第59話:厄神様はかく打ち解け
明日、1月14日は愛と希望と勇気の日。
ええ、訳が分かりません。
ただ、理由もなくこんな記念日を作ったのはありません。
皆様はタロとジロという犬をご存知でしょうか?
そう、南極大陸に置き去りにされたにも関わらず、なんとその1年後に生存が確認されたカラフト犬です。
そのタロとジロの生存が確認された1959年1月14日にちなんだ記念日という訳です。
では第59話、どうぞー。
「ジャンケンホイ!!」
「…………」
「あいこでホイ!!」
「あのー……」
「あいこのホイ!!」
「これは……」
さて、皆さんは真夜中の道路でじゃんけんに興じる3人組に出会った時どうするだろうか。
「平和ですね」
「私の苦労は……」
「大丈夫、やりきれないのは皆同じだ」
緊迫した闘いの予感が何故こんなギャグへと変貌したかと言えば、話は少し前へと遡る。
「悪いが、人間以外に手加減する気はないぞ」
「望むところさ! 勝った方がなんでも命令できるというのはどうかね!?」
「先日の借りを返させてもらおう」
「直樹さん、どうしましょう……!?」
「どうしましょうって……」
「私達には何も――」
「皆様」
闘いの緊張感が爆発するほんの一瞬前に声がかかった。
「高橋さん?」
「皆様、お取り込み中に大変申し訳ございません。ですがこのまま敷地外で争いになられますと地域の方々のご迷惑となってしまいます。よろしければ屋敷の中でお話をして頂けませんでしょうか?」
こんな闘う気満々の奴らに言ったって無駄だろう。
「その通りだね! 中に入れてもらおう!」
「そうだな」
とても素直だった!
「お、おい! まて高橋! お前勝手に何を……!」
「これ以上お続けになるのでしたら、奥様に報告せねばなりませんが」
「……卑怯者!!」
「構いません。では皆様、どうぞこちらへ」
「ふむ、屋敷の中でやるとしたら闘いは駄目だね! どうしようか!?」
じゃんけんでもやればいいだろ。
「名案だな」
マジか。
……という訳である。もう突っ込み所満載で逆に突っ込み所が分からなくなってくる。
「あいこでホイ!! ……なんと!?」
「……ふん。私の勝ちだ」
負けてるし。というかネーベル、顔がニヤけてるぞ。そんなに嬉しいのか。
「……うるさい! 余計な口出しするな!」
「……アレは本当に吸血鬼なのか」
碧海の疑問ももっともだ。
「さて、勝った方がなんでも命令できるんだったか?」
「ま……待ちたまえ! 今のは先攻を決めるジャンケンだ!」
「は?」
「しょ、勝負はこの双六で決めようではないか!」
さすが神様だ。言い逃れのセンスも一味違うね。
「神楽さん、それはずるいです……」
「そうだな」
「とても神のやることとは思えん」
「なんと!?」
案の定総攻撃である。
「お茶が入りました」
高橋さんが全員分のお茶を入れて持って来てくれた。これはどうもすみません。
やっぱりここの紅茶は美味い。誰だ、吸血鬼の紅茶は只の血だなんて言ったのは。
「――じゃなくて! そうだよ! おいネーベル、どういうことか説明しろ!」
「いきなりだな」
俺は噛まれたんだぞ。しかも吸血鬼に。このままだと人間としての狭山直樹は消滅してしまう。どうすればいいのだ。
「これは珍しい! 直樹氏がこうも取り乱すのは久し振りだね!」
「基本的に狭山は落ち着いているからな」
呑気な事を言っている場合か。命に関わる問題だぞ。
「そ、そうだ。狭山を人間に戻せ」
「お願いしますっ!」
「……お前ら、さっきから何を言ってるんだ?」
はて。
「――つまり、確かに吸血鬼の主な食事は人間の血なのだが、吸血鬼に血を吸われた人間が吸血鬼となる、すなわち摂食行動と繁殖行動の一致は起こらないという訳だ」
「黄泉君の言う通りだ! 君達は何か本質的に誤解を生じていたようだね!」
……てことは、だ。
「俺は別に吸血鬼になった訳じゃないのか……?」
「そうだって言ったろ。一々仲間にしてたんじゃすぐに食料がなくなるだろうが」
どうやらまだ人間社会に別れを告げる必要はないらしい。
「そりゃよかったよかっ――」
「よかったあ!!」
「のわぁ!?」
いきなり厄病神がぶちかましをしかけてきた。危うくソファから転げ落ちるかと思ったぞ。
「わたし……直樹さんが違う人になっちゃったらどうしようかと……! 本当に……!」
「違う人って言ったって、別に俺であることに変わりは――」
「でも……ヒック……! わたし、怖くて……!」
なんだかね。
「直樹氏! こういう時はそっと抱き締めるのがマナーというものさ!」
何がマナーだ。鯖折りでもやってやろうか。
「な……! だ、抱き締めるなどと……!」
