第66話:厄神様はかく引き受け
どうもこんにちは、ガラスの靴です。
大変更新が遅れてしまい本当に申し訳ございません。
とりあえず本編をどうぞ。
「お願いします!」
ある昼休み、昼食を終えた俺が教室へ戻ろうとしていると、熱心な勧誘の声が聞こえてきた。
「いや、だが……」
渋る声。見ると、廊下の角で碧海が女生徒に詰め寄られていた。
「どうしたんでしょう……」
「見たところ下級生だな。碧海、どうした」
「ああ、狭山か。いや、なんでもない」
「お願いします! 碧海先輩の力が必要なんです!」
さっきからやたら懇願されてるみたいだが。
「どうかなさったんですか?」
「……実は、この生徒は女子弓道部の部員なんだが――」
「女子弓道部は今度の大会で成績を残さなければ廃部なんです!」
いきなり割り込んでくるな。今は碧海に話を訊いているんだ。
「碧海先輩は剣道柔道弓道その他あらゆる武芸の達人なんですよね!? 部長が1年生の時に碧海先輩から教わって一気に上達したって言ってました!」
聞いちゃいない。俺の周りにもう少し話を聞く奴がいたって罰はあたらないだろ今頃商店街でヒーローごっこやってる神様よ。
「そうだ。彼女はどうしたのだ。まだ引退はしていない筈だが」
「……それが……」
――ビシュッ!!
「――体調不良ねぇ……」
「はい……。ここのところ成績がふるわなくて……。それに今回の話が持ち上がって、無理をしすぎてしまったみたいです……」
ここは放課後の弓道場。弓道部しか使わないような施設をわざわざ建設してあるところにかつての弓道部の隆盛の影が見えるが、今ではそれも風前の灯火だ。
「お願いです碧海先輩! 今回だけでいいんです! 今回だけでいいから、部長の代わりに出て下さい!」
「しかし私は――」
「出てくれますよね!?」
「い――」
「碧海先輩ならそう言ってくれるはずだと信じてました!」
しかしこれは……。
「ものすごく強引ですね……」
「流石にここまでのは見たことないな……」
このままだと本当に碧海が弓道部の大会に出そうだな。
「おい、碧海に何も喋らせてないだろ。そういうのは交渉として成立しないんじゃないか?」
俺が割って入ると、その後輩はじろりという擬音がしそうな動きで俺の事を睨み始めた。
「さっきからずっと思ってたんですけど、あなた碧海先輩のなんなんですか?」
「な、何を……!」
「いや、俺はただの――」
「言っておきますけど!! ただの友達なんて答えだったら、即刻帰ってもらいます!!」
なんてことだ。
「わたしたちは碧海先輩が必要なんです! 碧海先輩の友達なんかに用はありません!」
なんという口をきく後輩だ。しかしながら俺の心にあまり怒りが沸かないのは悲しいかな普段からこれくらいの理不尽な要求を突き付けられているからかもしれんね。
「どうなんですか!? 彼氏なんですか!?」
「こ、こら! そういうことはもっと落ち着いて……!!」
突っ込む箇所がおかしいぞ碧海。というか名も知らぬ後輩よ、仮に俺が彼氏だと答えたら見逃すつもりなのか?
「そうだ。俺は彼氏だ」
「……さ、狭山……!!」
「……そうだったんですか。分かりました。彼氏の方が言うなら仕方がありません。碧海先輩、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「なに、これくらいならいいよな……碧海?」
「……なぜ私がお前の彼女などにならなければいけないのだ」
「い、いや、なんというか、ああ言うしかなかった、みたいな」
「これ以上の屈辱はない! 斬り捨ててくれる!」
「ぎゃああああああ!!」
「……どうした狭山、顔が青いぞ」
「いや、ちょっとした考え事をな……」
「なんであの質問で顔が青くなるんですか」
深い深い事情があったんだ。気にするな。
「と、ともかく、狭山もそういう質問は迷惑だろう!? な!」
まあ答えにくくはあるが。
「だから、その質問はこれっきりにしよう! ひ、ひとまず練習を見せてもらえないだろうか!?」
「はぁ……。部員はあっちにいますけど……」
「……なんだか碧海さん、とてもたくさん喋ってました」
そうだな。あらぬ疑いをかけられたんだから、あとで謝っておくか。
「……はあ……」
「なんだその溜息は」
「直樹さん……謝らないほうがいいと思います」
どうして。
「そういうものなんです」
言い切られてしまった。実際人の感情を読むのは苦手だし、ここは厄病神の言い分に従っておくか。
「で、結局引き受ける羽目になったと」
「そうみたいですね……」
