第62話:厄神様はかく尾行し
どうもこんにちは。
完全に更新を忘れていたガラスの靴です。
やっぱり一回止めると習慣じゃなくなってキツいです。
というわけでかなり遅れましたが第62話をどうぞ。
『こちら黄泉。玉藻の姿を発見した。オーバー』
「了解! そのまま尾行を続けてくれたまえ! オーバー!」
「皆さん、お茶が入りました」
「おかまいなく」
「なんでいるんだよ……」
玉藻が他人に迷惑をかけることなく買い物できるのかを確かめるために死神による尾行が開始された。するとどこをどう経由して情報が漏洩したのか、死神と入れ違いになって神楽と市原がやって来た。俺達は今リビングのテーブルを取り囲んで座っており、テーブルの上には厄病神が入れた紅茶と、手放しモードにした携帯電話がおいてある。
『今商店街の入り口に到着した。メモを見て入る店を決めているようだ。オーバー』
「小夜君! 買ってくるよう指示したのは何かね!?」
「えーと、大根とじゃがいもとお肉と、それからにんじんです」
今夜は肉じゃがなのだろうか。
「それならば全てスーパーで事足りるね! 黄泉君、玉藻君の状況はどうかな!? オーバー!」
「おーばーってなんなんですか? おーばー」
「きっちり使ってるじゃないか。オーバー」
『無駄な会話で時間を潰すな。オーバー』
「うむ! そうだね! 今は玉藻君の状況が先だ! オーバー!」
「どうでもいいのですが、同時送受信できるからオーバーいらないと言っていたのは神楽さんですよね」
おい。
「はっはっは! こういうのは気分さ! それで、玉藻君に動きはあったかね!? オーバー!」
『魚屋に入っていった。オーバー』
「…………」
「…………」
「…………」
……最近のじゃがいもは海でも獲れるのか。
「確実に間違えていますね」
「そうみたいです……」
「ま、まあ玉藻君にもちょっとした間違いはあるさ! すぐに気付いて出てくるだろう!」
『鰤を買って出てきた。オーバー』
「…………」
「…………」
「…………」
「……ブリじゃがですか。斬新な発想ですね」
「えぇ!? 何それ!?」
「舞君、ブリじゃがとは何かね!?」
「豚肉の代わりにブリを使った肉じゃが、という意味です」
それは少なくとも肉じゃがではない。
「……冗談です」
本気なのか冗談なのか分からない発言は控えてくれ。
「そ、それで、玉藻さんはどうしてますか? おーばー」
『スーパーに入っていった。オーバー』
「やっとまともな軌道に乗ったか……」
「ご苦労! そのまま観察を続けていってくれ! オーバー!」
『了解。オーバー』
とりあえずは成功といったところか。
「ブリという代償がくっついてきますが」
「なに、直樹氏が食べれば済む話さ!」
「人事だと思って……」
「人事ですから」
お前な。
「そういえば神楽さん。玉藻さんが耳を隠せるようになったらしいですよ」
「それはめでたいね! そのうち尻尾も隠せるようになるかもしれないな!」
「『かも』じゃ困る」
「黄泉さんが一生懸命に玉藻さんの指導をしてくださっているお陰ですよね」
「師弟関係ですか」
そんな格好いいものじゃないだろ。
「なんにせよ玉藻君がこのまま人間社会に溶け込んでくれれば僕たちとしても万々歳だよ! 黄泉君にも頑張ってもらわねば!」
そうしているうちにまた通信が入った。
『こちら黄泉。どうやら何がどこに置いてあるのか分からない様子だ』
「商店街のスーパーは広いですからね……」
「こう、それとなく誘導できないのか?」
『やってみよう』
しばし沈黙。やがて音声が入ってきた。
『どうしましたかお客様』
『なんじゃお主は』
第一次接触ーーー!?
