第73話:厄神様はかく世話をし
基本的にまえがきでは作者の近況報告とか更新滞りの言い訳とかを書いているのですが、一応このサイト様の説明では『読者への警告などを伝える場所』なんですよ。
警告ってなんなんでしょう?
『この小説には神様が出てきます。無神論者の方はご注意下さい』とか書くべきなんでしょうか?
とまあ、意味の分からないまえがきを展開してみたところで後半です。
「で、どーするんですかこの子」
「あたしに訊かないでよ」
「まま」
「えーと……わたしは違うと思います……」
「いや、恐らく全員違うと思うのだが……」
一瞬頭をよぎった不吉な予感とは裏腹に、女性陣は冷静に今後の対応を話し合っている。俺、馬鹿みたい。
「今頃気付いたか……ってあだだだだ!? や、止めろお前! く、首はマズイって首は! ぎゃごぉ!!」
「で、神楽。冗談抜きにアレ、どうするんだ?」
「君も意外と突っ込み所が多いね……」
桜乃が不慮の事故で異世界に旅立つのを見送ると、俺は自分の席に座って神楽に尋ねた。
「間もなく1限が始まってしまうぞ」
流石に教師に見付かれば誤魔化しは効かないだろうな。
「よし! ひとまずは葵君! 任せた!」
「嫌よ。なんであたしが」
「それはもちろん一番子供を抱える姿が似合っているから……一番母性本能に溢れていそうだからだよ!」
藤阪のただならない殺気に怯えて言い直す。だったら初めから不用意な発言をするな。
「まま」
子供はトコトコと藤阪の所まで歩いていった。話が分かるのか。
「……しょうがないわね。ま、一番後ろの席だし教師には見付かりにくいか」
いいのかよ。前の席は俺なんだぞ。余計な心労をかけさせないでくれ。
「ねえ、名前はなんていうの?」
「さやまさよ」
「……えぇーーー!?」
厄病神が叫ぶのと俺が盛大に椅子から転げ落ちるのとはほぼ同時だった。
「貴様かそんな名前吹き込んだのはーーー!?」
「い、いや!? 僕はただ自分で考えろと……」
「どれだけ偶然重なればそんな名前が出てくるんじゃーーー!?」
「……さ、さやまさよちゃんっていうんだー……へ、へぇー……」
「ま、マジでセンパイの親戚か何かなんですか……?」
「……まさか……本当に狭山の……」
「ち、違う! 違うぞ!」
幼い子供は嘘を吐かない。
そんなイメージがあるからだろう、一瞬でその子供は少なくとも俺の血縁関係者と見なされるようになった。
「まま」
「え……えぇー……。なんか凄い照れるなぁ……」
「おいそこ性格変わってるぞ。見付かったら面倒なんだから机の下にでもしまっとけ」
そう言うと机の下にぶちこまれた。俺が。
「やなお父さんねー。ママと遊びましょうかさよちゃん」
「うん!」
「……だから性格ちが……」
――キーンコーンカーンコーン。
「おし、授業を始めるぞ。自分の教室に戻れ。なんだ狭山、防災訓練か?」
完全にはめこまれて動けないだけです。
「――このitは形式目的語の役割がある。後ろのto-不定詞を意味上の目的語と考えるんだ」
「まま」
「ん? どうしたの?」
後ろの席で繰り広げられているプチ子育てが教室の一番前で熱弁を振るっている英語教師にバレたらと思うと気が気ではない。だというのにこいつらは呑気に会話を楽しんでいる。もっと小さい声でやれ。
「おなかすいたの」
「我慢しなさい。お昼ご飯はまだよ」
「うー……」
「――こら藤阪、訊いてるのか!?」
「へ?」
やばい。教師の注意がこちらに向いた。
「4行目の文章、読んでみろ!」
「あー……えっと、分かりません」
「『分かりません』だと? お前真面目に授業聴いているのか!?」
今日は機嫌が悪いのかやたらとしつこい英語教師。あろうことかツカツカとこちらに近付いてきた。
「う、うわ、ちょっと、なんでこっち来るのよ!?」
「なに言ってんだお前。さては内職でもしてたな?」
マズイ。このまま藤阪の所まで来られたら色々とマズイ。
「あっ! 先生大変です! 桜乃君が倒れました!」
「は? 狭山お前何言って――ベハァ!?」
思わずこちらを向いた桜乃目がけて思いきり筆箱を投げつけると、うまい具合に顔面に当たって桜乃は座席から崩れ落ちた。
「うぉ!? どうした桜乃!? 何があった!?」
英語教師はグワッシャンと派手な音を立てて倒れた桜乃の方へ意識がいってしまったらしく、踵を返してそちらへ向かっていった。
「……危なかった……」
「……あ、ありがと」
「ありがとー」
どういたしまして。
「つぎのまま」
「わ、私か!?」
一人の尊い犠牲と引き換えに無事1時間目を乗り越えた俺達だったが、こいつはまだ満足なさらないようで。
「うーん、何だか名残惜しいわねぇ……」
「あの短時間でなに情を移してるんだ」
すっかり母親らしくなってしまった藤阪をよそに、今度は碧海にしがみつき始めた。
「しかし、碧海凛の席はかなり前方だぞ」
そう。碧海の席は窓側前から2番目。5歳児を隠すのは不可能に近い。
「しょうがない、また藤阪に――」
「いや、私がやろう」
なんですと?
