第65話:厄神様はかく散歩し
どうもこんにちは。
ガラスの靴です。
さて、以前碧海を描いて頂いたという話をしましたが、プラスして厄病神と藤阪と辻を描いて頂けました。
やばい可愛い。
皆様にお見せ出来ないのが本当に残念ですが、まあしょうがない。
では第65話、どうぞ。
駅前の商店街。部活も終わり、買い物を済ませて家に帰ろうとすると、見慣れた高級車が止まっていた。
「あれ? あの車って、ネーベルさんのお屋敷のものじゃないですか?」
「ああ。そんな感じがするが」
車に近づいてみるが、中には誰もいなかった。違うのかもしれないな。
「おや、狭山様。お久しぶりでございます」
車はやはり高橋さんのものだったようだ。そうしているうちに本人がやってきた。
「……なんですか、その荷物」
高橋さんは両手いっぱいに買い物袋をぶら下げていた。執事服のナイスミドルとスーパーの袋は合わないな。
「なにせ使用人の賄いなどもありますので。一度の買い物では足りない時もあるのですよ」
「大変なんですね……」
「どうでしょう。もしよろしければ屋敷の方へいらっしゃいませんか」
厄病神が人知れず同情している傍で、高橋さんは車に荷物を積みこんで俺にそう提案してきた。
「それじゃお言葉に甘えて」
かくして俺は車に乗り込み、ネーベルの館へ向かったのであった。
「来てくれてありがとう」
出迎えたのはネーベル(昼)。まだ夕方だしな。
「久し振りだな」
「そうなの」
「お体の調子はどうですか?」
「それじゃあ部屋に案内するの。ついてきて」
「あ……」
質問に答えないで背を向けたネーベルを見る厄病神。そういえば昼間のあいつは厄病神の姿が見えないんだったな。
「……そんなに気にするな。大丈夫だ」
「……あの、この頭の上の手はなんなんでしょうか?」
そんなに気にするな。
「……どうしたの?」
「いやなんでもない。ほら、案内してくれ」
「……」
ネーベルはその場に立ってしばらく考えていたが、やがてしっかりとこちらを向いて言った。
「もうひとりの『私』が言っていたの。ナオキには幽霊の女の子が憑いてるって」
「え……?」
「今の私には見えないけど、いるの。だからあいさつ」
ネーベルは俺の右辺りに向かってお辞儀をした。
「こんにちは。私の名前はネーベル=フォン=カルンシュタイン。これからよろしくなの」
「……はい。私の名前は小夜です。これからよろしくお願いします」
左で、厄病神が挨拶を返す。細かい事は言いっこなしだ。
「それじゃあ部屋に行くの」
「そうだな」
「行きましょう!」
「そういや、はっきり名前を呼ばれたことはなかったな」
さっき呼ばれて少しびっくりしたぞ。
「……おかしかった?」
「いや、別におかしくはないが」
他にも名前で呼ぶ奴はいるしな。
「…………」
「そういえばネーベルってのもよくよく考えたらファーストネームなんだよな。……ネーベル?」
難しい顔で考え込むネーベル。何か気に障る事を言っただろうか。
「…………」
「あ、あの、ネーベルさん?」
「…………」
「ネーベル=フォン=カルンシュタインさーん?」
「決めたの」
「は?」
スイッチを入れた機械のように活動を開始したネーベル。何を決めたって?
「ナオ」
「何が」
「呼び方なの」
いや、直樹でいいんだけど。
「じゃあナオちゃん」
「それだけは止めてくれ」
結局最初の『ナオキ』が一番まともだということで、なんとかこの話は収まった。
「お嬢様。そろそろお時間です」
なんてことだ。馬鹿馬鹿しい会話を繰り広げている間に日が沈む。
「……それじゃあ、『私』はまたね」
「ああ。また来るよ」
「また今度、です」
日が、沈む。
「……ふう」
そして、もうひとりのネーベル=フォン=カルンシュタインが姿を見せた。
「お久しぶりです」
「そうだな。久し振りだ」
厄病神がまずネーベル(夜)に挨拶をする。今度はきちんと通じた。
「さて、お前は挨拶はどうした? うん?」
「する。するから血を吸おうとするな」
「いや、むしろ挨拶しなくていい。しなくていいから吸わせろ」
「ふざけんなぁー!!」
「まったく。ほんの少し吸ったからといって減るわけでもないのに心の狭い男だ」
「減るわっ」
「ま、まあまあ、直樹さん。落ち着いてください」
これが落ち着いていられるか。
「……さて、それじゃ私はこれから日課の散歩に出掛ける。お前たちはどうするんだ?」
散歩に付き合ってもしょうがないな。帰るかな。
「厄病神、お前はどう――」
「お散歩ですか! 素敵ですね!」
「わぁーー!! お月さまがきれいですねー!!」
「そうだろうそうだろう。世界で一番美しいのは夜だ。さすが分かってるなお前は」
そもそも夜しか知らないんじゃないのか。
「何か後ろがうるさいな。嫌なら帰ってもいいんだぞ」
「分かったよ。大人しくついていけばいいんだろ」
「それで、どこか行き先はあるんですか?」
「まあね。ついてくれば分かるさ」
ネーベルはとことこと歩いていく。普段は霧になっていくらしいが今日は俺達がいるので徒歩だ。
「霧になるってどんな感じなんですか?」
「難しい質問をするな。例えるなら水の中に浮かぶ様なものかな」
ネーベルと厄病神が話している。俺はしばらくそれを後ろで聞いていた。
「お、いた」
不意にネーベルが足を止める。その視線の先には高校生くらいのカップル。
「さて、始めるか」
「……なにを、するんですか?」
厄病神が恐る恐る尋ねた質問には答えず、霧となって消えた。
「あれ? ネーベルさん……?」
「私はここだ」
前方からネーベルの声が聞こえる。その足元には先程の高校生カップルが……って、
「なにやってんだお前ーーー!?」
「何って、血を吸おうと」
「平然と答えるな! やめろ!」
「不思議なことを言うな。お前たちだって動物を捕まえるだろ。それと同じだ」
まったくもってその通りだこのやろう。
「で、でも、いきなり無関係の人を襲うのは……」
「大丈夫だ。殺さない」
なんで死神もこいつも生死以外の境界線を認識しないんだ。
「そうだな。誰か他に血を提供してくれる人間がいるなら話は別だな」
「……何が言いたい」
「いや別に。ちなみに若い男の血が旨いんだ」
「……桜乃を探しにいこう」
「それはダメです!」
「ま、別にいいさ。さて血を吸おう」
「……ま、待て!」
「ただいま帰りましたー……」
「うむ! おかえり! ……お主、顔が青いぞ」
「貧血だな。どこかで血を流したのか」
「ちょっと献血をな……」
今度は生贄を連れて訪ねよう。俺はそう心に決めた。
ネ(昼)「やっと出れたの」
ネ(夜)「やっと出れたな」
直「いいか? これから部外者を襲ったら承知しないからな」
ネ(夜)「襲ったところで人間に何が出来るのやら」
死「ニンニクは好きか」
ネ(夜)「……卑怯者!!」
厄「やっぱりニンニクは苦手なんですね……」
流水を渡れません。
家には家主が招待しないと入れません。
銀に弱いです。
でも十字架にはへっちゃらです。
実は血を吸わなくても平気です。
まあこの辺の話は近い内にするかもしれません。
ではまた次回をお楽しみに。