第71話:厄神様はかく贈りき
広島からこんにちは。
ガラスの靴です。
いま2泊3日の旅行に来ているのですが、厳島神社の美しさに感動しました。あと鹿。
さて、では第71話をどうぞ。
「直樹氏、ちょっといいかね……?」
週明けの月曜日、珍しく言動に覇気のない神楽が教室にやってきた。
「……どうかなさったんですか?」
「また厄病神がらみか?」
「いや、そんなことではないのだよ……」
別人みたいだ。いつもの感嘆符連発な話し方はどこにいった。
「舞君が」
「わかったもういい」
「舞君が何もしてくれないのだよ!!」
教室を包んでいた朝の爽やかな空気は欲望にまみれた発言で完全に消え去った。
「成程、もうそんな時期か」
一人静かに本を読んでいた死神がそれを閉じて会話に加わってきた。そんな時期ってどういうことだ。
「実はだね、昨日は――」
「神と市原舞が出会った日だ」
「舞さんと?」
「神楽がねぇ……」
「――…………」
もう教室の隅で体育座りをしている神楽は放っておこう。
「で、『何もしてくれない』か」
普段からあんな感じじゃ、記念日だからといって改まったことなんかしない気がする。
「それでも神と市原舞が出会った翌年から毎年プレゼントを贈っているらしい」
意外だ。意外過ぎる。
「そ、それはちょっと言い過ぎじゃ……」
その時、授業開始のチャイムがなり、一時限の教師が教室に入ってきた。
「どうした神楽、授業はもう始まってるぞ」
ぺいと教室から放り出される姿は哀愁を漂わせていたとかいないとか。
「狭山さん、少し相談したいことがあるのですが」
その日の部活の時間、市原が俺に何やら話しかけてきた。
「もしかして、神楽の事か?」
「……ミステリです」
いやいや。
「神楽さんへのプレゼントのことですか?」
「…………ちょっと待って下さい。……もしかして、神楽さんから何か訊いていますか?」
それなりに。
「……それはまた……お恥ずかしい限りです……」
顔を赤くする市原なんて初めて見たぞ。なんか新鮮だな。
「でも、とってもいいことだと思いますよ!」
「…………」
厄病神、フォローするどころか追い詰めてるぞ。
「……分かりました。考え方を変えましょう」
市原が開き直った。
「話が早いです。神楽さんへ贈る物は何がいいか一緒に考えて下さい」
やっぱりそういう相談か。
「なになに、何の相談?」
「私たちもヒ……手が開いたから手伝いましょう」
暇を持て余した人間ほど厄介な物はないな。サボリの二強がやってきた。最近俺も3人目に登録されているような気がするが。
「神楽に物を贈りたいんだと」
「龍一に? なんでまた?」
そこら辺の事情はどうでもいいだろ。要は何を贈ればいいかだ。
「どうでもよくはないですよー。友達の誕生日に指輪贈ったら大変なことになりますよー」
そりゃまた偉く誤解を招きそうな選択だ。
「お前がいいと思った物でいいんじゃないか?」
「それだと少し問題がありまして」
「去年は何を贈ったんですか?」
厄病神が尋ねると、市原は僅かに戸惑った顔をした。
「……私と神楽さんが出会ったのは3年前のことです」
「へぇー。意外と前から知り合いだったのね」
「その頃からロリコンの素質があったんですねー」
外野、煩いぞ。
「2年前、何か贈りたいと思った私は土偶を贈りました」
「…………」
「…………」
……何故?
「似合うと思ったからです」
いやまあ確かに神を偶像化した物ではあるけれども。
「神楽さんはひきつった笑みでそれを受け取り、部屋の片隅に飾っていましたが、やがていなくなっていました」
「神楽さん、土偶と一緒の暮らしに耐えられなかったんでしょうか……?」
知るか。
「1年前、私は前回の反省を活かして食べ物を贈ることにしました」
「い、いいんじゃないの?」
「そうですねー。反省がいかされてます」
「そこでイナゴの佃煮を贈りました」
「……イナゴ……」
「……渋いチョイスだな……」
何故そんなものを思い付く。
「ゴメン……虫はパス……」
藤阪、リタイア。
「イナゴですかー! おいしいですよねー!」
「嘘ぉ!?」
「神楽さんは一気にかきこむと、暫くしてからトイレへ駆け込みました」
なんだろう、神の苦悩が垣間見えた気がする。
「で、今年は何を贈ればよいでしょうか?」
「「「「何も贈らないのが一番だと思う(ます)」」」」
「え? 神楽先輩のイメージ?」
「はい。お訊かせ願います」
「なんかいっつも楽しそうだよね〜」
「そうじゃなくてこう、何か持ってそうー、とか、何か食べてそうーとか」
いくら何でも贈らないのはまずいのでは、という厄病神の提案に従い、俺達は第三者の意見を訊いてみることにした。即ち、桜乃弟と藤阪妹である。
「何かないか?」
「うーん……難しいですね……」
「あっ! なんかアレ! ドラマとかに出てくる怪しい科学者!」
そうか?
