第75話:厄神様はかく送りき
番外編を更新しました。
藤阪さんと直樹の出会いが書かれてます。
うん、番外編も本編も藤阪一色ですね。
ではそんな第75話をどうぞー。
「――つまり、俺のせいで怪我をしてしまった藤阪のために、何か手伝うことはないだろうか、ということだ」
「あい……わがりまじだ……」
クラスメイトの鎮静にも成功し、いよいよ落ち着いて意見を訊ける体勢になった。
「厄病神。何かないか?」
「え、えーと……。ずっとおぶっていてあげるというのは――」
「却下」
「はう……」
「歩くのが辛いのであれば登下校に問題があるだろう」
「なるほど」
死神もたまにはまともなことを言うんだな。
「じゃあ学校に送り迎えをしてあげるってのはどうでしょう!?」
「それも若干……いや、それしかないか」
いつもより少し早く家を出るようにすれば大丈夫だろう。
「さ、狭山! 私の家の薬なら1日か2日で完治するぞ!」
「本当か。じゃあ使わせて貰えないか?」
「あ、ああ。頼んでおこう」
よかった。なんとかなりそうだ。
「ふう……」
「? どうした碧海?」
「いいや何でもない!」
「…………?」
まあいい。あとはどうやって送り迎えするかだが……。
「学校から家まで背負っていけばいいだろう」
「だから却下だ。そんな恥ずかしい真似できるか。そうだな、自転車があればいいんだが」
「それだって恥ずかしいだ……いえ、なんでもありませんです、はい」
よろしい。桜乃、お前自転車通学か?
「うんにゃ。ダッシュだ」
「使えない奴め」
「お前だって徒歩じゃねーか! なんだその上から目線は!」
死神は俺と同じ家なんだから自転車な筈はないし……。
「碧海も……」
「ああ、すまない……」
いいって、気にするな。
「おーい! その態度の違いはなんなんですかー!? だいたいよく考えたら自転車通学禁止だろ! それなのにオレはあんな言われたのか!?」
煩い奴だな。校則を無視してる奴がいるかもしれないだろ。
「仕方がない。他のクラスをあたってみるか……」
と、神楽のクラスへ行こうとすると。
「はっはっは! お困りのようだね直樹氏!」
向こうから現れた。生徒会長って実は暇なのか?
「して、何か僕に出来ることはあるかね!?」
「あ、ああ。自転車があったら貸して欲しいんだが……」
「……ふむ、自転車だね! ついてきたまえ!」
あてがあるのか。助かった。
「…………」
「さあさあ! 入りたまえ!」
「ここって……」
「オカルト研究同好会の部室だな」
帰ろう。
「まあ待ちたまえ! 実は先日部室を整理していたら偶然自転車を発掘したのだよ!」
もう突っ込む気にすらなれない。サイクリング部の遺産だと思うことにしよう。
「よかったですね! 直樹さん!」
「こっちはこっちで素直に喜んでるし」
「ふむ。なかなかの性能を持っているようだ。充分使用に耐えるな」
「お前も分析してる暇があったらこの同好会について突っ込め」
とはいえ、なんだかんだ言ってありがたいことに変わりはない。喜んで使わせてもらうことにした。
「よし! 帰るぞ藤阪!」
「帰るって……あんた、どうやってよ」
放課後。勢いよく保険室のドアを開けた俺を藤阪が半目で睨み付ける。
「校門のところに自転車を止めてある。それに乗って帰るぞ」
「え……? それって……?」
「いいからいいから。ほれ」
「え……?」
背を向けてしゃがみこむ。何ぼけっとしてるんだ。
「の……乗るの?」
「まだ痛むだろ。いいから早くしろ」
「う、うん……」
しばらくして背中に人の感触。そのまま立ち上がる。
「さて、じゃあ帰るか」
「え……? ちょ、ちょっと! まさかこのまま!?」
「怪我してるんだから仕方がないだろ。いいからいくぞ」
「お、降ろしなさい! 降ろせー!」
無視。保健室のドアを開ける。
「ちょっとあんた! 聞いてるの!? 首絞めるわよ首!!」
「バカお前! 今閉められたら防御できないだろ!」
「だったら今すぐ降ろしなさいよ変態ー!」
「誤解を招くような台詞を叫ぶなぁー!」
今は放課後。当然、廊下は下校途中の生徒でいっぱいである。そんな中大声でわめき散らせば注目の的となるのは必然であり、羞恥で身体を裂かれそうになりながら昇降口へ向かった。