いつの間に準備したのか、碧海は他の弓道部と同じ服に着替えて矢を放つ姿勢に入っていた。
「うわぁ……遠い……。それに的もちっちゃいですね……」
的までの距離は一般的に60m、的の大きさは1mだったか。なんにしても的に当てるなんてのは素人には不可能だろう。
「……」
碧海が矢をつがえる。それと同時に弓道場を沈黙が支配する。
「……!」
そして、放った。
矢は吸い寄せられるかのように的へ向かって飛んでいき、かなり中心に近い部分へ突き刺さった。
「……す、すごーい! 凛さんすごいです! ほんとに当ててしまいました!」
興奮しすぎだ。
「1つ目でこれなら大会でも充分通用します! やったよみんな!」
「……ふぅ」
その場の誰もが喝采を贈るその主は緊張が解けた様子で息をはいていた。
「本当にすごいな。あそこの道場は伊達じゃないってことか」
「そんなことはない。あの程度のことは訓練さえすれば誰にでも可能だ」
その訓練が難しいんだ。そんなに謙遜することないぞ。
「あ、ああ……」
「これなら来週の大会本番に間に合いますね! バシバシ練習してください! あとあなたはもう帰っていいです!」
なんてことだ。
「私なら大丈夫だ。狭山は気にせず部活へ行ってくれ」
「そういえば直樹さん、今日部活じゃありませんでした……?」
「……しまったあぁぁ!!」
案の定待ち構えていた部長にいびりいびりと文句を言われ、心身共に疲弊した俺は部活が終わると同時に帰宅への第一歩を踏み出したのであった。
――……シュッ!
「……あれ、今の音……?」
「……あいつは……」
「……ふぅ」
弓道場には、まだ練習を続けている碧海の姿があった。
「まだやってたのか」
「さ、狭山っ」
なんでそんなに驚くんだ。
「もう部活も終わる時間だぞ。まさか今までずっと練習してたわけじゃないだろうな」
「……そ、それは……」
……そんなとこだろうとはおもったが。
「まあいい。ほれ、差し入れ」
もう終わりにするにしても今までやっていたなら喉くらい渇いているだろう。コンビニで買ってきたおにぎりとお茶を渡す。
「……ありがとう……」
「で、なんでそんなに頑張ってるんだ」
頼まれたことには全力で取り組む、それはいつものことであり、俺も今までに何度か見ているのだが、今回はなんとなくそれだけではないような気がする。
「……これを見てくれ」
碧海が差し出したのは矢を当てる的。中心近くに穴が開いている。
「これは……?」
「なんなんですか?」
「……それは、私が最初に矢を放った時の的だ」
あの時のか。
「で、これがどうかしたのか?」
「見ろ。中心には当たっていない」
見てみる。
「3cmくらいしかずれてないんだが」
「だがその3cmが闘いにおいては命取りなんだ」
闘い?
「私は今の環境に甘えていた。あの吸血鬼は聞けば遥か昔からあそこに住んでいたらしい。その存在を知ることが出来る立場にいながらお前を危険な目に遭わせ、あまつさえ自分自身闘いに敗れてしまった」
「…………」
「それも、本来ならば中心を射抜くことが出来た。それが出来なかったのは、退魔士としての怠慢が原因に他ならない」
「……そうか」
「凛さん、あまり無理はなさらないでくださいね?」
「わかっている。大丈夫だ」
あまり邪魔するわけにもいかない。さっさと帰るとしよう。
「……狭山」
弓道場を出る間際に呼び止められる。
「……こ、こんなことを訊くのは変かもしれないが、さ、さっきの質問……」
「質問?」
「狭山は、な、なんと答えるつもりだったんだ?」
……なんのことだ?
「いや! 思い出せないならいいんだ! 忘れてくれ! また明日!」
「あ、ああ。また明日」
「何の話だったんだ……?」
「直樹さん、ボケたんじゃないですか?」
いきなりキツいな。
「そうですか? いつも通りだと思いますよ」
「全然違うだろ……」
まあいいか。俺も家に帰ることにした。
厄「直樹さん、ニブすぎです!」
直「何を言う。こう見えても俺はそれなりに場の空気を読むほうだと思うぞ」
桜「どの口が言うか……」
死「空気を読むことと鈍くないことは違うぞ」
辻「ま、センパイに言っても無駄でしょうねー」
藤「無駄ね」
玉「無駄じゃの」
直「なんでこんな集中砲火……?」
舞「神楽さん、そろそろ私も出番が欲しいのですが」
神「心配は要らないよ! 次回はきっと舞君の話さ!」
というわけで。
もうね。
これだけの話を書くのに何日かけてるんだと。
お前のキーボードは5tの力がないと押せない特注品か何かかと。
次回は出来るだけ明日に更新する予定です。
ほんっとにごめんなさい……
どうか次回を楽しみに……