第39話:厄神様はかく従い
メリークリスマス!
東京ではホワイトクリスマスとはかけ離れた青空が広がっております!
今日は消費税法案が成立した日らしいですよ?
そのころはまだ3%だったんだよな………知らないけど。
と、ものすごい勢いで個人情報をばら撒きつつ今回の話をどうぞ。
『センパイ、明日ってなんの日だか知ってますかー?』
家に帰ると、辻からメールが来ていることに気付いた。メールでも口調の変わらない奴だ。
『俺の誕生日だ』
もっとも俺も人のことは言えないが。適当なことを打って送信する。
『もー、寝言は寝て言ってくださいよー。センパイの誕生日は3月じゃないですかー』
『限りなく失礼な奴だな。訊きたくはないが訊かないと帰れないみたいだから訊こうか。明日は何の日だ』
『明日は日曜日! センパイが私に服従する日です!』
……ああ、わかってたよ。ちくしょう。
「お前の家って、電車通学なんだったな」
「はい。どうもわざわざすいませんー」
日曜日の朝、俺は辻の家の最寄り駅までやってきていた。辻は俺の家に来たいと言っていたのだが、あの家に事情を知らない一般人を招き入れる訳にはいかないので代わりに俺から出向いたのだ。
「しかし、こんなに早く来て大丈夫なのか? 親御さん達に迷惑かけるのは嫌だぞ」
「……いやー、大丈夫ですよー。お父さんは朝早いですからー」
……今の沈黙はなんだ。まさか伝えていないとかじゃないだろうな。
「さー? なんのことですかねー?」
「帰る」
「わ、ちょ、ちょっと待ってくださいよー!」
まったく。
「それで、まっすぐお前の家に行くのか?」
「いえいえ、それじゃあ面白くありませんから、まずはスーパーで買い物をしようと思います」
荷物持ちってわけか。まあそのくらいなら軽いもんだろう。
「意外と普通ですね」
「厄病神、いたのか」
「……怒りますよ?」
冗談だ。トテトテと走り出した辻について俺達は駅前のスーパーへと向かった。
「う〜ん、センパイは何が食べたいですかー?」
「お前の好きな物でいいだろ。今日はお前に合わせる」
「……はぁ〜。これだからセンパイは……」
なんだ、その文句がありありと浮かんだ顔は。
「いいですか? 今日はセンパイに決定権はないんです。だから私の言う通り大人しく選んで下さい」
矛盾してないか? それ。
「やあ、こんにちは。何もないところ、ゆっくりしていってください」
「いえ、こちらこそ突然お邪魔して申し訳ありません」
辻のお父さんは予想していたより遥かに礼儀正しい人だった。突然の来客の筈なのに笑顔で応対してくれる。
「お前もあのくらい礼儀正しければな」
「なんですかそれはー? 私はいつも礼儀正しいですよー」
限りなく真実から離れた言葉だな。
「そういうこと言うと、徹底的に命令下しますよー」
「ほう、どんな命令が下るんだ?」
「たとえばこの首輪をつけるとか」
待て。
「それはかなりまずい。何がまずいって俺の尊厳とかそんなもんが色々とまずい」
「でもそういうのが好きな人もいるらしいですよー」
「俺にそんな趣味はない! 近寄るな! 馬鹿、やめろぉーーー!!」
「おお……なかなか似合いますね……」
「最悪だ……」
結局力負けを喫した俺は首輪などという非常に惨めなものを付けられた。死にたい。
「な、直樹さん……それはちょっとすごすぎです……」
頼むから話しかけないでくれ。
「じゃあイヌミミとシッポもつけてみますか」
「阿呆かーーー!! なんでそこまで――」
「あんまり騒ぐとお父さん来ちゃいますよ」
「が……」
なんだこの悪魔は。
「じゃあミミだけでいいんでつけちゃいましょう。」
「た、頼む! やめ――」
「あははー、傑作でしたー」
「殺していいか?」
犬耳までつけた姿を写真に撮られ、行くところまで行ってしまった気がしながらもなんとか精神を保って受け答えをする。お前なんであんなもん持ってるんだ。
「センパイにつけさせようと思って買っておきましたー」
「なんでそんな時だけマメなんだ……」
「いやー、でもおかげでいいものが撮れました。今度すみれとかに見せていいですか?」
勘弁してくれ。
「さて、じゃあそろそろお昼ご飯の準備でもしましょうかー」
切り替えの早すぎる奴だな。俺はまださっきのダメージから復帰出来てないんだぞ。
「それなら私のご飯食べて回復しちゃってください。きっとライフ全回復ですよー」
言ってろ。
辻の家の居間で昼食の支度をする。何か手伝おうとしたんだが断られた。
「料理人のプライドってやつか?」
「辻さん、とっても気合いが入ってますね」
よくよく考えればあいつはお前の料理の師匠みたいなものじゃないのか。あの料理本もあいつが選んでくれたやつだし。
「そういえばそうですね。直樹さん、ちょっと見てきてもいいですか!?」
「お、おお……気をつけてな」
「はい! 行ってきます!」
何に気をつけるんだ。自分で自分に突っ込んでいると、テーブルの反対側に辻のお父さんが座った。
「私も一緒で大丈夫かな?」
「ええ。俺は構いません」
2人で何とはなしに辻の料理姿を見つめる。
「……満月は学校で元気かい?」
ええ。元気すぎるくらいです。
「ははっ、そうか。狭山くん、いつもうちの娘の面倒を見てくれてありがとう」
俺が面倒見てるわけじゃないです。あいつは皆に可愛がられてますよ。
「……そうかい。そう言ってもらえると安心だよ」
おじさんが辻を見る目には優しさがこもっていた。心から娘のことを想っているのだろう。
「じゃーん! できましたー! 私特製、親子丼でーす!」
辻が作った料理を持ってきた。美味そうだな。
「ふっふっふ、『おいしそう』ではなく『おいしい』ですよー!」
大した自信だ。
「辻さん、とっても手際がよくてびっくりしちゃいました」
お前も少しは早く作れるようにしてほしいね。毎回3時間かかってちゃそのうち餓死者が出る。
「それじゃあいただくとするか」
「そうだね。いただきます」
「召し上がれー!」
辻家での昼食はこうして過ぎていった。
え? 1週間が8日ある?
あはは……まさかそんな……。
……(かく見送り〜かく解きけりを読んでいる)
……(かく従いの冒頭を読んでいる)
……ま、まあ、これもご愛嬌ということで……
い、いたい、ごめんなさい!
直します! ちゃんと直しておきます!
ちゃんと作中カレンダーでも作って管理するか……。
と、かなり行き当たりばったりな製作過程を暴露しつつ次回へ続きます。