第31話:厄神様はかく安らぎ
遅くなりました。
色々事情があったんです。
詳しくは本編の後のあとがきをどうぞ。
「文化祭の予定だけど、こういう風にしようと思うの。いいわよね?」
「は?」
玉藻に尻尾が生えてから数日後。尻尾が生えたからといってなにがあるというわけでもなく、いつも通り部活にいくといきなり松崎に呼び出され、謎の宣告を受けた。
「だから、文化祭の日程を決めたから、確認して頂戴」
紙を手渡される。
「うん、いいんじゃないか……じゃなくて!!」
「あら、なにか問題でもあった?」
その日程がどうこうって話はいつ出た。
「先週の水曜くらいだったかしら。部長会議で議題に出たわ」
それでもう提出したと。
「ええ。こういうのは早い方がいいでしょう」
俺が言いたいのはそういう話ではないんだが。
「まあ俺は別に気にしないんだが……藤阪にもきちんと確認してから提出した方がいいんじゃないか? 提出してから予定があわなかったら本末転倒だろ」
「藤阪さんなら大丈夫よ。予定はないって言っていたわ」
それ、随分前の話だろ。
「……なに? それじゃ貴方は、藤阪さんと話をして、決まらなくて、予定表を出せない方がいいと言うの?」
そこまでは言っていない。大いにありえそうなのが怖いが。
「ま、せめて藤阪とは相談した方がいいぞ。それなら俺は何も言わん」
どうせ部活以外にやることもないから予定もないしな。
「……貴方にこれを確認した意味がないわね……」
だから俺はいいって言ったろ。
「……はあ。まあいいわ。用はこれで終わりよ」
それじゃあ部長様に怒られる前に練習を始めるとするか。
「ずいぶんいきなりな話でしたね……」
「あれでもいい方だ。あいつ以外誰も知らないうちに予定が確定したこともある」
「はあ……」
それでもうまくいっているのは良い事なのか悪い事なのか。
「あんた、どこ行ってたのよ」
練習に戻ると藤阪が待ち構えていた。話していいものか。
「文化祭の予定が決まったと。今行けば松崎が予定表持ってるぞ」
「……聞いてないわね」
俺もだ。
「またそのパターン? あいつも学習しないわね」
「それでいいと思ってるんだろうよ。嫌なら自分で……いや、やっぱいい。行くな」
こいつが行ったらどんなことになるかわからない。
「なんですかー? また部長の話ですかー?」
また厄介なのが来た。
「それはひどいですねー。センパイたちの話を聞いて来年に役立てようと思って来ましたのにー」
そんな気は微塵もないくせに適当なことを言うな。ただ面白がってるだけだろ。
「練習しろ練習。お前この間微妙なところあったろ」
「あ、あれー? ありましたっけー?」
処刑。
「直樹さん、何をやっているんですか?」
「スコアの整理だ」
スコアとは指揮者用の譜面である。要するに全てのパートの譜面をまとめたものだ。
「なんだか複雑そうですね……わたしには何が書いてあるのかわかりません……」
「慣れれば簡単だ。譜面さえ読めればな」
「あう……」
学生指揮というのは大抵お粗末なものだ。俺も例に漏れずただの棒振り人形になっている。
「桜乃レベルの耳があればな……」
あれだけの耳があればもう少しまともな指示もできるのだろうが、正直的確な指示を出せている気がしない。
「でも、指揮をしているときの直樹さんはとても格好いいですよ?」
格好で演奏がよくなるなら指揮者はいらん。
「……そういう意味ではないんですが……」
「狭山せんぱーい」
「ん?」
呼ばれて振り返ると、藤阪妹がいた。
「どうした、藤阪」
「あの、どうしてもうまくいかないところがあって、教えて欲しいんですけど……」
フルートの指導など出来んぞ。松崎に訊いたほうがいいんじゃないか?