「もういや……。明日から学校来たくない……」
「お前が叫ぶからだ……」
お互いのせいにしながら靴を履き替える。藤阪の上靴もしまってやろうとしたら全力で殴られた。何故だ。
校門に行くと、さっき俺が用意した自転車が目立たないよう隠してあった。
「自転車、用意してくれたんだ……」
「神楽がな。乗れるか?」
「ん……、っと……」
どうにかこうにか後輪部分の座席に藤阪を乗せると、俺はペダルを漕いで走り始めた。
「ちょ、ちょっと。ふらふらさせないでよ」
「ん、悪い。しかしお前、2人乗りって結構重……」
「なんか言った?」
なんでもないです。
自転車での下校。なんだか安っぽい青春ドラマみたいだが、それもまあ悪くない。
「……ちょっと、いいかも……」
「だな」
このまま全力で飛ばすのも面白そうだったが、藤阪に何をされるか分からないので大人しくキコキコと漕ぐだけにする。
「あ、そこを左ね」
「分かってるって。……よっと」
やがて住宅街に入り、見慣れた一軒の家の前で止まる。
「到着だ」
「分かってるわよ。ありがとね」
「っておい、いきなり降りようとするなって。また足痛めたらどうするんだ」
「このくらいなら大丈夫よ。もうそんなに痛まないしね」
強情な奴だ。
「本当に大丈夫か?」
「当たり前でしょ。あんまりあたしを舐めないでくれる?」
その前に捻挫を舐めるな。
「……今日はありがとね。その……」
「いいって。元はといえば俺のせいだしな。それじゃ」
「あ、ちょっと!」
改まって礼を言われるのも気恥ずかしい。俺はそそくさと退散することにした。
「塗り薬だ」
「ありがとう」
帰り道、少し寄り道をして碧海の家にお邪魔した。用件はもちろん捻挫に効く薬を分けてもらうためだ。
「礼には及ばない。狭山の頼みだ」
まあ怪我をしたのは俺じゃなくて藤阪なわけだが。
「……そうだな」
あれ。なんかちょっと雰囲気変わった。ひょっとして機嫌悪い?
「じゃ、じゃあまた明日な」
「……ああ。また明日」
「ただいまー」
「お帰りなさい」
家に帰ると厄病神が迎えてくれた。
「……って、お前いつの間に帰ってたんだ?」
「……え? あの……放課後になってから……黄泉さんと一緒に……」
全然気付かなかった。そういえば保健室に行ってからいなかったような。
「……狭山直樹。少し話がある」
リビングから玄関に顔を出して死神が言う。そのまま2階の死神の部屋へ移動した。
「単刀直入に訊こう。小夜は邪魔か?」
「いきなり何を言い出すんだ。そんなわけないだろ」
「……そうか。だが、そのことが小夜にも伝わっているかどうかは知らんぞ」
「……は? どういう意味――」
「ばかどもーーー!! せっかくの夜ごはんが冷めてしまうではないかーーー! 早く降りてこんかーーー!!」
「……さて、ではリビングに戻るか」
俺の問いは玉藻の叫び声によってかき消された。死神もその声に応じて立ち上がる。
「お、おい! だからどういう意味……!?」
「お前と小夜の関係について、もう一度考えてみることだ」
それだけ言うと、死神は1階へと降りていってしまった。
「……どういう意味なんだよ……」
誰もいなくなった部屋に、俺の呟きだけが響いた。
辻「はーいはーい! 藤阪センパイは本来センパイに優しくされない側の人間のはずでーす!」
藤「何よその嫌な分け方は……」
神「自分の責任というのを感じているのだろう! 彼はああ見えて義理人情に厚い部分があるからね!」
桜「それより藤阪、お前……ラブコメしてるな」
藤「煩い! 黙れ! 死ね! 1時間半!」
桜「何だよ最後の1時間半って! そんなに人の影の薄さを笑いたいなら直接笑えよ!?」
神「ハッハッハ!!」
桜「あんた鬼っすねぇ!!」
よく分からないコントが展開しているあとがきですが、こっち側は真面目に。
「」のつかない台詞は読みづらいとのご指摘があったので、今回は出来る限りそれをなくしてみました。出来る限り。
何度か言われているんで自分でも直したほうがいいとは思うんですが……難しいですね。
という訳で予定では前後編の2話完結だったのですが、ご覧の通り前中後編もしくはそれ以上になりそうです。テンポが悪くなっていなければいいのですが……ってそれは無理か。
では、次回をお楽しみにー!