第57話:厄神様はかく謎解き
どうもこんにちは。
あるいはこんばんは。
もしかしたらおはようございます。
明日1月12日はスキーの日。
1911年1月12日にオーストリア陸軍のレルヒという小佐が新潟県の青年将校に日本で初めてスキーの指導を行ったとされています。
スキーも元は狩人が雪原の中で獲物を追うために作られたものらしいです。
では第57話をどうぞ。
「眠い……」
結局昨日はほとんど眠れなかった。
「今日から高校2年生は修学旅行です。暫くの間学校が寂しくなりますね」
担任が何か喋っているのも夢現だ。そういえばそんなこと誰かが言ってたな。
「皆さんも去年行って分かったかと思いますが――」
駄目だ。眠い。おやすみ。
「という訳なんです」
「何がどういう訳かさっぱり分かりませんね」
起きたら日本史の授業中だった。
「あんた馬鹿? 授業が始まったのにも気付かないなんて」
なんだろう、事実なのに普段寝ている奴に言われるだけで非常に腹立たしい。
「狭山、何をしているのかは知らないが、あまり根を詰め過ぎるとよくないぞ」
分かってる。大丈夫だ。
「そうだ碧海、最近この辺で変な事件起きたりしてないか?」
「事件? ……いや、特に思い出せないが」
そうか、ありがとう。
「やっぱり直樹さんを狙って……」
「らしいな。迷惑な奴め」
「何かありそうだな」
いや、何もないぞ。
「……そう、か」
少し言い方がきつかったか?
だが碧海にまで迷惑をかけるわけにはいかないしな。俺だけでもなんとかなるだろ。
「いいか厄病神。変わったものがあったらすぐに叫べ。どうせ俺にしか聞こえん」
「は、はい……! わかりました……!」
囮捜査、というものがある。
誰かが囮となって犯人をおびきよせ、それを確保する方法だ。
かなり適法性の問われるやり方ではあるが効果的なことに違いはない。
つまるところ、俺は今道をのんびりてくてくと歩いているのである。
ちなみに今の時間は午後8時21分。寒い。
「もう夜になってずいぶん時間がたちましたけど、誰も来ませんね……」
「さすがに、1日や2日で釣られる程ヒマでもないか」
――まだ夕方だから大丈夫なの。
――お嬢様、そろそろ日が。
ネーベルや高橋さんの言葉には『日没』という事象に対し過敏になっているところがある、気がする。
――今後暫くは夜中の外出を控えて下さい。
――それまで君も大人しくしていたまえ!
いや、もっと言うと、神楽さえも、俺と夜、その2つを引き離そうとしている。
「絶対に何かあるはずだ……」
「ここに、ですか……」
そう。
俺達はただのんびり歩いていた訳じゃない。そんなことをしても少しばかり健康的になるだけだ。
正直自分の地理感覚に称賛を送りたいくらいだ。
「ネーベルさんの、お屋敷……」
「まさかこの時間に消灯なんてことはあるまい」
門扉に手をかける。
「中には入れないぞ」
入っても、よかった。
だか俺はやはり、声がかかるのを期待して手をかけたのだろう。
「初めてのこんばんは、か?」
「そうだな。初めてのこんばんはだな」
赤い瞳が、再会を祝っていた。
「こんな夜中にこんなところまで来たってことは、まさか散歩じゃないよな?」
それもまたいいかもしれないぞ。十六夜を過ぎた月にだって風情はある。
「お前がそんな幻想的な台詞を言うとは、意外だな」
「俺とろくに会話もしてないくせに何を言う。俺は意外とロマンチストなんだ」
「……自分で意外とって言ってるぞ」
いいんだよ。それより訊きたいことがある。
「あの、お名前を教えてください」
「……名前? 私のか?」
そうだ。お前の名前が知りたい。
「名前なんてない」
「ない訳ないだろ。どう呼ばれてるかだけでもいいから教えてくれ」
俺がそう言うと小さくフッ、っと笑い、高らかにこう告げた。
「いいぞ。私の名前はネーベル=フォン=カルンシュタイン。目の前の屋敷の主、アルカード=カルンシュタインの、たったひとりの娘だよ」
たった、ひとり。
それは明らかに嘘だった。
そしてそれは、確かに真実だった。
「ちょ、ちょっと待ってください! あのお屋敷にいたネーベルさんは、違う人でした!」
それもまた事実だ。
事実でありながら矛盾する。ならば間違っているのは事実か、結論か、……前提か。
「ネーベルは2人いるんじゃないのか」
「……へぇ」
「例えば、双子の姉妹。双子でありながら一人の人間として生活していくなんてのは、ありえない話じゃない」
日没というのは、姉妹が入れ替わる境界なのではないか。
「なるほどね、そうだな、それなら筋は通るな。名門に生まれながら出来の悪い姉に変わって、優秀な妹が実務を引き受ける。そのことを隠すため、他の人間とはあまり関わりを持たない。いいんじゃないか?」
「そ……それじゃあ、『あの』ネーベルさんはどこにいるんですか!?」
あんな広い家だ。人ひとり寝泊まりするスペースがないとは言わせないぞ。
「うん、うん。お見事。さすがは相棒が気に入っただけのことはある」
あいつ……ネーベル(昼)か。
ネーベル(夜)は俺達に背を向けて月を見上げた。月明かりを受けて銀色に輝く髪は昼間見たものとまったく変わりない。
「……60点」
「は?」
いきなりネーベル(夜)が訳のわからない採点を始めた。
「お前の説明はいいぞ。凄くいい。でも2つ説明出来ない事がある」
なんだ。
「1つ、何故お前のところの死神と神まで私の事を秘密にしようとしていたのか」
やっぱりあいつら、お前の事を知ってたのか。
「ま、知ってるなんてもんじゃないけどな」
どういう意味だよ。
「それは今日の宿題だ。そしてもう1つ」
一陣の風が吹いた。
「ただの双子に、こんなことが出来るのか」
ネーベルはいなかった。
……いなくなった。
「…………え?」
「……ネーベル、さん……?」
今まで確かにネーベルはいた。
だがその姿は瞬きとともに、溶けてなくなった。
月だけが、俺達を照らしていた。
辻「今回やけになんちゃって詩的表現が多くないですかー?」
厄「たぶん作者の方が久し振りに小説を買ったからだと思います」
直「で、実力に見合わない挑戦をして玉砕した訳だ」
死「馬鹿だな」
厄「そ、それより! ネーベルさんの秘密って、なんなんでしょう!?」
ネ「秘密なの」
ネ「自分で考えろ」
直「おーい、これからこいつらどうやって分けんだー?」
昼と夜でもつけときましょうか。
どうもこんにちは、ガラスの靴です。
とある方に碧海凛のイラストを描いてもらいました。
発表できないのが残念です。
ま、こういうのは自分でイメージを膨らませるのも楽しみですしね。
さて、本編でネーベル(夜)が『60点』と評した通り、直樹の推理は惜しいけど違います。
この小説に幽霊とか神様とか妖怪とかが出ていることを考えれば答えは出てくるかもです。
ま、どうせ明日か明後日には分かると思いますが。
ではでは、さよーならー。