第36話:厄神様はかく見張れり
思いもかけない状況に直面すると人はまず現実を疑うようです。
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びっくりです。
他にもびっくりしたことはたくさんあるのですが個人的なことなので無視していきましょう。
では第36話をどうぞ!
「碧海、この前のビンゴの奢り、いつにするんだ?」
「え? ほ、本当にいいのか?」
母さんが帰った次の日。俺は碧海にあの話を持ちかけていた。
「これが桜乃とかだったらそのまま無視するんだが、お前には色々と恩もあるからな。むしろ今回のがいい切っ掛けになった。お前が嫌ならやめておくが」
「い、いや……ありがとう……」
それなら決定だな。それで、いつの日なら都合がいい。
「そうだな……私はいつでも構わないが……そちらに都合の悪い日などはないのか?」
「厄病神、どうなんだ?」
「ええと、日曜日は辻さんや藤坂さんとのお約束がありますので、日曜日以外なら問題はないと思います」
……いや、それは分かってるから、お前とか死神とかの用事はないのか。
「え? わたしたちですか? えーと……わたしはこれといって用なんてありませんが……」
「俺もない」
「うお……」
いきなり出てくるな。驚くだろ。
「すまなかった。碧海凛、そういうわけで俺たちに用事はない。そちらの都合で決めるといい」
「あ、ああ……」
なんでお前が仕切るんだ。
「それじゃあ、明日でいいか?」
明日……水曜か。わかった。
「では狭山直樹、その日の夕飯は勝手に食べているぞ」
なんでだ。俺はどこで夕飯を食えばいいのだ。
「食事を奢るというのは当然夕食だろう。まさか昼飯で済ませる気ではあるまい」
「は?」
「さ、狭山、本当にいいのか?」
「ふ、ふふ、ま、任せろ」
「とても任せておいて大丈夫には思えないのだが……」
木曜の夜、俺達はレストラン街に来ていた。死神の言葉に不覚にも考えさせられるところがあった俺は日頃の恩もかねて一大決心をしたのであった。
「今さらだが、なにか食べたい物はあるか? 一品5000円の世界でなければなんとかなると思うんだが」
「い、いや、そんな高級なものを食べてもおそらく味が分からないまま終わってしまうだろう。手頃な店でいい。そうだな、あそこなんてどうだろう」
碧海が指差したのは一軒のファミレス。
「……ファミレスでいいのか? 他にもきちんとしたレストランはあるんだぞ?」
別にファミレスがきちんとしていないと言いたい訳ではないが。
「私は殆どレストランで食事をしたことがないからな。ファミリーレストランの方がいい」
……ま、碧海がそう言うなら。
――カラン。
「いらっしゃいませー。何名様でお越しでしょうか?」
「2人だ」
「かしこまりました。こちらの席へどうぞー」
バイトの店員に案内されてボックス席へ座る。
「メニューが決まりましたらこちらのボタンで店員をお呼び下さい」
「碧海、何にするんだ?」
「こ、この中から選べばいいのか?」
……そこからか。
――カランカラン。
「いらっしゃいませ。何名様でお越しでしょうか」
「1人だ」
「ん?」
「どうした狭山、何かあったか?」
いや、何か聞き覚えのある声がしたような気がしてな。気のせいかもしれん。
「そうか。……で、ではこの、『若鶏のソテー』というやつでいいだろうか?」
いや、いいかどうかはお前が決めることだからな。
「それだけで足りるか? サラダとかも頼めるんだぞ」
「なに、そうなのか?」
そうなんだ。
「う……種類が多いな……狭山、どれにすればいいのだ?」
そうだな、一番普通のでいいだろ。
「あ、ああ。ではそれで頼む」
「他にはいいのか?」
「ああ。大丈夫だ」
ボタンを押して店員を呼び、注文する。俺はドリアを頼んだ。
「……店員は皆メニューを覚えているのか。凄いな」
「そんなわけあるか。あの持ってる機械に全部書いてあるんだろ」
「そ、そうなのか……」
「それでもメニューは覚える必要があるぞ」
そうかもな、ボタンに全部名前がついているわけじゃないだろうし……。
――バッ!
「……? どうした、狭山? いきなり立ち上がったりして」
「い、いや、なんか変な声が……」
「声? ……特に妙な音は聞こえないぞ」
そ、そうだよな、緊張してるのかもな。2人きりだしな。
「ふ、ふたりきり……」
しまった、いらんことを言ってしまった。
「いや、別に変な意味じゃなくて、今日はなぜか厄病神もいないしな」
「……そうだな」
あれ? なんか機嫌悪い?
