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第3話:厄神様はかく通えり

今回から学校です。

色々な人々が登場していきます。

 朝である。

 爽やかな目覚め、湯気を立てる朝食。

 朝のニュースを眺め、顔を洗って学校へと向かう。

 それが一般的な高校生の朝の風景であろう。

 無論俺もその例に漏れず毎朝ステレオタイプな行動を繰り返してきたわけだが、ここにきてそのマンネリ化の脱却に成功した。

 ……いや、変わる必要は微塵もなかったのだが。

「何だこの消し炭は」

「その……朝ご飯です……。せっかくお世話になるのでと思いまして……」

「そうか。死後の世界ではこんな拷問に等しい食事を強制されていたために料理というものを忘れてしまったんだな。だが生憎(あいにく)現世には炭素の塊を食べる風習はない」

「うぅ……」

 ついでに言えば、台所は半壊状態だった。

 気合を入れて掃除すればぎりぎり元に戻りそうなのがまたなんとも腹立たしい。

「まあいい。幸い学校にも購買のパンを売るところはある。今日はそこで朝食を調達しよう」

 溜息をついてテーブルに手を付くと。

――ゴトリ。

 ……何故かテーブルの上に置かれていた湯飲みがバランスを崩して倒れ、中に入っていた緑茶が零れだした。

 ちなみに俺は緑茶も紅茶も両方好きだがその日の気分で変えることにしている。

 いや、俺が伝えたいのはそんなことじゃなく、零れた緑茶はまっすぐ俺の方へ向かって流れ出し、

――ジャバッ。

 ……かかった。ズボンに。

「うあちゃーーーーーー!!!」

「だ、大丈夫ですか!?」

「これが大丈夫に見えるかぁーー!!」

 

 

「くそ! 今日は厄日か!?」

 結局ズボンを交換し、今は遅刻ギリギリのペースで走っている。

 俺が今かなり間抜けな台詞をはいた事は言われなくても分かっている。だが言わずに入られなかったんだ、そのくらい察してくれ。

「というかなんでお前が一緒に来るんだ」

「あなたの幸せを分けてもらうためです」

 俺の後ろには非常に楽そうにふよふよと浮いている幽霊。いや、ここまできたらもはや完全な厄病神だな。ここにきてまだ『分ける』などというポジティブな表現で済ます気か。

「幸せを分けるというより不幸を浴びてる気がするんだが」

「あなたの幸せが足りないとその分不幸が増すらしいです」

 なんてことだ。

 俺は死んでも神にはならんと決心した。

 ……でも人を不幸にするのは面白そうだな。

 

 途中、曲がり角で散歩中の飼い犬を蹴っ飛ばしてしまい、飼い主にしこたま怒られた。

 

 学校にはなんとか間に合った。

 俺が荒い呼吸をどうにか静めようとしていると、俺の姿を見て話しかけてくる奴がいた。

「よう狭山(さやま)! 今日も相変わらずだな!」

 狭山というのは俺の名字だ。

「これが普段と同じに見えるんだったら目を交換したほうがいいな」

「まあ堅いこと言うなって! 遅刻してないって点ではいつも通りだろ?」

「そんなアバウトな括り方をしないでくれ」

 だからいつもいつも遅刻しそうになるんだ、という俺の助言を軽く受け流して席についたそいつの名前は桜乃響(さくらのひびき)。頭の悪そうなツンツンヘアーにして馬鹿オーラ全開のそいつはまあ高校3年間ずっと同じクラスの仲であったりする。

「……今、なんかすっげぇムカつくこと言われた気がするんすけど……」

「気のせいだ」

 そしてもう一人ずっと同じクラスの奴がいるのだが。もう時間的にはこの教室にいるべきなのにまだ来ていない。

 そうこうしているうちに担任がやってきてHR(ホームルーム)が始まってしまった。

「出席を取りますよ。いない人はいないですか」

 そんなパラドックス的な問いかけに意味があるのだろうか。そう思うものの、しっかり休みと遅刻は把握しているから奇妙なものである。

藤阪(ふじさか)さんがいませんね。まあもうすぐ来るでしょう」

 担任の言う通りそろそろやってくる頃だろう。俺がそう思っていると案の定すぐに扉が開き、息を切らした女生徒が駆け込んできた。

「ぜぇ……ぜぇ……」

「藤阪さん、遅刻です」

「………人助けをしていました」

「そうですか。それはいいことをしましたね。それはそうと遅刻です」

「道で困っていたお婆さんの手を引いてあげました」

「良いことをした人は報われますよ。それはともかく遅刻です」

「とても感謝されて、近くの喫茶店で紅茶をご馳走になりました」

「やはり良いことをすれば報われますね。ちなみに遅刻です」

「だぁーー!! (うるさ)いわねメガネの癖に!! 少しは見過ごしてやろうって気になんないわけ!?」

「それとこれとは話が別ですから」

「まったく……融通のきかない教師め……」

 さらりと暴言を吐きつつ諦めたように席へ向かっているのは桜乃と同じく3年連続同じクラスになった藤阪葵(ふじさかあおい)だ。

 首の辺りで短く切った髪は本人のややキツイ目と合わせて性格の悪さというかなんというか、少なくとも女の子らしくはないんだろうなという印象を与える。さっきの話もどうせ嘘だろう。

「お前な、いくらなんでも4月の時点で遅刻二桁はまずいだろ」

「別に大丈夫よ。きっとね」

 その自信はどこからくるんだ。

「それよりね。あたしはあんたに言わなくちゃいけないことがあるの」

 なんだ。聞こうじゃないか。

「あんたに昨日メールしたわよね。朝起こしてって」

 担任に見つからないよう携帯を開いてメールを確認。

 ……あった。

『眠いから朝メールで起こして』

「というか夜中の3時受信になってるんだが」

「夜中の3時に送ったんだから当然じゃない」

 なにを威張ってるんだ。

「常識的に考えて、こんな時間のメールを見れると思うか?」

「そんなもの気合いでなんとかしなさいよ」

 気合いでなんでもできるなら世界は恒久平和だろうよ。

「だいたいね、あたしがやれといったらやるのがあんたの義務。運命。使命なのよ」

 そんな悪魔のような契約をした覚えは一切ない。

「あたしの遅刻が多いなんてことになったらあんたを殺すからね」

 そんな他力本願な要求をしておきながらどの口がぬかすか。

 結局毎朝目覚まし代わりのメールを送らなければならない羽目になってしまった。なんだこれは。これもお前の仕業か?

「なんでも人のせいにしないでください」

「厄病神の分際で何を言ってるんだ。明らかにお前の存在が原因だろ」

「……もういいです。わたしは行きます」

 何処へ。

「知りません」

 そう言い残して本当にどこかに行ってしまった。登校中からなんとなく態度が冷たいと思っていたが、どうやら朝食の時に多少きつく言い過ぎたのかもしれない。

 だが朝食を作ってくれと頼んだ覚えはないし、第一台所があんなになるまで調理という名の破壊活動を続ける意味があったのか疑問だ。

 それに、どうせ俺はあいつにとり憑かれているのだ。あいつがいないこの状況はむしろ幸運と言えるだろう。

 そうして、厄病神不在のまま授業が開始された。いや、特に影響はないだろうが。

 

 

 ちなみに俺は1時限目から4時限目まで全ての教科で当てられた。いなくても厄を招くとはなんてヤツだ。忌々しい。


新キャラ第一弾、桜乃響&藤阪葵でした。

この2人は直樹と一緒に行動することが多いです。

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厄神様とガラスの靴
こっそり開設。
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