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第4話:厄神様はかく呼び込み

第4話です。

厄病神はまだ帰ってきていません。

 時は流れ、今は昼休み。俺はいつものように学食に来ていた。

 この施設にも多くの不満要素はあるものの、まず第一に挙げられるのは人の多さだ。

 ただでさえ全校生徒の7割が利用しているといわれる学食、そこで働く所謂(いわゆる)「学食のおばちゃん」がのんびりやっていれば、殺人的な混み具合になるのは当然のこと。

 今日も今日とて夏休み中の遊園地に並んだ家族連れかと思う程の行列ができ、若干スタートが遅れた俺は後ろから数えた方が早い位置にいた。

 ところで、俺の通う高校の学食は食事を求めてできる長蛇の列と獲得した食料を摂取するためのテーブルが非常に近い。具体的にはうどん(すす)ってるヤツの横をラーメンの行列が通る感じだ。

 そんな状況で蹴っつまずく愚か者がいればどうなるかは想像に難くないだろう。

「う、うわぁ!」

 なんと学食慣れしていなさそうな1年がテーブルに向かう途中で足をとられ、こっちに向かって熱々のラーメンを放り投げてきたではないか。

 とは言うものの、俺もこんな状況を全く予想していなかった訳ではない。こんなことは日常茶飯事とまではいかないが、まあ一月に一回くらいは起きるのだ。

 従って、学食の常連は列に並んで暇潰しの雑談をしている時も完全には気を抜かず、常に一定の注意を払っている。

 俺も例外ではなく、飛び散るスープに気をつけながら冷静に器を回避した。

 ……だがあの厄病神はどうやっても俺のもとに災いを呼び込みたかったようで、なんの障害にもぶつからず華麗な放物線を描いたラーメンはそのまま隣で飯を食ってた頭の悪そうな連中のテーブルを直撃した。

――グワッシャァァン!!

「…………」

 あたり一帯に響き渡る轟音。飛び散ったスープ。うどんと一体化しインターナショナルな創作料理へと進化した麺・チャーシュー・メンマその他。学食をしばし沈黙が支配した。

「…………」

 なぜ俺を睨む。俺は避けただけだ。文句ならラーメン投擲(とうてき)した本人に言え。

 だが真犯人は人混みに乗じて逃走を図ったようで、いや実際は単に人の波にさらわれただけなのだろうが、不良連中の殺気は全て俺に集約されていた。

「テメェ、ちょっと話いいか?」

 ここでよくないと言ったらどんな反応をするか試したりもしたかったが、これ以上油を注げば確実に爆発事故が発生しそうなのでおとなしくついていくことにした。

 

 

「随分ナメた真似してくれんじゃん?」

「見ろよ俺の制服、スープでベトベトだぁ」

「こりゃあ弁償してもらうしかねえなぁ?」

 台本にでも書いてあったのかと言いたくなるほどベタな口上を並べる不良どもは全部で6人。ロケーションは校舎裏のゴミ捨て場。これは死んだなと思いながら冷静に状況を分析している自分に気付く。

「おいなんとか言えよコラ」

 「死ねゴミ」とでも言えばいいのか、と思ってしまう俺は心の底からひねくれているのだろう。

「んだ? その反抗的な目はよぉ?」

「こりゃあもうアレだな。体に教えてやるしかねぇな」

 どうしてこの生き物たちはこう非理性的な手段にしか出られないのだろうか。これだから馬鹿は嫌いなんだ。

「よぉし、オレから行くぜぇ!」

 ああ、これは本格的にまずいな。気が付けば両腕を拘束されてサンドバッグの準備が完了したようだ。

 あの厄病神め、やっぱり憑かせるんじゃなかった。

「何をしている!」

 ここに至ってまだ恐怖が前面に来なかったのは、心のどこかでこうなることを期待していたのかもしれない。

 不良どもが慌てて振り向いた視線の先には一人の女生徒。

 180cmはあろうかという長身に腰まで届く髪をポニーテールのように結い上げたその人物は並の人間ならすくみあがる程の鋭い眼光を不良どもに向けている。

「あー、悪い。碧海(あおみ)。また捕まった」

「まったく……。私が見ていなければどうするつもりだったんだ」

 彼女の名前は碧海凛(あおみりん)

 中学校の時からの付き合いで、桜乃や藤阪よりも少し長い計算になる。

「んだ? 姉ちゃん、文句でもあんのか?」

「綺麗な顔傷つけられたくなかったら帰んな! ギャハハ!」

 相変わらず頭の悪い発言を繰り返す不良どもは碧海の恐ろしさを知らないようだ。

「3秒待とう。その間にその男をおいて帰ることだ」

「なぁに言ってんだ? テメェ? 調子のってんじゃねぇぞ?」

「1……」

「……ちっ! なめんじゃねぇぞコラァ!!」

 不良の一人が彼女に襲いかかる。

 不良の体重を乗せた渾身の右ストレート。それを軽くいなし、そのままボディに膝を入れる。

「……カハッ!?」

「2……」

 一撃でノックダウン。無様に崩れ落ちる。

「お、おい!? くそっ、やっちまえ!!」

「くそ、くたばれぇぇぇ!!」

 それを見て残る5人は俺をほっぽりだして思い思いに碧海へと向かっていく。痛いだろうが。

 碧海はまず一番前にいた不良の蹴りを逆に蹴り上げ、バランスを失った相手の腹にそのまま踵落とし。一名脱落。

 この隙に裏に回ろうとしていたヤツが呆然としているところを振り向きざまの裏拳で瞬殺。

「クソアマァ! 往生せいやぁぁ!!」

 3人まとめてかかってきたうちの一人に足払い。重心が乗っていたところにそれ以上の力を横から加えられて体ごと半回転した不良の襟首を掴み、

「――さんッッ!」

 一列になっていた残りの2人に投げつけた。

「うがぁ!!」

「ガフッ!?」

 そのまま崩れ落ちる不良。

 気が付けば、6人いた不良は全滅していた。

「ふう。狭山、大丈夫だったか?」

「間一髪だ。相変わらず化け物じみた強さだな」

 彼女は古くから武道を営む家庭に生まれ、幼い時からその才能を発揮、今では武芸十八般全てに秀でた最強の跡取りであるらしい。

 実際その強さは半端ではなく、今までもちょくちょく馬鹿どもに絡まれていた俺を助けてくれている。

「お前はどうしてこう厄介事に巻き込まれるんだ?」

 さあな。馬鹿どもが言うには『目が生意気そう』なんだと。持って生まれたものに文句をつけるとはつくづく頭の悪い連中だ。

「……お前のその性格も一因なのだろうな……」

 何を言う。馬鹿に馬鹿と言って何が悪い。

「ま、なんにしても助かった。礼を言う」

「き、気にするな。私はお前が不良に連れられていくのを見かけたから助けにきただけだ。私はこれで失礼する」

「ああ、また今度礼でもさせてくれ」

「い、いや、そのような事は……」

「いいから」

 ……恐らくこれからこういうことが爆発的に増えるだろうしな。

 度重なる不運に、俺はここまで幸せの少ない人間だっただろうかと理不尽な悩みを抱えてながら残りの昼休みを過ごしたのだった。


新キャラ第2弾、碧海凛です。

直樹は時々助けてもらい、そのお礼としてたまにお茶を奢ったりしてます。

アクションの描写は気にしないで下さい。

次回も新キャラ登場予定です。


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厄神様とガラスの靴
こっそり開設。
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