「はい、授業を始めますよ」
2時間目。ウチの担任が日本史教師として教室に入ってくる。
「凛さん、大丈夫でしょうか……」
「あいつなら多少の事なら見て見ぬ振りしてくれるだろ」
「多少の事とは思えないんだけど……」
とにかく、見つからないでくれ。
「……碧海さん、その子供は誰なんですか?」
10秒でバレた!
「……え、そ、その……私の妹です」
苦しい!!
「……そうですか。妹さんを学校に入れるのはあまりよくないので、次回は気をつけてください」
受け入れた!!!
こうして、誰もが台本通りに演技をしているというか、突っ込みたくても突っ込めない異様な空気の中で2時間目の授業は進められていった。
「狭山、どうするんだ? 次の時間は体育だぞ」
しまった。
3時間目は体育。つまりこのクラスでは誰も相手をしてやることが出来なくなる。
「えー、私ですかー?」
ということで辻に押し付け、もとい面倒を見てもらうことに。
「なんか嫌そうだな」
「いやー、これがホントにセンパイのお子さんなら命を賭けて育て上げるんですけどー。私の調べではセンパイはまだどうて」
「そんなもん調べてどうするつもりじゃーーー!?」
「むー。じゃーセンパイのお子さんだと思って世話をすることにしましょう」
正直言って藤阪の時のと段違い、むしろ比べ物にならない程の不安が俺を襲うが、この際仕方がない。
「いいか、任せたぞ?」
「らじゃー♪」
――ガラッッ!!
「お、どうした桜乃弟。俺達は体育が終わってこれから制服に着替えるんだが」
「……狭山先輩! 俺、見損ないました!!」
はい?
「自分の子どもが誰との子か分からないくらい浮気性だったなんてーーー!!」
「ちょっと待てお前ーーー!!」
「今度変な噂流したら承知しないからな」
「うー……痛いですー……」
「何はともあれ、順番としてはお前の番だな」
桜乃。お前、生きてたのか。
「お前がワケわからん暴力行為に及んだんでしょーーー!?」
「いや、あれは必要なことだったんだ。次も頼む」
「頼まれません!!」
とは言っても厄病神がいるから世話の点では大丈夫だろ。あとはバレないようにすることだが……。
「次、何だっけ」
「古文」
てことはジイさんか。あの人ならボケてるから心配ないだろ。
「じゃ、厄病神。頼む」
「はい! わかりました!」
「お! どうだったかね直樹氏!?」
「もう訊かないでくれ……」
昼休み。オカ研に呼び出された俺は神楽に事の顛末を尋ねられたわけだが。
「ごめんなさい……」
思い出すのもおぞましい。あの時間だけでトラウマが1ダースほど貯まった。
「たのしかったの」
「おお! そうかね! ではそろそろ帰るかい!?」
そうしろそうしろ。
「うん。じゃあね」
女の子は消えた。比喩ではない。消えてなくなった。
「……は?」
「驚くことではないだろう。身近に同じ能力を持つ相手がいたはずだ」
ということはまさか……。
「いやー! 頼むのに苦労したよ! 2時間粘ってようやく協力してくれることになったけどね!」
ネーベル、だと。
「俺のトラウマは……」
「まあまあ! 貴重な経験だっただろう!?」
いらん。
「でも……」
「どうした小夜」
「いまは、お昼ですよね。……どうして、わたしとお話できたんでしょう?」
「「「…………」」」
「ああ、あの話? 一回は受けたけど、面倒臭いから家にいたよ」
「ま、間違いなく?」
「しつこいな。そもそも昼間に吸血鬼の能力を使うのに必要な血は半端ないんだ。相棒だって嫌がるし。だからやってない」
「じゃ、じゃあ、わたしたちといたあの子は……?」
13番目のトラウマが、追加されたようだった。
藤「…………」
桜「大変だーー! 藤阪が倒れたーー!」
直「しっかりしろ藤阪! お前幽霊なんて信じないとか言ってなかったか!?」
厄「結局あの子は誰だったんでしょうか……?」
死「少なくとも敵意は感じなかった。問題はないだろう」
神「その前に神の頼みを断る吸血鬼がいていいのかね!?」
ネ「煩い。面倒臭いことを押し付けるお前が悪い」
長いよ。
そしてその割に内容ないよ。
今回の話は少し前に出だしだけ思いついたのを広げたんですが、既にやらなきゃよかった感が……。
ど、どうでしょうか?
本当は藤阪さん以外の人についてももっとボリューム増して書きたかったんですが、尺の都合で泣く泣くカット……。
修羅場とか期待してた方はごめんなさい。
次回は久し振り?の藤阪さんメインです。