第2話:厄神様はかく住まえり
第2話です。
ここまでが実質プロローグといった感じでしょうか。
「……今、なんて言った」
「ですから、わたし、神様になる修行をしているんです」
「それはもういい。その電波に侵されつくした発言の次だ」
「え……? 幽霊……なんです」
俺の常識は第1ラウンド開始30秒をもってリングへ沈んだ。
「それで? 神様になるために? とり憑くのに都合のいい人間を探していた?」
「は、はい……」
まず最初に言いたい。
幽霊が神になってなにが面白い。
そもそも神になるために人間にとり憑いてどうする。
「そ、その……世界の皆さんが幸せになるために、その人の幸せを分けてもらうのだと……」
なんてことだ。
すなわち世界の幸せのためにそいつは不幸になるということか。
「世界のために一人の人間の幸福を奪う神など必要ない。帰れ」
「そういうわけにはいきません! 神様になれれば、もっとたくさんの人が幸せになれるんです!」
とり憑かれた本人の幸せはどうなる。
「その人は神様になったあとに幸せにします!」
「そもそもそんなことで全知全能の神様になれるなんて甘すぎないか。死んだだけで神様になれるならイエスの苦悩はなんだったんだ」
「そんな事はありません。死んだ人はみんな神様になりたいと言いますので、本当になれる人はごくわずかなんです」
「具体的には」
「800万人……だったかと」
おのれ神道め。
「わかった。なかなかうまい作り話だった。それじゃあ帰れ」
「ですから!あなたに協力していただきたいんです!」
俺は馬鹿ではない。
だから、さっきの話を聞いていればこの『協力』というのが文字通りとり憑かれて幸福を吸い取られることだというのは既に把握済みである。
そんなものに積極的に携わろうというのはただの馬鹿か偽善者である。ちなみに俺は馬鹿も偽善者も嫌いだ。
「断る」
「お願いします」
「帰れ」
「でももうとり憑いちゃってます」
殴った。
「痛いです……」
「普通に触れるんだな。ますます信憑性が薄くなった」
「なんでしたら今すぐ箪笥の角をあなたの小指にぶつけさせますが」
「いや遠慮しよう」
もしかして怒ってる?
「言っておくが、俺はそれほど幸福な人間と言える男じゃないぞ。効率を考えたら他の奴を探した方が何倍もマシだと思うんだが」
「一度決めたら変更はできないらしいんです」
コイツは馬鹿なのだろうか。
「なんでそんな大切なことをほいほい決めた」
「えと……わたしに気づいてくれたのはあなたが初めてだったんです」
「…………」
「わたし、3日前くらいからこっちに来てたんですけど、誰にも話しかけられずにずっと一人でいました」
それはそうだ。常人には見えないらしいし、見えたとしてもその格好では怪しさ爆発だ。
「それで、なんとなくここの家に来たらわたしに話しかけてくれる人がいたので……」
「……俺に憑いたのは失敗だったな」
「……え?」
「せいぜい俺の幸せとやらを集めてみるんだな。あまりの集まらなさに愕然とするだろうよ」
「あ、あの……」
「俺は寝る。お前は寝るのかどうか分からんが寝るなら適当に空いてる部屋を使え。くれぐれも俺が寝ている間に変なところをいじるなよ」
「……あ、ありがとうございます!」
「勘違いするな。俺はお前に不用意な選択がいかに失敗に終わりやすいかを教えてやるだけだ」
「……はい、えへへ……」
「まったく……」
その夜、俺は廊下の角に足の小指をぶつけた。
いかがだったでしょうか?
次回から主人公の不幸が爆発します。
具体的には、学校へ行きます。
タイトル募集中です。
それから、地の文の中にも所々直樹が実際に発言しているものがあります。
読み辛いとは思いますが、どうか我慢して読んでいただけると助かります。