「なにやってんだあいつは!? 尾行してるのがばれるだろうが!!」
「落ち着きたまえ直樹氏! こんなこともあろうかと黄泉君にはスーパーの店員変身セットを渡しておいた!」
どんな準備だ。
『……ん!? お主、死神か!?』
「あっさりばれてるじゃねえかーーー!!」
「直樹さん! 落ち着いて!」
『……いいえ、私は店員の斉藤です』
「斉藤って誰だーーー!!」
「狭山さん。キャラが崩壊してます」
いかんいかん。取り乱してしまった。まずは落ち着こう。
『そうか。他人か』
「簡単に信じるなーーー!!」
「はっはっは! 今日の直樹氏は一段と面白いね!」
「ハァ……ハァ……」
『それで斉藤。なんの用なのじゃ』
『お客様がお困りの様子でしたので』
「順調に進んでいるようだね!」
世界は俺がいなくても回っていく。玉藻と斉藤(死神)も問題なく会話をしているようだ。
『そうじゃったそうじゃった! お主、にんじんとじゃがいもと大根がどこにあるか知らぬか!?』
『知りません』
「……っっっ!!」
「なんとか突っ込みをこらえてますね」
「……話しかけるな……!!」
「黄泉さんも、スーパーのお買い物ってあまりしませんからね……」
『なんじゃ知らぬのか。使えん奴じゃの』
『あちらの店員の方に訊くのがよろしいかと』
「なるほど! 自主的に訊かせようという作戦か!」
「流石です」
単に出てきたはいいが自分も知らないことに気付いただけの話だろう。
『あっちのやつは知っておるのか?』
『はい。あちらの方に訊いて下さい』
『……やっぱりお主が何とかならぬか?』
「おや」
「玉藻さんって、人見知りが激しかったでしょうか?」
そうかもしれないな。毎日毎日テレビだけ見て生の付き合いをしてないし。
『あちらの方に訊いて下さい』
『……おのれ! 覚えておれ斉藤!』
タタタッ、と足音が遠ざかる。
『……成功だ』
「成功か? 成功したのか?」
「よし! ご苦労! ではあとは見守るだけとしよう!」
「そうですね。これ以上の補助は無用でしょう」
「玉藻さんも、1人で買い物ができましたね!」
うーん……?
「帰ったぞ!」
「あ、お帰りなさい、玉藻さん」
「なんじゃ、変なのが増えておるぞ」
「変なのとは心外だね! 僕は――」
「私を神楽さんと同じカテゴリにいれないで下さい。『変なのと普通なの』とお願いします」
「そうか。変なのと普通なのが増えておるな」
「……舞君?」
諦めろ。お前はもうそういうイメージしかないんだよ。
「そうじゃそうじゃ! 忘れるところじゃった!」
玉藻が得意げに差し出したビニール袋の中にはメモに書いてあった通りの食材と、鰤とあと何故か油揚げが入っていた。
「……これ、自分で食うために買っただろ」
「な、な、何を言っておるのじゃ! そんなは、はずはなかろう!」
目を見て言ってみろ。
「黄泉君はどうしたのかね!?」
「まだ帰って来てませんね?」
そういえばそうだな。どこにいるのやら。
「なんじゃ、死神は出かけたのか」
「はい。玉藻さん、途中で見かけませんでしたか?」
「……そういえば、すーぱーの中によく似た店員がおったの」
「それはもう忘れていいから」
「では僕たちはこれで失礼するよ! さらばだ!」
「お邪魔しました」
「……あやつら、何のために来ていたのじゃ?」
まあ、色々あったんだよ。
「はぁーー……。いい湯だ……」
厄病神が玉藻のために沸かしてくれていた風呂に入る。もちろん玉藻の後だ。
「それにしても、死神はどこに消えたのやら……」
案外本物の店員と間違えられて強制労働させられていたりして。
――……。
風呂場の外で何か声が聞こえる。もしかしたら死神のやつ帰ってきたのかもな。
――ガラガラッ!
「…………」
「…………」
「……すまない、店員と間違えられて今まで働かされていてな、帰る途中に雨が降ってきたので風呂に入ろうと思ったのだ。まあせっかくだから一緒に入」
「出てけーーー!!!!」
直「これを機に少しは外出しろよ」
玉「なにを言うか。わらわは普段から外出しておる」
死「ときどき、と言った方が正確だな」
辻「さ、次はいよいよ私の話ですね!」
厄「えっと、次は……」
拓「あ、僕だ」
辻「…………」
直「おい、無言で理不尽な制裁を加えるのは止めろ」
という訳で次回は桜乃弟のお話です。
彼は桜乃弟と拓斗とどちらの呼び名の方が読者様にピンとくるのでしょうか?
ではまた〜!