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第6話:厄神様はかく食べれず

第6話です。

今回ものんびりやっているようです。

「……樹さん、直樹さん」

「……ん……?」

「…きて下さい……」

「……どこへ……」

「起きて下さい、遅刻してしまいます」

 ……なんだと?

 まどろみの中を漂っていた自意識を強制的に引き上げて跳ね起きる。

 ……時計は8時ジャスト。普段起きる時間に1時間の延長が加わっていた。

「……!! 何をやっているんだぁー!?」

「す、すいません! その、起こしてさしあげようと思いまして……」

「くそっ! とりあえず着替える! 出てけ!」

「は、はいっ!」

 厄病神を部屋から追い出し、急いで制服を取り出す。

「だいたい目覚ましはどうした!? 鳴った記憶がないぞ!?」

 会話を続けながら着替える。くそ、ボタンがかからん。

「そ、それは……」

「それは!?」

「せっかく起こしてさしあげようと思ったので、邪魔だから消してしまいました」

「……阿呆ーーー!!」

 

 

 厄病神が来てから数日が経った。基本的な生活は変わらないものの、相変わらず油断すればどこかにぶつかるし、馬鹿どもにはもう3回絡まれた。昨日は登校中に階段で(つまづ)くという醜態(しゅうたい)をさらしてしまった。なんてことだ。

 そして厄病神が来てから最大の変化は、学校に辿り着く時間が日に日に遅くなっていることだった。

 

 

――ガラッ!

「はい、狭山くん、遅刻ですね」

「……」

 諦めかけてもめげずに全力疾走し、校舎の階段を3段飛ばしで駆け上って教室に飛び込んだが、待っていたのは担任の笑顔と非情な宣告。決して消せない人生の汚点が付いてしまったことに絶望しながら俺は席についた。

「あんたが遅刻なんて珍しいわね。そんな落ち込まなくてもすぐに慣れるって」

 煩い藤阪。お前が遅刻していない方が珍しいわ。

「ああそう。ちなみにメール来なかったから罰として昼休みよろしく頼むわよ」

 なんてことだ。

 

 

 昼休み、逃げ切れずに捕まった俺を連れた藤阪となにが楽しいのかニヤニヤ笑いながらついてきた桜乃は学食に来ていた。なにを笑っている。帰れ。

「いやだって、こんな面白そうなこと見逃せねーじゃん」

 何を抜かす。お前は大人しく購買のパンでも買って食ってろ。

「コラ直樹! さっさと買ってきなさい!」

「断る」

「行きなさい!!」

 掌底をくらった。学食のど真ん中でそんな技繰り出すな。

「皆さん、楽しそうですね」

 砕かれかけた顎の安否を気遣っていると厄病神が声をかけてきた。こいつもさすがに知人の目の前で俺が見えないモノに語りかければどういう反応をされるか考えていたようだ。食券を買って並んでいるこの状況なら隣に独り言をブツブツ言っていても気付かれにくい。あまり大きな声を出さないよう注意しながら会話を続ける。

「お前、なんで俺には触れるのに他の奴らはすり抜けるんだ」

「さぁ……どうしてでしょう……?」

 知らないのか。『とり憑いているから』というような答えがくると思っていたのだが。

 ……そういえば、食事を作ろうとしたり目覚ましを止めたりは出来るんだよな。

「食事とかはどうしてるんだ?」

「お腹が空きませんので、何も食べてないです」

 何か食べたいとは思わんのか。

「う〜ん……」

 厄病神は暫く考えたあと、ぱっと顔を上げた。思い付いたのか。

「アレが食べたいですっ」

 

 

「……あんた、そんなもん食べてたっけ」

「……今日はたまたまそういう気分なんだ。気にするな」

 学食のテーブル。正面には俺の金で買ったカレーを食う藤阪とカツ丼を買った桜乃。そして手元には俺のラーメンと、その隣に……チョコレートパフェ。

「ありとあらゆる意味で似合わねーな……」

「煩い。黙れ。殺すぞ」

 正確には俺の横にはパフェを必死に食べようとしている厄病神がいるのだが、傍目にはどう見ても甘党の食事風景にしか見えないだろう。

 俺が羞恥(しゅうち)に身を引き裂かれそうになっている間にも厄病神はパフェに手を伸ばし続けているのだが、どういう訳かひたすらすり抜けるのみ。

「直樹さん……」

 ええい、そんな泣きそうな目で俺を見るな。お前が食べたいと言って買わせたんだろう。

「あんた、そのパフェ食べないわけ?」

「……しばらくラーメンの余韻を楽しんでいるんだ」

 既に食べ終えたにもかかわらずパフェに手をつけない俺を藤阪が(いぶか)しむ。くそ、そろそろ限界か。

 パフェにゆっくりと手をのばす。それに気付いた厄病神が慌てて俺の手を掴むも、ここで動きを止めていたら余計変なヤツだ。

「……」

 だから涙目で俺を見るな。ふるふると首を振るな。

 結局、チョコレートパフェは俺の手にしっかりと――

「あれー、センパイ、なにやってるんですかー? 食べないなら私が貰っちゃいますねー!」

――掴まれる前に横から現れた辻に奪われた。

「〜〜〜〜〜〜!!?」

 声にならない悲鳴をあげる厄病神。やめろ、俺の耳がいかれる。

「……あれ? あんまり反応しませんね? ひょっとしてこれ藤阪センパイのなんですか?」

「あたしのじゃないわよ。何故かこいつが買ってきたのよ」

「自分で買ってきたのに食べないんですか? 相変わらず意味不明な思考回路してますねー」

 かなり失礼なことをのたまってくれるクソガキ。ぶっとばすぞ。

「……もういい。それ、お前が食え」

「あれ、ほんとにいいんですかー?」

「構わん。あまり食いたくもなかったしな」

「やったー! センパイに奢ってもらっちゃったー!」

「……お前、いつからそんな優しい先輩キャラになった?」

 俺を含めてこの場にいた全員が思ったことを代弁してくれた桜乃。キャラとか言うな。不愉快だ。

「……ちょっとな。気分だ」

「ひょっとして遅刻したから壊れてんの? 意外とデリケートな感性してんのね」

 そんな理由ではないが、もはや反論する気力もない。曖昧に頷いておくことにした。

「わたしのパフェ……」

「何一つ損をしていない分際で文句をたれるな」

 

 

 この日以降、辻がやたらとたかるようになったのを付け加えておく。


タイトルがだいぶ苦しい第6話でした。

予定を変更して、もう1話分くらい今のキャラで頑張ってもらうことにしました。

学食にパフェなんてあるのかというツッコミは無しの方向でお願いします。

次回は休日のお話です。

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厄神様とガラスの靴
こっそり開設。
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