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第7話:厄神様はかく買えりし

更新が遅れました。第7話です。

今回は休日の1コマの予定です。

 今日はキリスト教における安息日。厄病神が来てから初めての休日だ。

 ヤハウェの存在なぞ欠片も信じていないくせに休む日だけは拝借するのもどうかと思うが、俺も休みが増える分には敢えて文句も言うまい。

「おーい、厄病神ー!」

「はい、なんでしょうか?」

 台所からパタパタと駆けて来る厄病神。そういえば家の食料は触れるんだな。

「これから本を買いに行こうと思うんだが、来るか?」

「……はいっ!すぐに準備してきます!」

 厄病神はそう言うとまたパタパタと部屋へ向かっていった。

 ……何を準備するんだ。

 

 

「ここですか……?」

「ああ」

 俺たちが来たのは駅前の大型書店。ここにくれば大抵のものは揃うため、よく利用している。

「というか、何の準備をしてきたんだ?」

 厄病神の服は普段と全く変わらない巫女装束だった。そもそも俺以外には見えないんだから外見を変えても意味がないだろう。

「着替えがありませんでした……」

 当たり前だ。女物の服など買った覚えはない。母親のは全部一人で海外に持って行ってしまうしな。

「服を買ってもいいでしょうか?」

「どうせ買っても触れるかわからないだろう。やめておけ」

 そもそも金を持ってないだろ。

「うぅ……」

 だからそんな泣きそうな目をするな。

「……一着くらいならあってもいいかもな」

「……ほんとですか?」

「嘘だ」

「…………」

 道行く人に足を引っ掛けて盛大にこけた。冗談だ冗談。

「直樹さんって、結構意地悪です」

 今頃気付いたか。

 

 

 さて、女と買い物に来た男なら誰もが思うことなのだろうが、女というのはやたらと買い物に時間がかかる。というか、選んでいるだけで疲れそうな位あちこちを行ったり来たりしている。

 実際俺は何もしていないにもかかわらず既に帰りたい気持ちで一杯なのだが、厄病神は一向に買う物を決める気配がない。

「直樹さん、これなんてどうでしょうか!?」

 なんてことを時々訊いてくるが、やはりというかなんというか売り物には触れないため試着もできず、それ以前に俺以外の目には服が空飛んでるようにしか見えないだろうから試着自体禁止しており、厄病神はただかけてある服を指差して意見を求めるしかできないのだった。そもそも傍から見たら男一人で婦人服コーナーにいるように見えるという状況が耐えがたい。

 だから、

「いいんじゃないか? 似合いそうで」

 と適当な答えを返しても仕方のないことである。そうだろう?

「ほんとですか!?」

「ああ」

 正直巫女装束以外の姿を見たことがないのにそれ以外の服を着ているのを想像してコメント出来るほど俺は想像力にもファッションセンスにも富んでいない。

「それならこれにします!」

 だから金は。

 俺がそう指摘すると厄病神は2、3秒硬直し、やがて冷や汗を垂らしながら服のあちこちを探したが、当然あるはずもなく、また例の涙目で落ち込み始めた。だからその目はやめてくれ。

「……じゃ――」

 いや待て俺。ここで「一着だけだぞ」と買ってしまったら、なにか取り返しのつかないところまで行ってしまいそうな気がする。焦るな。どうせこいつは買っても着れないんだ。買ったところで母親の選択肢が1つ増えるだけだ。だから

「直樹さん……」

 

 

「ありがとうございます! このご恩は決して忘れません!」

「ははは……」

 俺はもう駄目かもしれない。

 本は買えなかった。当然予算不足だ。むしろ本を買うつもりできたにも関わらず女物の服という日本経済を無視した逆価格破壊の物品を購入できた俺の財布を誉めてほしい。

 俺が虚しい言い訳を心の中でしていると、ふと前を見知った後ろ姿が歩いているのに気付いた。あいつがこんなところに来るのも珍しいな。

「碧海、こんなところでどうしたんだ」

「な、な、なぁ!?」

 おいどうした。

「さ、ささ狭山! こここんなところで何をしているんだ!?」

 買い物だ。それとまず落ち着け。

 暫く混乱状態に陥っていた碧海もやがて落ち着きを取り戻し、いつもの毅然(きぜん)とした態度に戻っていた。

「私はあそこにある書店に参考書を買いにきたんだ」

 なんと。俺が厄病神の要求に屈していなければ入っていた筈の本屋ではないか。

「俺も本を買おうと思ってたんだがな、やく――」

「やく……?」

 いかん、口が滑った。

「やく、やく、役所に用があってな!?」

 苦しい。

「役所? 一体何の用があるのだ」

 だよな。

「そ、その、家の軒先に蜂の巣が出来てな!? それを駆除してもらおうと思ったんだ!」

「役所がそのようなこともやってくれるのか?」

「あ、ああ!!」

 ちなみにあながち嘘でもない。そういうことをしてくれる課が存在する市役所もある。どうでもいいな。

「だいたい、蜂の巣の駆除程度なら私に頼んでくれれば引き受けるぞ」

 出来るんだ。

「い、いや、いい。もう頼んできた」

「……そうか」

 ……なんとか誤魔化せたか?

「……ところで狭山、1つ訊いてもいいか?」

「あ、ああ……」

 やはり駄目か? 俺なら自分自身さっきの説明に10は突っ込みを入れられる自信がある。じゃあ今お前が持ってる服はなんだ、とかな。

「なら……」

 その時、ほんの少しだけ碧海の空気が変わった、気がした。

「ソレは、なんだ」


長かったので前後編に分けました。

これからもできる限り毎日更新をしていきたいと思います。

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厄神様とガラスの靴
こっそり開設。
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