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第74話:厄神様はかく庇われ

前回の失敗を教訓に、あまり話数を気にし過ぎないことにしました。

なので少々冗長に感じられる部分が多くなってくるかもしれませんが、ご容赦下さい。


では、第74話、どうぞ。


 それは梅雨の合間、ただでさえどこぞの超大国が率先して排出している温室効果ガスのせいかどうか知らんが暑くなっているというのに、蒸発した水分が肌にまとわりついて不快指数が100を超えてもいいんじゃないかと言いたくなる6月末のある日の事であった。

「なんでっ、夏にっ、マラソンなんだっ!」

「死ぬ……」

「じょ……女子にも走らせる? 普通……」

「皆さん……大丈夫ですか?」

 無理だ。ここから教室へ帰る前に倒れるかもしれん。

「おーし! 今日の授業は終了! 誰かカラーコーンとか計測器を片付けておいてくれ!」

 意識の隅で体育教師がそんなことを言っているが、誰一人として名乗り出る奴はいない。当たり前だ。

「……なんだ。誰もいないのか。よーし、今日は6月29日だから……足して35番! やっとけ!」

「……は!? あたし!?」

「その他は解散!」

 藤阪のすっとんきょうな声を無視して解散宣言を出した体育教師に従って、へばっていた生徒も最後の気力を振り絞って教室へ向かう。

「よし、帰ろうか桜乃」

「うん。そうだなマイフレンド」

「え? あの……」

「待ちなさい」

 同時に帰ろうとした俺達の肩をがっしりと掴む2本の腕。

「ねぇあんたたち。ちょっとお願いがあるんだけど」

「……狭山」

 なんだ。

「任せた!!」

「おいコラテメェーーー!!」

 いつの間に回復したのか50m6秒フラットのタイムで教室へ逃げていく自称マイフレンド。後で殺す。

「……俺も世界を救う旅に出ねば」

「わけわかんないこと言ってないで、行くわよ」

 拒否権なしですか、そうですか。

 

 

「ええと、カラーコーンはそこで、計測器はそこね」

「……なあ。今の状況に疑問はないのか?」

「え? なんでよ」

 おい。

 俺はいま藤阪の指示に従ってせっせせっせと器具の後片付けをしている。当の藤阪はのんびり跳び箱の上に座りっぱなしだ。

「手伝えよ! お前が頼まれた仕事だろ!」

「それをあんたに頼んだんだから、あんたの仕事よ」

「手伝えとしか言われとらんわ! というかそれ以前に手伝え! 人として!」

「ああもう分かったわよまったく……」

 ようやく立ち上がる藤阪。やれやれと片付けに戻ると、どこかからガコンと妙な音がした。

「なんだ、今の音――」

「――!!」

 上を見上げようとした瞬間背後から突き飛ばされる。そのままマットへ芸術的なダイビング。

「……ってーー……。おいコラ、ふじさ……」

 何が倒れたかなんて、どうでもよかった。

 俺の目に入ったのは、器具の下敷きになっている藤阪だけだった。

「……藤阪ぁ!!」

 

 

「捻挫ね」

「はあ」

「何よその声は。不満そうね」

 いや、大事にならなくてよかった。

「……あっそ」

「どうかしたのか」

「別に何でもないわよ!」

 意味が分からん。

 あの後、倒れた藤阪の上に覆いかぶさったガラクタを払い除け、そのまま保険室に運んで来たのだが。幸い、足首を痛めただけで済んだようだ。

「立てる?」

「……っ! ……ちょっと無理みたいです」

 立ち上がろうとするものの、足首に体重をかけた瞬間顔をしかめる。やはり無理があったか。

「……すまない、藤阪。俺がもっとちゃんと注意していれば……」

「ちょ、ちょっと! 別にあんたを助けた訳じゃないわよ! えーと……そ、そう! あたしの方にも倒れてきたから避けようとしただけ!」

「いや今『えーと』とか言って――」

「煩い! 黙れ!」

 怒り方が子供になってるぞ。

「うーん……。今日の授業は無理して出ない方がいいかもしれないわね」

「……それ、本当ですか?」

「捻挫はあまり楽観できないのよ。脱臼や骨折をすることもあるし、最悪の場合靭帯断裂なんてことになり得るわ」

 保険医からの意外な言葉。辛うじて発した質問もよりヘビーな回答を受けて沈んでいった。

「あ…………」

「……なーに落ち込んでるのよ。あんたが責任感じることじゃないでしょ」

「いや、でも……」

「ああ、じゃああなたがおぶってあげればいいじゃない」

「ってちょっと! なんてこと言ってるんですか!」

 さも名案かのように目を輝かせて提案する保険医。当然のように拒否された。

「だって入ってきた時は――」

「あ、いや、それはちょっと!」

 

 

「大丈夫ですか、直樹さん……?」

「顔の痛みよりも周りの視線が痛い」

 まあ、俺も動転していたわけで。

 普通に背負って運べばよかったのだろうが、どういうわけか藤阪の背中と膝を両腕で抱えたまま保険室へ走り。

 それが世間一般で言うところの『お姫様抱っこ』だったと気付いたのは保険医に指摘されてからであり、ついでにウチの保険医はそういう話が大好き。

 となればあとはもう鉄拳制裁まで一直線。さらに言えば藤阪を抱える俺の姿も数多くの生徒に目撃されており、久し振りに自業自得な羞恥の中で俺は教室へと帰っていった。

「ただいま……」

「おぉっ! 王子様のお帰りだばはぁっ!!」

 そうか。そんなに三途の川の水深を測定しにいきたいのかマイフレンド。親友として是非手伝いたい。

「じょ、冗談だって! ていうかお前、なんか今回容赦ない――ぎゃああああああ!!」

「ふーむ……」

 桜乃を冥土に送り出していると思考がまとまってきた。

「よし……厄病神、もう一度保険室に行くぞ」

「どうしてですか?」

「俺は、責任をとる!!」

 俺が言葉の使い方に気を付けようと決心したのはこの3秒後のことだった。


桜「…………」

厄「桜乃さん! 大丈夫ですか!?」

直「大丈夫だ」

藤「どうせすぐに復活するでしょ」

桜「あんたら、オレのこと少しは心配してよ!」

厄「そ、そういえば、黄泉さんと凛さんはマラソンどうだったんですか?」

桜「ああ! 小夜ちゃんまで!」

死「俺が1位で、碧海凛が2位だったぞ」

藤「あんたら明らかにペースおかしかったし」

直「で、走り終わった2人が整理運動を終えて水を飲んで帰って来た頃に桜乃がゴールイン」

桜「これ以上オレを惨めにさせないでください!」



はい。というわけで次回、藤阪さんにお人好しという名の魔の手が。

まあ2人で恥ずかしがるだけでしょうが。


ラブ米の豊作を祝う祭りが開かれそうな雰囲気ですが、品質も最高水準にしていきたいと思います。

それでは次回をお楽しみに〜!


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厄神様とガラスの靴
こっそり開設。
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