「確かに得意気に発明品を見せびらかしそうではあるけど……」
「それじゃあ――」
「神楽さん」
「……おお舞君! どうしたのだねこんなところで!?」
オカ研部室で一人何かをしていた神楽は突然の来訪者に少し驚いた様子だった。
「あたしたちもいるんだけど」
「ほら、神楽センパイって小さな人しか見えませんから」
「んん! ばっちり見えているよ君達!」
俺と厄病神は最後まで無視かよ。
「ま、まあまあ……」
「それで舞君、こんな時間にどうしたのだね!? 今日は吹奏楽部だっただろう!?」
「これをお渡ししたかったので」
――バサッ。
「これは……」
市原が広げたそれは、なるほど神楽らしいアイテムだった。
「……駄目……でしたか?」
「いや……うん、素晴らしいよ……この白衣は」
「時代を先取りしたアイデアね」
「私だったらそのままメス持って斬り刻みますね」
いやまあ俺もどうかと思ったよ。それでもそれしか思い浮かばなかったんだからそんなに俺を見るな。
「……私はお茶を入れてきます」
「あ、舞さん……」
市原はそのまま部室の奥へ消えてしまった。何故オカ研の部室に茶を沸かすスペースがあるのかには突っ込みたくない。
「あーあ、舞さんが可哀想ですねー」
「あんた嘘でも嬉しいとかいいなさいよ」
「ぼ、僕は感激しているよ! 見て分かるだろう!?」
「むしろあまり喜んでいないように見えたぞ」
「なんと!?」
普段から感情表現がストレートだからな。誰がどう見てもイマイチな反応だったぞ。
「どうしてあんな反応だったんですか? 普段の神楽さんらしくなかったですけど……」
「……す、少し恥ずかしくてね……」
「…………は!?」
神楽からそんな台詞が出てくるとは。
「……ははーん」
辻が何やら納得した顔をしている。なんなんだ。
「神楽センパイ、正直に答えて下さい。舞さんがくれた土偶、いまどうなってます?」
「飾っておくのも恥ずかしいから押し入れにしまってあるよ。毎日手入れしているけどね」
「イナゴの佃煮は?」
「とても美味しかったからすぐに食べてしまったよ! お陰でトイレに駆け込む羽目になったがね!」
「それって……」
「間違いないわね」
「神楽センパイ、はっきり言いましょう。舞さんは今までのプレゼントみんな失敗したと思ってますよ」
「……な、なんだってーーー!?」
毎年そんな反応してたらそりゃな。
「今からでも遅くないわよ。きちんと感謝の意を伝えなさい」
「……そうだね。きちんと伝えてみるよ」
あと土偶はちゃんと飾っておけ。
「……お茶が入りました」
その時ちょうど市原が戻ってきた。お茶を部室のテーブルに置いていく。
「……舞君」
「はい? なんで――」
――ガバァッ!
「……か、神楽さん!?」
「ありがとう! 今までのプレゼントも凄く嬉しかったし、今回のも嬉しいよ!」
何をとち狂ったか神楽はいきなり市原に抱きついた。阿呆かお前。
「ちょ、ちょっと待って下さい。み、皆さんが見てます」
「いーえいーえ。気にしないで続けて下さいー」
「ハッハッハ! 恥ずかしがることはないよ!」
セクハラもその辺にしておけよ。
「か、神楽さん!」
「舞君、大好きだー!!」
「……帰りましょうか」
「……そうだな……」
これ以上見てられん。俺達は退散を決めることにした。
「舞さん、頑張ってくださいっ」
「な、何をですか!?」
「あんま遅くならない内に帰れよ」
「さ、狭山さ――きゃあ!?」
まあ、頑張れ。
「コラ神楽、なんだその格好は!?」
「ハッハッハ! 心配はいらないよ体育科の大山教諭! 生徒会が実現した公約を僕自身が体現しているだけさ!」
その後、白衣を着た生徒会長が学校で話題になっていったが、それはまた別の話である。
桜「聞いたか? 最近話題のヒトジャナインジャー、リーダーがレッドからホワイトになったらしいぞ」
藤「あっそ。まあどうでもいいけど」
辻「そーですね。どうでもいいです」
神「酷いね君達! 何のために僕が――」
厄「え? 神楽さん、レッドさんたちとなにか関係があるんですか?」
神「――僕が、生徒会長になったと思ってるんだい?」
死「市原舞のためだな」
舞「ありがとうございます」
直「ここまでバレバレな秘密のヒーローも珍しいな」
今回のお話は珍しく舞さんメイン。
普段からは考えられないくらいわたわたしてますがどうだったでしょう?
なんかいつも落ち着いている人が隙を見せると徹底的にいじりたくなりますよね。
さて、楽屋裏の会話の通り、超人戦隊はホワイトとブラックになりました。
対になってて良い感じですね。
次回はちょっと神様が悪戯を。
ではでは〜!