」
と碧海が言った直後、黒板に書かれていた授業の名残が掃除当番によって抹消される。
「…………」
「……諦めろ」
「……すまない……」
昼休み中に返したいという碧海の意志によりノートはすぐに写すことにしたようだが、俺はといえばノートだけ貸して昼食を購買かどこかで買う予定だったため、思わぬお預けを食った胃が抗議の悲鳴を上げ始めた。
「悪い、碧海。ちょっとパンか何か買ってくる」
「……昼食がないのか?」
まあ現段階では。
「……な、ならばその、私の弁当でよければ……」
「……いやだって、それお前の分だろ」
「わ、私は構わない。一食抜いた程度で参るような鍛え方はしていない」
ただでさえ寝不足なんだから食っとけ。下手すれば倒れるぞ。
「し、心配はいらない! もう大丈夫だ!」
思わず大きな声を出した碧海に再び教室の視線が集まり、碧海は何度目か分からない赤面を見せた後、もう一度俺に問いかけてきた。
「……そ、それとも、私の弁当では……嫌だろうか……」
「……いやまあ、そんなことはないが」
むしろどちらかといえば食べてみたい気もする。
「分かった。ありがたく頂こう」
「そ、そうか。少し待っていて欲しい」
俺がそう言うと碧海は鞄の中から丁寧に包まれた弁当箱を取り出した。こじんまりとしたその容器は妙に碧海に合っている気もする。
ノートを写している机に弁当を置くのもどうかと思った俺は碧海の前の席の机を勝手に拝借することにし、そこに腰掛けて弁当箱を開いた。
「へえ。なかなか凄いな」
箱の中身は一高校生の弁当とは思えないほどの見栄えだった。高級料亭の仕出し弁当といっても疑われないだろう。
「母上が作ってくれている。味は問題ないとは思うが……」
「それじゃ、頂きます」
かくして、碧海がせっせとノートを写している間に俺は碧海家の弁当に舌鼓を打ち、あっという間に全て平らげてしまった。しまったな、碧海の分も残しておくべきだったか。
「心配はない。大丈夫だ」
「悪かったな。ノート、問題なかったか?」
「ああ。ありがとう」
俺達がノートと弁当を交換すると同時に丁度昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
席を占領していたせいで座れずおろおろしていた男子生徒に悪かったと謝罪し、俺は自分の席へと戻っていった。
桜「……藤阪を呼んでこないで助かった……」
死「確実に血を見たな」
直「いやまあ、昼食断った奴が教室で人の弁当食ってたら確かにムカつくが」
桜「そうじゃなくてだなぁ……」
という訳で碧海さんの補完話でした。あれ?
いや、長編にはなるはずなんですよ?
ただ、どうしても入れておきたかったというか……
まあ、ベジータ風に言えば
「本当の恐怖はここからだ……!!」
みたいな感じですので、気にせず読んでいっていただけると助かります。
ではではー。