「え、えっと、そういうのではなくて、曲のことなんですけど、ここのどこで盛り上げればいいのかわからなくて……」
「ああ、そういうことか。ここは――」
尋ねてきたのは曲の解釈の問題だった。これなら俺でも答えられるだろう。
「――これでいいか?」
「はい、ありがとうございました!」
「やっぱり格好いいです……」
藤阪妹が立ち去った後に厄病神が呟いた。あのな。
「今のは聞かれたから答えられただけだ。自分からあそこの指示を出せない以上まだまだなんだよ」
「そういうものなんですか……」
そういうものなんだ。
「頑張っているようですね」
「はい? って、いつ来たんですか」
「今さっきですよ。たまには来なければと思いましてね」
顧問が来た。出来ればたまにじゃなくてちょくちょく来て欲しいんだが。顧問なんだから。
「文化祭の予定は松崎さんから聞きましたか?」
聞きましたとも。ついさっき。
「それはそれは。僕のところに来たのは一週間ほど前のことなんですがね」
そんなことだろうと思ったよ。
「彼女も色々と忙しいでしょうから、どうしても事後報告になってしまうのでしょう」
それはまあわからなくもないが。
「先生、こんにちは」
松崎が駆けつけてきた。顧問が来るたびに忙しいな。
「はいこんにちは。文化祭の予定はきちんと皆さんで決めないといけませんよ」
「……は、はい……」
おい、なんでこっちを見る。睨むな。
「――それでは、私はこれで」
「はい、ありがとうございました」
相変わらず何しに来たのかわからないまま顧問は立ち去った。
「それで、先生にはなんと言ったのかしら」
「いや、文化祭の予定は聞いたか、と尋ねられたから、さっき聞いた、と答えただけだ」
「……はあ。ただ聞いたとだけ答えてくれればいいものを……」
事実なんだからいいだろ。
「貴方にそんなことを言っても無意味だとは思うけれどね」
なんなんだ。感じ悪いな。
とは言わずにさっさと立ち去ることにした。面倒事にはしたくない。臆病者とか言うな。事なかれ主義で結構。
「狭山さん、助けて下さい」
「は?」
今度は市原に呼び止められた。今日はずいぶん声をかけられるな。
「ここが取れなくなりました」
市原曰く、手入れをしようとしたら取れなくなっているのに気付いたらしい。
「……ああ、ここはもともと動きづらいからな。少し力を入れれば簡単に動く。貸してみろ」
市原からホルンを受け取り、少し強めに引っ張る。ちなみにあまり歓迎できることではない。おとなしく楽器屋へ行くのが最善だ。
――ポン!
ワイングラスを開けたときのような音をたてて外れた。これでいいだろう。
「はい。ありがとうございました」
「よし、それじゃ合奏を始めるぞ」
――はーい。
部活が始まって1時間ほどしてから合奏を始める。この時に限り指揮者が部のトップとなる。別に嬉しくはないが。
「それにしても、今日は何事もなかったな」
「はい。黄泉さんも神楽さんも桜乃さんもいらっしゃいませんでしたね」
たまにはこんな平穏な日々もいいものだ。心が安らぐ。
「なんだか、穏やかな一日でしたね……」
奇遇だな、俺もそう思っていたところだ。
「今日は何にしましょう……?」
「早く決めろ。選ぶのはお前でも持つのは俺なんだ」
2人でスーパーへ行って夕飯の買い物をする。厄病神が料理を覚えてからは惣菜よりも材料を買うことが増えた。
「決めました! 今日はオムライスにします!」
それはよかった。早くしてくれ。
「黄泉さんと玉藻さん、お腹が空いているでしょうか……?」
「あいつらのために急ぐ義理はないな。のんびり行こう」
「直樹さん、ひどいですよ! 急ぎましょう!」
「おい、待て!」
横断歩道を渡る。厄病神はもう向こう側だ。人に荷物を持たせておいて何をやっているんだ。
「……直樹さん! 危な――」
なんだ。
そう尋ねようとした瞬間、視界の右に何か大きなものが迫ってくるのが見えた。
咄嗟に避けようとするが、体が動かなかった。
「え……」
――キキィーーーッッ!!
……空は、赤かった。
データが飛びました。
ええ、またしても。
学習能力のない作者です。
しかもそれに気付いたのが30分前。
まずいです。どんな話を書いたか覚えてません。
よし、こうなりゃ最終手段だ!
そうだ、その次の話を使おう!
あ、い、いたい、も、物を投げないで!
ごめんなさい、ほんとに時間が無かったんです!
というわけでかなり不穏な空気が流れた第32話改め第31話でした。
今回幻と消えた話はいつか復活するかもしれません。
では次回をお楽しみに。