第70話:厄神様はかく忍ばれ
毎日更新にも慣れてきたかな、とか言った瞬間この体たらく。
どうもごめんなさい、ガラスの靴です。
うーん、もっとちゃんとせねば……。
言い訳はこのくらいにして、第70話をどうぞ。
「あ」
「……どうした?」
なし崩し的に辻の宿泊が決定事項となってしまい、どうしたものかと頭を抱えていると厄病神までもが困った顔で俺の方を見つめた。
「夜ごはん、どうしましょう……?」
「あ」
「……? センパイ、どうしたんですか? そんな顔して」
「いや、ちょっとな……」
考えれば今まで当たり前のように眺めていた厄病神の調理風景も辻からすると単なるポルターガイストだ。おかしな趣味の従姉妹がいてさらに幽霊屋敷に住んでいるなんて噂が立つのは極力避けたい。
「え? 夜ご飯ないんですか?」
「まあちょっとした事情で」
なので俺は正直に夕飯が無いと言うことにした。正直にという部分に疑問を感じた奴は共犯だ。
「う〜ん……材料はあるんですか?」
「冷蔵庫の中に入っているのが全部だな」
「見てもいいですか」
厄病神の方を見ると特に駄目という訳ではなさそうなので了解することにする。
「それじゃー失礼しますー」
冷蔵庫に残った食材を見てふむ、と考えること数秒、
「台所を借りますねー」
それからわずか30分後、あっという間に豪華な食事がテーブルに並んだ。
「ほわ〜……」
「……すごいのう……」
「見事なものだ」
「えっへん」
誉めるな誉めるな、調子に乗る。
「しかし確かに凄いな。食べてもいいのか?」
「もちろんです! いただきましょう!」
「それじゃ、遠慮なく」
辻の料理は予想通りの美味さだった。やらなくていいと言ったのだが食器洗いまで済ませてしまい、手持ちぶさたとなった俺はせめて風呂でも沸かすことにした。
「という訳で風呂が沸いたぞ。入るか?」
「何が『という訳で』なのかさっぱりわかりませんが女性に対してその質問は限りなく愚問ですよ」
だろうな。着替えはあるのか?
「ないのでセンパイの服を借ります」
「おい」
「じゃあ置いておいてくださいねー」
行ってしまいおった。勝手に人の服を着ようとするな。
「俺なら今から辻満月の家に行って私服を取って来ることが出来るが」
その一見ナイスアイデアに見えて俺の評判を地の果てまで陥れそうな提案はわざとか。
「残念だ」
そして30分後。
「あがりました〜」
「随分おそ……」
「やっぱりセンパイの服って大きいですねー」
「……つ、つ、辻さん……」
「お……お前……」
「おもしろい格好をしておるのう」
「ああ。面白いな」
「なんで上しか着てないんだぁーーー!?」
辻は、俺のパジャマの上だけしか着ていなかった。
「いやー、基本じゃないですかー」
「なんの基本だ!? いいからとっととズボンも穿いてこい!!」
「あれセンパイ、もしかして恥ずかしいんですかー?」
「いいから黙って着替えろーーー!!」
「きゃーー♪」
「死ぬ……」
正直言ってキツい。
奴も生意気なクソガキとはいえ、一応れっきとした高校生なのだ。今更ながら自分の流されやすい性格を呪う。
辻を客室にぶちこんだ俺は精神統一の意味も込めて少し長めの風呂に入ることにした。
「本当に、何考えてるんだ……」
あいつの行動にはさっぱり方向性が見えない。だから困る。
――ガラッ。
「センパーイ、お背中流しに来ましたー!」
「ああぁぁ! 出てけーーー!!」
……いかん、マジで危険だ。
「……それで、どういう訳だ」
「お前の憎たらしい顔でも見ていれば少しは落ち着くかと思って」
「……大分精神に疲れが出ているな」
俺は今死神の部屋に転がりこんでいる。今の精神状態では厄病神や玉藻の部屋に行くのも躊躇われる。
「もう本当にあいつの行動原理が分からん。おかげで毎度毎度驚きっぱなしだ」
「……ふむ、それは本当にそう言っているのか?」
どういう意味だ。
「まあどちらでも俺には関係のないことだ。では自分の部屋に帰れ」
「随分冷たいなおい。何かあるのか?」
「寝る」
納得。
「…………」
……むう。
「…………」
……眠れん。
電気を消して布団に潜りこんだはいいがそこから次の段階に進むことが出来ない。もう少し図太い神経だと思っていたのだが。
だが眠れなくても寝るしかない。寝返りをうって無理矢理目を閉じる。
――………。
ちょっとした気配。普段この時間にはもう寝ている俺なら気付かなかったであろう違和感を、今日は幸か不幸か察知した。
「…………?」
布団がめくれる感触。
「お邪魔しまーす」
「……なあああぁぁぁ!?」
深夜の住宅街に響き渡る何度目かの絶叫。皆さん本当に申し訳ない。
「直樹さん! どうしたんですか!?」
「近所迷惑だぞ」
叫び声を聞き付けた厄病神と死神が電気を付ける。
「おおお前、ななにしてんだ!?」
「あ、あれー? センパイ、起きてたんですかー?」
そこには案の定というか何というか、辻の姿があった。
「……今のうちに言いたいことはあるか……?」
「え、えーとー……。あまり痛くしないでくださいね♪」
ブチッ。
「自分の部屋で寝ろーーー!!」
「きゃーーー!?」
――……起きてください……。
バッッ!!
「ひゃっ!? ど、どうしたんですか?」
「……厄病神か……」
結局昨夜は殆ど眠れなかった。今も辻かと思って一瞬で目が覚めた。
「辻さんなら、いま朝ごはんを作ってくれてます」
「そうか……」
「あの、大丈夫ですか?」
そのまま一階へ降りていくと、リビングには既に玉藻と死神、そしてエプロン姿で味噌汁を作っている辻の姿があった。
「あ、センパイ、おはようございます♪」
「ムカつくほどすがすがしい笑顔だな」
そのエプロンはどこから仕入れたんだ。
「俺のものだ」
「そういえば以前つけてましたね……」
もう突っ込む元気もない。正直これほど休みたいと思った朝は昔インフルエンザで休んだ時くらいしかない。
「お主、あやつはもう帰るのじゃな? そうなのじゃな?」
「じゃなきゃ俺が困る」
結局玉藻の存在はバレてしまったが、まあ何とかなるだろ。
「はい、できましたー! それじゃー早く食べて学校に行きましょうか!」
結構本格的な朝食が並ぶ。まあこんな料理が食べられるなら少しくらいの苦労も――
「ね、センパイ♪」
――割に合わんな、全く。
辻「いやー楽しかったですねー」
藤「あああんた、なにしてんのよー!?」
桜「お、落ち着け! お前にもいつかチャンスがくる!」
舞「神楽さんのせいであちらが大変なことになっていますが」
神「ハッハッハ! 良いことをした後は気分が良いよ!」
直「お前ちょっとこっち来い」
タイトルを見てちょっとでもロマンティックな香りを連想した方、この作品にそんなものはありません。
というわけで第70話でした。
いやもう、ね。
何がキツいって、主人公を抑えるのがキツ過ぎです。
そのまま辻ルートに突入しかねないところを何とか堪えて出来たのが今回のお話。
正直書いてて主人公に嫉妬しました。
むしろ代われ。
次回は予定通り神楽と舞の話です。
ではではー!