第43話:厄神様はかく学びき
どうもこんにちは!
今日は文部省が全ての学校に生徒の身体検査の実施を訓令したことに由来する身体検査の日です!
せっかく毎日更新やってるんだからと思って始めた「今日は何の日」シリーズですが、正直これが役に立っている人がいるとは思えません。
いっそのこと「明日は何の日」シリーズにした方がいいんでしょうか?
それでは第43話をどうぞ!
「よう狭山! 風邪は治ったか!?」
「おかげさまでな! だが残念ながら課題をやる力はなかった!」
「は、はぁ!? あんたあたしたちの分まで、何考えてるのよ!?」
「うわっはっはぁ! 病人に鞭打つような真似をした報いだぁ!!」
「……直樹さん、HRが始まりますよ」
俺がようやく風邪から復帰したのは試験の1週間前。厄病神もすっかり健康体に戻り、いつも通りの日常が戻ってきた。
「勉強会をしよう!!」
「……は?」
「何言ってんの? あんた」
今は昼休み。例によって市原を引き連れて登場した神楽がまたしても意味不明なことをのたまった。
「だから勉強会さ! テスト前に集団で集まり、苦手なところを補い合う! これぞ高校生といった感じだね!」
激しくどうでもいいな。大体俺は放課後に藤阪と勉強やってるんだが。
「葵君! 出来れば皆で――」
「却下」
言い切る前に断られる。当然だろうな。
「ふむ、では直樹氏。来てくれないかね!?」
だから俺も行かないと言っているだろ。
「そうかい! ところで直樹氏、満月君との休日は――」
「さあ行こうか! 藤阪、テストは近いぞ!」
「まだ昼休みなんだけど……」
「直樹さん……」
「……で、なんでこんなに集まるわけ……?」
「そりゃあ皆勉強が好きだからだよ! 舞君、調子はどうだい!?」
「神楽さんが騒がしくしなければ好調になると思います」
「おい三途川ー。ここってどうやんだー?」
「あいにく数学は全く分からん。碧海凛、お前は分かるか?」
「基礎的な部分だけならなんとかといったところか。これは区間X≦2で単調に減少し、区間X≧2で単調に増加するから――」
「なんで私まで……こんなところより家でやった方が遥かに効率的じゃない……」
「そう言いながらもしっかり勉強してるじゃないですかー」
「拓斗くん、ここが分からないんだけど、拓斗くんは分かる?」
「こ、ここか!? ここはだな、えーと……!」
……全員集合という言葉が似合うな。
「皆さん、勉強熱心なんですね!」
「それは違うぞ厄病神。たぶん遊びに来ている奴が約半数だ」
勉強会なんて最後まで勉強続けられる方が珍しいと思うんだが。
「おい神楽、学年違う奴も同じ場所で勉強する理由がわからんぞ。別々にすれば――」
「君は僕の舞君を孤独にする気かい!? このメンバーでは1年生は彼女だけなのだよ!!」
顔が近い。悪かったから離れろ。あと「僕の」とか言うな。
「別に私は構いません。神楽さんが気にしすぎるだけです」
「いかん! それではいかんのだよ舞君! 君が僕の元を離れたくないというのは大いに分かるし大歓迎なのだがそれはそれとして友達の1人や2人いなければ楽しい青春時代があっという間に過ぎてしまうよ!!」
熱くなりすぎだ。阿呆か。
「センパーイ、ここが分からないんですけどー」
「お前に分からんもんが俺にわかるか」
「うっわ、さりげなく威厳もへったくれもない発言しますねー」
辻はあの事があってからも変わらずこの調子だ。
月曜日に部活で会ったときは流石に接し方が不自然になってしまったが、向こうは何事もなかったかのようにいつもと同じ生意気な口を叩いてきた。俺も極力気にしないようにしている。
「どうして辻さんに分からないと直樹さんも分からないんですか?」
あいつ、学年で5本の指に入る成績だぞ。平均ちょいくらいの俺がたとえ1年前の範囲においても敵うはずがない。
「そ、そんな誇らしげに言うことじゃ……」
「狭山先輩、ここがわからないんですけど……」
今度は藤阪妹に呼び止められた。
「あー、英語ならなんとか分かるな。that節がかかってるのはここまでだから、それを意味上の主語として訳すんだ」
「あー! わかりました! 拓斗くん! わかったよ!」
「……そうみたいだな……ははは……」
頑張れ桜乃弟。道は険しいぞ。
「お前も人のことは言えんな」
いつの間にか後ろには死神が。意味の分からん事は言わんでくれ。
「そうか。まあいい。ところで分からない所があるのだが……」
「……お前、完全に人間社会に適合してるよな……」
「いかん」
分からないところが出てきた。古文か。
「誰かに訊いてみてはどうですか?」
それはそうなんだが、誰にするかが問題だ。
「なんで中国ごときの古典文学なんて読まなきゃいけないのよ……。だいたい人が生まれたときから善人な訳ないじゃない……」
……藤阪は完全に理系頭だから論外だ。
「――だからここはこうなるのではないだろうか」
「おおっ、なるほど!」
「流石だな」
碧海と桜乃と死神はなんか一致団結して問題解いてるし。
「はっはっは! 高1の問題が僕に解けないとでも思っているのかい!?」
「御託はいいですから早く解いてください」
神楽は市原が独占して課題消化マシーンと化してる。というかそれでいいのかお前。
「拓斗くん、ここはわかる?」
「任せろ! そこなら大丈夫だ!」
「かなりカッコ悪いんだけど」
下級生に教えを乞うほど俺は落ちぶれてはいないつもりだ。そうなると残る高3はあいつしかいなくなる。
なるのだが。
「はぁ……帰りたい……」
「あー……松崎?」
「何かしら。余計な時間をとらせないで欲しいわね」
もう目も合わせません、この人。
「い、いや、その、教えて欲しいところがあるんだが……」
「他の人に聞いて頂戴。私は他の人に勉強を教えている暇はないの」
とりつくしまもない。だったらなんでここにいるんだ。
「……なんで、だと思うかしら……?」
俺、もしかして、地雷踏んだ?
