第56話:厄神様はかく訪ねり
旧暦1569年1月11日、他の勢力に輸送路を押さえられ塩不足にあえぐ武田信玄のもとに上杉謙信から多量の塩が届いた。
有名な「敵に塩をおくる」という言葉の起源である。
そしてこの1月11日を塩の日として記念することとなった。
はい、こんにちは。
ガラスの靴でございます。
明日は塩の日。
やはり生存に直接関わるものとして古くから価値ある物とされていたんですね。
では第56話をどうぞー。
「では、どうぞ」
執事の高橋さんに車の中へ誘導される。
「あ、あのあの、直樹さん、これは一体……?」
「静かにしてろ。すぐ分かる」
「なるほど、その方が幽霊のお嬢さんですか」
分かるんですか。
「いえ、残念ながらお姿を拝見することはできませんが、狭山様のお話を聞いていればいらっしゃるのは分かります」
凄いな。
「では狭山様、大変申し訳ありませんが――」
「目隠しならお断りだ」
「――お断り、ですか……」
いい加減ごまかされてばっかりじゃ嫌だからな。自分の知りたい事は自分で知る。
「……分かりました。では参りましょう」
高橋さんは笑ったような困ったような複雑な顔をしてアクセルを踏んだ。
「すみません直樹さん……とても怖いんですけど……」
ネーベルの屋敷に辿り着くと、幽霊の癖にいきなり怖がる奴がいた。
「お前もういいから黙ってろ」
「おや、お嬢さんがどうかなさったのですか」
いや、なんでもないです。気にせずいきましょう。
屋敷の中は以前と変わらず輝きを放っていた。
「これ、全部高橋さんが1人で管理してるんですか?」
「いえ、私の他にもお嬢様に仕えている者が数名おります」
そりゃそうか。それでも人数が少ないだろう。
「では今すぐお嬢様をお呼び致します」
高橋さんが応接間を出ると、ずっと俺の後ろにしがみついていた厄病神が真正面に飛び出してきた。どうした。
「どうしたじゃありません! ここどこなんですか!? なんでわたしたちこんなところにいるんですか!?」
「あーもう煩い。すぐ分かるから待ってろ」
「何がわかるんですか!? なんにもわかりません!!」
いい具合にパニックに陥ってるな。
「いいから座って待ってろ。俺の読みではそろそろ――」
「こ……」
こ?
後ろから聞こえた声に振り返る。
「こんにちは……なの……」
「こんにちは、だな」
立ったままうつむいているネーベル。やはりこの前の強襲者と似ている。
「え……。直樹さん……この人……」
「話は後だ」
「…………? 誰かいるの?」
「……見えない、のか?」
「見えないって、なにが?」
どうやらネーベルには厄病神が見えていないようだ。この前のネーベル(偽)には見えていたようだし、やはり別人か?
「いやいいんだ。気にしないでくれ」
「わかったの」
こいつもこの前会った時とどこか違うな。元気がないような気がする。
「あ、あのね?」
「どうした」
「わ、私の名前、覚えてる?」
「名前……って、ネーベル、だろ?」
「…………」
あれ、違った?
「お、おい厄病神、もしかして違ったか?」
「わたしに訊かれても……」
「よかったぁ……」
「は?」
「名前を覚えていてくれて、とても嬉しいの」
タメが長いんだよ。焦るだろ。
「あのね、今日はどうしたの?」
いや、少し訊きたい事があってな。
「ききたいこと?」
「……この前の夜な、人に会った」
「あ……」
その会った奴っていうのが、お前にそっくりだったんだ。
「…………」
「……お前、だったのか?」
「……それは……」
暫くの間、沈黙が場を覆った。
ネーベルは落ち着かない様子で目線をさまよわせている。
「……あの……ね……」
「…………」
「……それは、私じゃ、ないの」
……そうか。
「それならいいんだ。忘れてくれ」
「あ……うん……。そうだ、お茶を出すの」
「いや、そんな、今すぐ帰るか――」
「待っててね。いま高橋さんに頼むから」
「ら……」
行ってしまった。
「あの、直樹さん。えーと、ネーベルさん? って、誰なんですか?」
「ああ、前に不良連中に絡まれてる女の子を助けたことがあっただろ。その時の女の子だ」
厄病神はうーんと考えてから、ポンと手を打った。
「ああ! 思い出しました! あの時の!」
鉄骨のインパクトが強すぎて忘れてたのかもしれないな。
「あの……それで、ネーベルさん、なんだかあの時の人に似てる気がするんですけど……」
似てるけど違う。ネーベルは目が青い。この間のは赤かった。
「そうですか……」
まだ何かあるのか。
「それで、直樹さんがどうしてそのネーベルさんのお家にご招待されたんですか?」
「この前拉致されてな」
「それだけですか?」
それだけだ。他にあるのか。
「あ、いえ……」
変な奴。
「美味い……!」
「ありがとうございます」
出されたお茶と菓子はそんじょそこらの喫茶店なんかでは話にならないような味だった。自家製なのだろうか。
「私どもの中に菓子作りが趣味の者がおりまして」
「まだまだあるの」
ああもう分かったから菓子を皿に注ぎ込むな。
「お嬢様、そろそろ日が」
「あ……。分かったの……」
もう日が暮れるか。どんなに日が長くなっても太陽はいつか沈む。
「それじゃあ俺は帰るよ。またな」
「……うん……」
「……また来るから、な?」
「……わかったの」
帰りはまたしても高橋さんに送ってもらうことになった。
「お嬢様は我々以外の人間とは余り交流を持とうとしません」
「意外ですね」
「我々の主、つまりお嬢様の父上と母上も家を留守にすることが多く、他人と関わろうとするお嬢様を見るのは久し振りです」
「ネーベルさんって、おいくつくらいなんでしょうか?」
女性の年齢を訊くのはタブーなんだろ。知りたければ自分で訊け。
「どうかされましたか」
「ああいや、なんでもないです」
やがて家に着く頃には日も落ちて空が漆黒に染まろうとしていた。
「では狭山様、それから幽霊のお嬢さん。今日はご足労頂きありがとうございました」
「いや、別にそんな大袈裟なものじゃないですから……」
「私にもお嬢さんの姿が見えればよかったのですが、生憎そういった類の感覚は鈍いようでして」
「いや、それが普通……」
……待て。
「では私はこれで失礼します」
おかしい。
「……ネーベルは、厄病神の姿が見えなかった」
「…………?」
それはいい。見える奴の方が少ないのは当たり前だ。
でも、だったら、
「あなたはどうして厄病神の事を知っていたんですか」
「…………」
「あの屋敷には、何かがあるんではないですか」
「…………」
失礼します、とだけ言って高橋さんは帰っていった。
「直樹、さん?」
「……気にするな。冷えるから早く家に入ろう」
「はい……」
あの館には何かがある。
俺が知ってはいけない何かが。
高「どうもこんにちは。高橋でございます」
厄「こんにちは」
高「ここならばお嬢さんのお姿を拝見出来ますな。お名前を伺っても?」
厄「小夜っていいます」
高「小夜様ですか。それで、狭山様とはどのようなご関係で?」
厄「え? えっと……」
直「あんたは娘の彼氏に質問する父親か」
撮り貯めた金八先生を最初から観ています。
やっぱりいいですね、金八先生。
個人的には英語の先生が好きだったり。
さて、謎のお嬢様編、次回あたりから解決編へと入っていくと思います。
もう察しはついていらっしゃるかもしれませんが。
ではでは、次回をお楽しみに〜!