第82話:厄神様はかく射抜けり
無茶苦茶な終わりだった前回の続きです。
たぶん一気に読んだほうが伝わるかと思います。
スミマセン……
では、完結編をどうぞー!
「碧海、大丈夫か」
「なっ!? な、なぜ狭山がここにいるのだ!?」
「お前に言いたいことがあったからだ。手段は気にするな」
碧海は医務室のベッドに腰掛けていた。せめて寝てろよ。
「碧海、正直に答えろ。お前は、あの的をなんだと思って射っていた?」
「……どういう意味だ」
「言葉通りだ。碧海凛、お前は雑念に囚われている。それを捨てなければ、お前にあの的を射抜くことはできない」
死神の言葉に沈黙する碧海。やがてぽつりぽつりと話し始めた。
「……私は、狭山を守ってきた」
「それは知ってる。今だって感謝してもしきれないくらいだ」
「……だが、守れなかった」
そんなことはない。それはずっと言ってきた。
だが、碧海にとってはその結果より自分が俺を守れなかったことの方が重要であるようだ。
「そして今日、1本を外した時、急にあの時の光景が蘇った。2本目を外した時、吸血鬼が笑った」
「…………」
「……そこから先は、よく覚えていない。気が付いたら矢が尽きていた」
俺が思うに。
「どうもお前は変なところで真面目すぎるんだよ」
「……なっ!? わ、私は――」
「碧海。よく聞け。俺は碧海と一緒にいたい。それは物理的にも、精神的にもだ。でもな、お前がそうやって『退魔士』であろうとすればするほど、俺はお前が遠くに感じるんだよ」
「……え……あ……その……」
「だから、お前には『碧海凛』でいてほしい。『退魔士』としての矢じゃなくて、『弓道部の手伝い』としての矢を射ってほしい」
「……あ……その……。……わ、わかった……」
そりゃよかった。
「……おい死神。人が必死で説得してたのになにそっぽ向いてるんだ」
「見ていられなかったものでな」
どういう意味だ。
「わかった。では行ってくる」
碧海はそのまま立ち上がろうとしたが、心なしフラフラしていた。
「……お前、具合悪くないか?」
「そ、そんなことはない。平気だ」
昨日何時まで練習してた。
「……に、2時まで……」
先生、ここにアホな子がいます。
「お前な、いい加減怒るぞ」
「わ、私は大丈夫だ!」
大丈夫じゃないだろ。どう見ても。
「だ、だが、これから交代するわけにはいかない!」
「フラフラで的に当てられないかもしれないんだぞ?」
「そ、それでもだ……!」
無理っぽいな。
「……分かった。じゃあ絶対に的を当てられるおまじないを教えてやろう」
「……おまじない?」
「ああ、まず――」
「どこ行ってたのよあんたたちはー! ピンチなのよピンチ!」
「分かってるわ。どうなってる?」
「相手チームが合計37中、こちらは4中・3中・3中で現時点での合計が34中です」
「はっはっは! 絵に描いたようなクライマックスだね!」
黙ってろ馬鹿神。
「おいおい狭山。碧海は大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。おまじないを教えたからな」
「は?」
やがて碧海が出てきた。
心配して駆け寄る他の部員たちに心配ないとジェスチャーで返し、矢を受け取る。
そして、弓を引き、射る。
命中。
射る。
命中。
射る。
命中。
「いよっしゃあ! ナイスだ碧海!」
「次も当てるのよ凛!」
「だから言ったではないか! 我が校の辞書に敗北という言葉はないのだよ!」
「まだ言っていたんですね」
「凛さーん! がんばってくださーい!」
「外しおったらただじゃすまさんぞー!」
相手チームも動揺を隠せなくなっていた。よくて引き分け、最悪1本差で敗北だ。
「……お前は、声援を送らないのか?」
「野球の試合じゃないんだから、大声でやるのは迷惑だろ。それに……」
きっともう、大丈夫だから。
碧海が最後の1本を構える。
隣でバカみたいに声援を送っていた藤阪たちも声を出すのをやめ、会場が沈黙する。
――ヒュッ。
矢が弓から離れる音、そして。
――バシュッ!!
矢は、的のど真ん中を貫いた。
「……いよっしゃあー!! 勝ったーーー!!」
どっかのバカの叫び声。それをきっかけに場内が大歓声に包まれた。
「……よかったな」
「俺に言うなっての」
37対38。
弓道部は、廃部の危機を脱したようだ。
「よ」
「……お前達、待っていてくれたのか」
会場の外で待っていると、やがて碧海たちが姿を現した。
「すげーな碧海。あそこで全部当てちまうなんて」
「これから大変でしょうねー。きっと勧誘の嵐よ」
「だから言ったではないか! 我が校に――」
「碧海さん。この人の言う事は無視してくださって結構です。おめでとうございます」
「本当にすごいです! かっこよかったです!」
「……まあ、そこそこじゃったの」
「わ、ま、待て! そんなにたくさん言われても……」
完全に囲まれてるな。
「青春だな」
「……お前が言うと一気に胡散臭くなるからやめろ……」
今回は死神にも助けてもらったしな。少しばかりは多めに見ることにしよう。
「あ、そうだった。狭山」
俺の名前を呼んでようやく人垣から抜け出た碧海がこっちに来た。
「お前の教えてくれたおまじない、とても効いたぞ」
「そ、そうか!? そりゃーよかった、うん」
「……どうしたのだ」
なんでもない。
「なに? あんたいなくなったと思ったらそんなことしてたわけ?」
「お前はまたそうやって……」
意味分からんから俺を睨むな。どっちも。
「それで、どのようなおまじないなんでしょうか。非常に気になります」
「そ、それは!」
「わたしも気になります!」
やめてくれ。頼む。
「あ、ああ……。確か……」
――こう、手のひらに『人』ってかいて飲み込むんだ。そうすると疲労がとれて気分もすっきりする。
――そ、そうなのか?
――ああ。そうしてから戻ってみろ。絶対に集中できる。
――分かった。ありがとう。
「…………」
「…………」
「……あのさ、それって……」
「緊張をほぐすやつ、よね?」
「…………」
密かにその場から離れようとしていた俺の肩を誰かががっしりと掴んだ。恐る恐る振り返る。
「……お、おまじない、効いたか?」
「……そうだな。非常に効果的だった。思わず試合後に他の部員に教えてしまったくらいな」
それはそれは。部員たちもさぞかし反応に困ったことだろう。
「狭山。今日のお礼をしたい。私の家に来てくれ。もちろん泊まっていっても構わない」
「い、いやー、遠慮しておきます……」
「遠慮するな。では行こう」
教訓。
嘘はバレる覚悟がある奴しかついてはいけない。
直「うんうん、やはり心の底から出た言葉は伝わるんだな」
桜「……完全に誤解してやがる」
死「もはや賞賛に値するな」
神「まあよいではないか! 結果的に彼女に言葉が届いたのだから! 結果的に!」
厄「……あはは……」
さて、まさかのギャグ。
いや、本当はちょっといい話にする予定だったんですよ?
そうしたら直樹がまさかの天然発動で困ったものです。
あ、ちなみに直樹は碧海の家に引きずり込まれたりはしません。普通に帰ります。
次回は……どうしましょう?
藤阪さんの話を進めるか、小夜の話を始めるか……
まあとりあえず、次回をお楽しみにー!