「今日は試験一週間前。部活は禁止になるわ。だから家に帰ってテスト勉強をしようと思っていたところに神楽くんが来たのよ」
――やあ! 君は今から帰りかね!?
――そうよ。それじゃあさようなら。
――まあ待ちたまえ! 今日は皆で勉強会を開くんだ!
――……そう。勝手にして頂戴。
――どうだい!? 君も一緒に勉強しないかい!?
――冗談はよして欲しいわね。私がそんなものに関わると思うの?
――僕は生徒会長だ!
――……それがどうかしたの?
――生徒会長として各部活の活動や部費などをチェックしなければならない時があってね!
――…………。
――吹奏楽部の部費を見ていた時に面白いものを見つけたんだよ! 君達の2年前に大きく部費が減らされているんだ!
――……それは……!
――理由はもちろん調べたさ! だが無関係の人間にまでいつまでも過去の罪を背負わせるのは酷だ! そうは思わないかね!?
――……な、何が言いたいのかしら……。
――部費を元に戻す話を今日部長としようと思っていたのだが、帰りたいならばしょうがない! この話は忘れてくれ!!
――……か、神楽くん。……さ、さっきの、はなし、だけど……。
「――というわけよ……」
……それ、脅迫じゃないのか?
「元はといえば、2年前にあんなことがなかったらこういうことにはならなかったのよ」
「待て待て、それはお前、元を辿り過ぎだ」
「……なんで今になって私がその尻拭いをしなければならないのよ!? どうしてくれるの!!」
「俺のせいじゃないだろ! おいコラ、揺するな! 肩が痛い!」
「直樹さん、どういうことなんですか?」
まあ、2年前、とある先輩が起こした事件のせいで吹奏楽部は大きく部費を減らされたわけで。それを元の予算に戻す代わりに、今日の勉強会に参加しろと、要はそういうことらしい。
「はあ……はあ……」
「落ち着いたか」
「ええ……ほんの少し取り乱してしまったわね。ごめんなさい」
取り乱しすぎ感も漂っているが、触れないことにしよう。
「そ、それで松崎、古文でわからないところがあるんだが……」
「……自分で調べたらどうなの?」
いや、自分で調べて分からなかったから聞いてるんだが。
「まったく……。それで、どこなの」
「ああ。ここの解釈なんだが――」
「――ここは『〜や…推量』の形で、けむは過去推量の連体形になっているの。だからここは『恨みを受けることが積もった結果であっただろうか』と疑問的に訳すといいわ」
「なるほど。ありがとう。流石に成績優秀なだけあるな」
「……どういう意味かしら」
どういう意味って、そのまんまの意味だろ。他に何があるんだ。
「ま、まあ、そうだけれど……」
「部長やって、楽器も上手くて、成績優秀で、本当に凄いよな。羨ましいよ」
「そ、そんなことないわよ。貴方だって――」
「おい狭山! こっち来て教えてくれよ! 部長、借りてくぞ!」
「っておい、桜乃、お前――」
「はい一名様ごあんなーい!!」
松崎と話をしていたらいきなり桜乃に連行された。いまちょっといい話してたんだぞ。
「知るか! お前はもうアレだ! 死ね!」
「酷いな。友人に向かって」
「友人にヤシの実割りぶちかますのは酷くないんすか……?」
なんのことかな桜乃君。こんなところで寝ていては体を冷やしてしまうよ。
「どうしたんですか? 碧海さん」
「いや、分からないところがあってな。……それと、松崎と何の話をしていたんだ?」
「ど、どうした碧海。目がちょっと怖い気がするんだが」
「……いや、気のせいだろう。その話はもういい。狭山、ここが分からないのだが、分かるか?」
「あ、ああ……ここは――」
そんな、話しているだけで不機嫌になるほど嫌われてるわけじゃないだろうに。なんなんだまったく。
「桜乃響、生きているか」
「なんとか……。もうあそこまでいったら絶滅危惧種だろ……」
よし、碧海に教え終わったら止めを刺しに行くか。
ま、勉強会なんてものは遊んだ人勝ちでしょう。
こんにちは、ガラスの靴です。
今回、喋ってる人ほど勉強してません。
というか主人公が話しかけてるせいで勉強を中断させられてる人もいますが。
学年1つ下くらいじゃ質問されたって分からないところも多いよね、という第43話でした。
次回は日曜日。あの日です。