「ご注文品をお持ちしました」
「あ、ああ。ありがとう」
「こちらサラダと若鶏のソテーになります」
碧海に料理とナイフ・フォークを渡す。ほら、来たぞ。
「あ、ああ。ありがとう」
俺の料理もすぐに届いて、ふたりで食べ始めた。
「……洋食も中々美味しいのだな」
「洋食と言っても日本人向けに味付けを変えているしな」
「ふむ、これは美味しい。狭山、感謝する」
……そんなかしこまって言われるとなんともいえない恥ずかしさがこみ上げてくるな。
しかし碧海は食べ方も上品だな。ナイフとフォークの使い方も様になっている。我が家の狐に見習わせたいくらいだ。
「……さ、狭山、そんなに見られていると、その、は、恥ずかしいのだが……」
「あ、ああ、す、すまない。つい……」
気付けばボーっと碧海を見つめる格好になってしまっていた。慌てて自分の料理に口をつける。
「狭山、そこまで急いで食べることはないだろう……」
「そうだな! ちょっと水でももらってくる! 碧海もいるだろ?」
「あ、ああ。お願いする」
席をたってドリンクバーへ。そういえば碧海は何を飲むんだろうな。
「とりあえずウーロン茶を入れてきた。大丈夫だったか?」
「ああ。ありがとう」
素直にストローをさして飲み始める碧海。
……そういえば、俺。碧海のことそんなに知ってるわけじゃないんだよな。
「……え?」
好きな飲み物とかも知らないわけだし。中学からの付き合いなんだからもう少し碧海のこと知るべきだよな。
「……あ、あの……」
というか恩人に対してそれはまずいだろ。なんで俺みたいな薄情者に付き合ってくれてるのかね。
「さ、狭山……?」
「声に出てるぞ」
「…………ん?」
ふと我に返る。
そこには真っ赤な顔をした碧海がいた。
「…………」
「…………」
「……俺、もしかして声に出してた?」
「さ、狭山は薄情者なんかではない、と、お、思うぞ……」
「…………」
すまん、ちょっとトイレに入ってくる。気にせず食べててくれ。
「やっちまった……」
なんなんだ今日は。少しおかしくないか俺? 幻聴といい独り言といい。
「と、とりあえず戻るか……」
トイレから出ると、まだ赤い顔でウーロン茶をすすっている碧海がいた。頼む、我が侭だろうが俺の精神状態のためにお前だけでも平常の顔をしてくれないか。
「……ん?」
俺たちが座っているテーブルの手前、つまり俺が座っていた席の後ろにあるテーブル席。そこに見るからに怪しげな2人組が座っていた。
「……何やってるんだ、お前ら」
「え? え! な、なんのことですか!?」
「人違いではないだろうか」
まだ誰とも言ってねえよ。
黒服にサングラスをかけた長身の男はおもむろに立ち上がると、
「それでは帰るか」
「は、はい!」
「うむ!」
2人分の返事と共に去っていった。
「さ、狭山、どうしたんだ?」
「いや、もう、なんというか」
ベタだな、と。
「ベタ……?」
なんでもない。忘れてくれ。
「あ、ああ……」
どうやら碧海はもう食べ終えたようで、コップの中の氷を所在なさげに見つめていた。
「それじゃ、行くか」
「あ、ああ。わかった」
俺も料理を食べ終え、伝票を持って会計へ向かった。
「ありがとう狭山、とても美味しかった」
そう言ってもらえてよかったよ。また今度ご馳走させてくれ。
「そういうわけにはいかない! 今日だって私には過ぎた礼だったんだぞ!」
「そうだな、じゃあ今日のがビンゴ大会の賞品、今度のが俺を助けてくれたお礼で昼飯って事でどうだ?」
「……わかった。ありがとう」
礼を言うのはこっちの方だ。
「ただいま」
「お、お帰りなさい!」
「お帰り」
「遅かったの!」
碧海を家まで送って待ち構えていた源三郎さんに質問攻めにあった後、家に帰ると普段と変わらないように見える3人が待っていた。
「厄病神、今日は何を食べたんだ?」
「え? え、えーと、ハンバーグです!」
そうか、俺も今日はハンバーグだったんだ。
「え? 直樹さんはドリアを――」
……さて、どうして見てきたかのようなことが言えるのか聞かせてもらおうか。
「あ……も、もしかして直樹さん、わざと……?」
あんな簡単な誘導尋問に引っ掛かったお前が悪い。
「……小夜……」
「ば、ばかもの……」
「さあお前ら、弁解を訊こうじゃないか?」
「え、えーと……」
「あれじゃ……」
「偶然だ」
「黙れ」
被告人に下された判決は3人それぞれ拳骨一発となった。
食事中って気を付けないとテンションおかしくなりませんか?
どうもこんにちは、食事の時は性格変わると言われたガラスの靴です。
ファミレスの裏事情に精通しているわけでもないので何か間違っているところがあれば教えて下さい。
あと、念のために付け加えておくと、玉藻もファミレスにいましたが、小さくなって隠れていたので直樹からは見えませんでした。
実は次回がまだ決まってません。
明日までに考えてきます。
それでは皆さん、ごきげんよう〜!