第34話:厄神様はかく襲われ
さて、実はクリスマスまで1週間を切っています。
早いよ年末。もう少し遅れてもいいんだよ。
光陰矢のごとし、と年寄りじみた発言をしたところで今回の話です。ちなみに全く関係ありません。
「最悪だ……」
退院祝いの帰り道、溜息をつく。
「ま、まあいいじゃないですか! 温泉の優待券はもらえたわけですし!」
そうだな。よくやった厄病神。
「うむ。4人ならちょうどではないか! 死神が1人じゃろ、あとわらわたち4人でぴったりじゃ!!」
なんで死神が誘う方と誘われる方2回カウントされてるんだ。大体お前はいつまで人間サイズになっている気だ。出てる出てる、尻尾が出てる。
「よいではないか。意外と誰も気にせぬぞ」
「いいからしまえ。もしくは小さくなれ」
「まったく、うるさいやつめ」
そこまで言うとそのままするすると小さくなってしまった。
「……笛がなくても小さくなれるのか」
「才能のなせるわざじゃ」
厄病神によじ登りながら答える。嘘吐け。
「練習していたら出来るようになった」
なるほど。玉藻の妖力関係はお前に一任しているからな、頼んだぞ。
日はとうに暮れ、夜の暗闇があたりを覆っている。道沿いの家々から明かりが漏れ、上から見たら綺麗だろうなと考えてみた。
「あれ……明かりが……」
「なに?」
見ると、俺の家から明かりが漏れていた。このパターンは前に一度あったな。
「厄病神、電気は消したか?」
「はい」
「死神、玉藻、それから電気を点けたりしたか?」
「いや」
「そんなことしておらんぞ」
今度は確実に消し忘れではない。
「死神、念のためすぐに攻撃できるようにしておいてくれ。泥棒かもしれん」
「わかった」
音がしないようにゆっくりと鍵を開ける。
「よし……」
――バン!
「なおちゃん! よかった、無事だったのね! ……って、あら? なおちゃんは?」
「狭山直樹なら開いたドアに叩きつけられて崩れ落ちているぞ」
……厄日だ。
「なおちゃん、寝るならベッドの中よ。外で寝ちゃ風邪引いちゃうでしょ」
「そういうマジボケかどうなのかわからない発言は控えてくれ」
リビングの中、我が物顔でソファに座る女性。
実際我が物なのだからいいのだが。
「それにしても、トラックに轢かれたって聞いたけど、嘘だったのね。なおちゃんったら寂しいからってそんな嘘をつくなんて、ママちょっと感激♪」
「トラックに轢かれたのは本当だ。あと気持ち悪いからママとか言うな」
そう、この人こそ、子離れできない両親の片割れ、我が母親狭山若菜である。
「もーう、なおちゃんが事故に遭ったっていうから急いで仕事を済ませて飛んで帰ってきたって言うのに、ひどいわ」
なにが飛んで帰ってきただ。俺の事故は何日前だと思ってる。地球の裏側からでも30時間で来れる時代だぞ。
「だって智和さんが俺も行くなんていうからー。説得するの大変だったのよー」
父さんがね。
「……ところで、その人たちは誰なのかしら。なおちゃんのお友達ってことでいいの?」
そうだ。思わぬ襲来につい放置してしまっていたが、死神たちがいた。
「ああ。俺と同じクラスの三途川黄泉だ」
「三途川黄泉だ。よろしく」
「まあ、礼儀正しくていい子ねー。それで、どうしてここにいるの?」
「ここに住んでいるからだ」
阿呆。簡単にばらすな。
「まあ、そうだったの。ごめんなさいね。気が利かなくて。こんな出来の悪い息子だけど、よろしくね」
おい待て。何をどういう思考回路でその発言に到ったか知らんが、いいのか。
「大歓迎よ。わたしもすぐに帰らなきゃいけないしね。好きに使ってね♪」
「感謝する」
なんなんだ、一体。
「……それで、そっちの女の子は?」
「は?」
玉藻が大きくなったか。そう思って振り向いたが、そこには厄病神しかいない。まさか……。
「……あの、わたしのことでしょうか……?」
「そうよ。わたしのなおちゃんの家で何をしているのかしら?」
まずい。
「逃げろ厄病神! 殺されるぞ!」
「え? え?」
「なおちゃんと……一緒の家に暮らすなんて100億年早いのよ小娘ぇーー!!」
「えぇーーーーー!?」
遅かったか。
厄病神は逃げ出すことも敵わず母さんに拘束され、そのまま逆エビをかけられた。
「い、いたいいたい、いたいですー!」
「うるさぁーい! わたしの目が黒いうちはなおちゃんに指一本触れさせないわよ!」
「いい加減にせんかこの馬鹿親ーーー!!」
――ガスッ!