「何を焦っている」
「焦ってなどいない!」
「鯖折りって、貴様の方が背は低いじゃないか」
「はっはっは! 気にすることはないよ直樹氏! 体格の小さい者にだって相撲は出来るさ!」
もう全員黙っとけ。
「落ち着いたか?」
「……はい……。すみませんでした……」
消えてしまいそうな声である。なんなんだ。
「……狭山。そろそろ離れたらどうだ?」
「……あ、ああ!」
厄病神をひっぺがす。
「まったく……お前という男は……」
俺はなんで碧海にブチブチと文句を言われているのだろうか。
「そうだ、ネーベル。結局お前は何者なんだ」
「さっきも言っただろ。吸血鬼だ」
そうじゃなくて、昼と夜の違いは。
「吸血鬼は太陽の出ている間は屋内屋外問わず活動することが出来ないのさ! そのため吸血鬼という存在は消えるのだよ!」
さっぱり意味が分からん。
「同じ体でも、昼間はお前が初めて会った時のネーベル、夜は今ここで話をしている私が表出しているんだ」
……あー……。
「……二重人格?」
「……そんなものと一緒にするなよ。確かにそんな感じだが」
双子説よりぶっとんだ解答だ。事実は小説より奇なりってやつか。
「それは私も聞いたことがあるな。吸血鬼は昼間調べても普通の人間と何ら変わりがないらしい」
「そうだ。吸血鬼としての特性、例えば紅い瞳、鋭い犬歯、蝙蝠や霧などへの変身能力などが観測されるのは夜間だけになる。吸血鬼と人間の区別が困難になるのはこれが原因だ」
分かった。もういい。充分だ。
「じゃあ、急に消えたように見えたのはなんなんですか?」
「身体を霧に変えたんだよ」
もうなんでもありだな。
「……直樹氏。彼女が怖いかね?」
神楽がまたしても訳の分からない事を訊いてきた。
「……別に。血を吸われただけで無害だしな」
「……どうかねネーベル君。彼は黄泉君や妖狐、幽霊と共存していける人物だ。これを機に――」
「人間とじゃれあえって? 冗談じゃない。私は嫌だよ」
どういうことだ?
「吸血鬼は歴史的に人間に迫害されてきた」
それが時を経て、自ら人間と距離を置くようになったのだという。
「お前の記憶だって2回消してる」
「マジでか」
ネーベルと会った時に思い出せなかったのはそのせいか。
「今更人間に関わるなんてごめんだね。私はもう寝る。勝手に帰りな」
ネーベルはソファから立ち上がってドアに向かっていった。
「……でも」
ドアに手をかけたところで止まる。
「昼間のあいつは寂しがりだからな。昼間に何をしようと私の知ったことじゃない」
――パタン。
ドアが閉まった。
「……やれやれ、素直じゃないね!」
「どうしようもないな」
「お昼なら来てもいいみたいですね」
「どうするんだ、狭山?」
それじゃ、寂しがりのネーベルさんのためにも、時々遊びに来てやるかね。
「直樹氏、これは人間と吸血鬼の未来が関わっている。頼んだよ」
知るか。俺は俺がやりたいことをやるんだ。
「そうかい! まあいいとしよう! では帰ろうか!」
「今日はありがとう。少しの貧血で済んだ」
「こちらこそ、まったく役に立てなくてすまなかった」
そんなことないさ。また今度改めて礼をしなきゃな。
「では直樹氏、さらばだ!」
とっとと帰れ。
「俺達も帰るか」
「玉藻さん、心配しているでしょうか」
どうせ寝てるかテレビでも見てるよ。
またひとつ人生に新たな経験を増やし、着実に常識から外れた知人が増えていくことに少しだけ溜息をつきながら、俺達は家へと向かった。
「あ!」
「どうした」
「いつの間にかヒトジャナインジャーさんの代わりに神楽さんと黄泉さんが来ていました!」
…………。
「ヒトジャナインジャーが俺達を呼びに来たんだ。代わりに行ってくれとな」
「そうだったんですかー」
……阿呆。
辻「……なんですかこれ? 読者なめてるんですか?」
直「しー! バトル物が駄目だと分かった作者の最後の抵抗なんだから!」
桜「木にひっかかった凧を取ろうとして骨折しました、みたいな」
藤「彫刻の鼻を少し削ろうとしたらポロッといっちゃいました、みたいな」
直「……もうその辺で勘弁してやってくれ……」
はい、違った意味で衝撃の第58・59話、いかがだったでしょうか?
これで今度こそ新キャラも一段落しましたかね(自分でも断言できない)。
で、以前ここで言ったように明日から暫く更新をお休みさせて頂いて、このデフレスパイラル的状況を一度リセットしたいと思います。
身勝手な決定で申し訳ありません。
よろしければ今後ともよろしくお願いします。
あと、もし明日も変わらず更新していたとしても見捨てないで下さい。
よろしくお願いします。
ではではー!