第58話:厄神様はかく身代わり
明日、1月13日はタバコの日。
1946年1月13日に高級タバコ「ピース」が10本入り7円で初めて発売されたことに由来します。
では衝撃の第58話、どうぞ。
「狭山直樹」
「なんだ」
翌日、再び夜中に家を出ようとすると死神に呼び止められた。
「どこへ行くつもりだ」
「散歩」
「……どうしてもか」
どうしてもだ。
「何か妙だな。お前はそれほど好奇心に忠実な人間ではなかったと思うが」
たまには自分が知りたいことに向かってみたくなるのさ。
「行くぞ、厄病神」
「あ、は、はい!」
「…………」
さて、昨日は怪奇現象が起こったこの場所も、今は静かな風が流れているだけだ。
「ネーベルさん、どこですか?」
「いるんだろ、出て来い」
屋敷に向かって声をかける。
「また来たって事は、覚悟はいいんだな?」
今夜は隠しもせず、目の前に突然ネーベル(夜)が現れた。
「覚悟?」
「そ、覚悟。私たちと縁を切る、覚悟」
何のことだ。説明しろ。
「……なんだ、やつらから聞いてないのか。じゃあ教えてやるからこっちに来い」
「…………?」
ちょいちょい、と手招きするネーベルのもとへ向かう。
「なんだ」
こうして近づくと、ネーベルの身長は俺の胸ぐらいまでしかない。市原とどちらが小さいのかね。
「まあ簡単に言うとだな」
しゃがめと合図する。厄病神にはそんなに聞かれたくない話なのか?
「実はな」
かがみこんでネーベルの口元に顔を近づけると、ネーベルは耳を通り越して首に口を持っていった。
「ちょっ――」
「こういうことなんだ」
体を離そうとした瞬間、何かが肌に突き刺さる感覚がした。
「直樹さん!?」
「が……」
全身の力が抜けていく。立っていられなくなり、アスファルトの地面に膝をつく。
「は、離れてください!!」
厄病神がネーベルに駆け寄るが、ぺいと弾き飛ばされてしまった。
「誰か……誰か来てくださいーーー!!」
――何をしている!?
「!!」
ネーベルが高速で俺から離れる。
つい先程までいた場所にクナイのようなものが突き刺さった。
「ぷは……」
思わず手をつく。
なんとか立てそうだった。
「直樹さん! 大丈夫ですか!?」
「今のは……」
変なものが飛んできた方向に目をやる。
そこには、長いポニーテールをたなびかせ、腰に刀を下げた退魔士がいた。
「凛さん!」
「やはり思ったとおりか。危ないところだった」
「お前、どうしてここに?」
この場所はもちろん、ここに来るということだって誰にも言っていないはずだ。
「嫌な予感がしてな。小夜の気を追ってきた」
スカウターでも持ってるのか。
「あーあ、やっぱり欲張るもんじゃないねえ」
「……お前達、アレが何か知っているのか」
「さっき気付いた」
ネーベル(夜)は口から血を垂らしながら肩をすくめた。
……舌を噛んだわけではないだろう。あれは、俺の血だ。
「吸血鬼……」
「正解。人間様の天敵だ」
とすると、噛まれた俺も吸血鬼になるのだろうか。
「大変です! 凛さん! 直樹さんが吸血鬼になってしまいます!」
「貴様! 元に戻せ!」
「無理」
「……っ! この!」
碧海がネーベルに向かっていく。
「……何? もしかして闘る気? この私と?」
「黙れ!!」
刀を抜き、振りぬく。
刀の通った跡には、何もいなかった。
「凛さん! 後ろ!」
「…………!!」
「はい、終了」
――カッ……!
「ぐ……」
「嘘だろ……」
「凛さん……!」
碧海は塀に叩きつけられ、動くことすらままならない状況だった。
「この……」
「無駄だっての。たかが退魔士が吸血鬼に勝とうなんて思い上がりも大概にするんだな」
ネーベルは再び俺のもとへ向かってくる。
俺もとうとう人外ズの一員か。それも悪くないかもな。
――ばっ。
「…………? 何やってんの、お前」
「……な、直樹さんに、変なことをしないでください!」
割って入ったのは、厄病神。
「いや、何言ってんの?」
「わ、わたしは、直樹さんにとり憑いているんです! だから、直樹さんが直樹さんじゃないと、困るんです!」
「……いや、意味分かんないから。邪魔なんだけど」
厄病神、どいてくれ。
「どきません!」
いいからどけ。んでもって逃げろ。
「いやです!」
「……消すぞ」
「そ……それでもいやです……!」
「…………」
ネーベルが厄病神に向かって掌をかざす。
「今どけば、お前の命までは奪わない。それでも?」
「……それでも、です……」
だから、
「どきたまえ!」
「「はい?」」
――バシュウ!!
なんか落ちてきた。
「小夜君! よく頑張った! あとは我々に任せたまえ!」
……この声は。
「ヒトジャナインジャーさん!!」
「はっはっは! この僕が来たからにはもう安心さ! 直樹氏を連れて避難していたまえ!」
「は、はい!」
……なんでだろう、来なくてよかったと思っている自分がいる。
「……馬鹿がいる」
「馬鹿とは随分だねネーベル君! 今回ばかりはお痛がすぎるよ!」
黒いのはどこにいるのかと探してみれば、碧海を背負ってこちらに向かっていた。
「お前もここで休んでいろ。あとは大丈夫だ」
「……すまない……」
碧海、大丈夫か。
「……すまない……」
…………。
「お前が来てくれて助かった。あのままだったら死んでたよ」
「…………」
「ありがとう」
「…………」
「さあ! 超人戦隊ヒトジャナインジャー、ただいま見参!」
「なんだ、誰かと思えば、この前ボコボコにしてやった死神も一緒か。腹の風穴はもう塞がったのか?」
「お陰で暫くの間学校を休んでしまった」
死神の奴、まさかこの前神楽の家に泊まったのはそのせいか?
「悪いが、人間以外に手加減する気はないぞ」
「望むところさ! 勝った方がなんでも命令できるというのはどうかね!?」
「先日の借りを返させてもらおう」
今ここに、切ってはならない火蓋が切られた。
直「なにこれ、バトル漫画?」
死「無駄な試みをするものだな」
ネ(夜)「次回はもっと酷くなりそうだな」
厄「そ、そこまで言わなくても……」
碧「……私の立場が……」
どうもこんにちは。
ガラスの靴です。
最近のパターンとしては、羨望→挑戦→撃沈となっておりますね。
次回、どうしましょう?
ではでは、ありがとうございました〜!