脳天に拳骨を叩き込む。
「う、うぅ……なおちゃんがドメスティックバイオレンスを……」
「黙れ。人の知り合いに逆エビしかける奴に言われたくない」
「な、直樹さぁん……」
厄病神は既にノックアウト状態だ。
「……凄い母親だな」
身内の恥はさらしたくなかったんだがな。
「それで、なおちゃん、さっき厄病神とか言ってなかった?」
「あ、ああ。こいつ実は幽霊で……」
「な、直樹さん……」
しまった。いらんことを。
「ほぉ……幽霊……」
「いや、冗談だ冗談。ただの普通の女子だ」
「幽霊ごときが……なおちゃんにとり憑いて……」
聞いちゃいねえ。そしてまたしても危険度が急上昇だ。
「死神、厄病神の護衛を頼む」
「正直やりたくはないが致し方あるまい」
「天誅ぅーーーーーー!!」
「き、きゃああああああ!!」
――ガキィィン!!
「むぅ!?」
「すまない母君。狭山直樹の指示だ」
母さんが振り下ろした拳を死神が鎌で受け止める。
「あら黄泉君、どかないと怪我するわよ!」
「そうだな。だが引くわけにはいかない」
「そんな格好いい台詞を言えるなんて大したものね! だけど智和さんには勝てないわよー!」
知らねえよ。
「いっくわよぉーーーー!!」
「負けた……」
「危ないところだった」
リビングにおける地味なプロレスもどきは辛うじて死神の勝利に終わった。
「厄病神、もう大丈夫みたいだぞ」
「ほ、本当ですか……?」
俺の後ろで震えていた厄病神も顔を出す。
「勝負に負けた以上仕方がないわ……。すっっっっごく嫌だけど! 今日のところは見逃してあげる!」
怖いから。
「それで、他には誰もいないの?」
「あ、ああ」
これで玉藻まで見せたら何をされるかわからん。
「そう、それじゃあわたしは疲れちゃったから寝るわね。なおちゃん、一緒に寝る?」
死んでくれ。
「ふふふ、じゃあね〜♪」
「行ったか……」
「と、とても恐ろしかったです……」
下手すりゃトラウマものだな。
「随分強烈な性格だな。お前の母親とは思えん」
どういう意味だ。
――ボゥン!
「ぷはー! 危なかったわ! わらわまで襲われたくはないぞ!」
玉藻の術が切れたようだ。
「あの人は俺や父さんに近づく女を許さないからな。前に藤阪と碧海も襲われた」
「そ、それでどうなったんですか……?」
藤阪はぶち切れて本気の回し蹴り、碧海は多少とまどいながらも手刀一発で勝った。
「凄まじいな……」
「俺と父さんに近づく女には野獣の如き理性のなさを発揮するからな」
「……お主、わらわはまだ死にたくないぞ!」
しっかりしろ大妖怪。闘えば案外勝てるんじゃないのか?
「い、いやじゃ! あんなバケモノと戦っては命がいくつあっても足り――」
――ガチャ。
「あ、そうだなおちゃん。わたし先にお風呂入るわ――」
「あ……」
「……なおちゃん、その子は?」
その後、玉藻の身の安全を賭けた試合が終わるのは日付も変わってからであった。
というわけでようやく主人公の母親が登場です。
え? キャラクター多いから登場しなくても良かった?
大丈夫です。たぶん全然出てこないでしょう。海外出張とかで。
夫とは別の仕事なので同じ地域で生活する事は殆どありません。
そのため息子の安否を気遣う夫に今回は私が、と連絡するのに今まで時間がかかったのです。
決して登場させるのを忘れていたとかではありません。
次回もまだまだハリケーンは襲来中です。