第25話:厄神様はかく謝り
師走も2週目に突入です。皆さん、年賀状の準備はお済みでしょうか?
「かく過ごせり」はもう少し待って下さい。
……待ってて下さい……。
ゴールデンウィークも最後の夜を迎え、明日からは再び怠惰な日常が始まるという時。俺は一つの懸案事項を抱えていた。
「……こいつらどうしよう……」
「どうした」
「何か言いたいことがありそうじゃの」
厄病神は今までずっとついてきたからいい。だがこいつらにまでついてこられると非常に面倒臭いことになる。
「いいかお前ら、明日から学校が始まる。俺と厄病神がいない間に家を荒らしたりするなよ」
したら追い出すからな。
「ひどいではないか!? わらわは何をしておればいいのじゃ!!」
テレビでも見てろ引きこもり。結局ここに来てから厄病神の買い物以外一回も外出してないだろ。
「いやじゃーいやじゃー! わらわは暇なのじゃー!」
「玉藻さん」
厄病神が駄々をこねる玉藻の前にかがみこむ。
「わたしも、玉藻さんと一緒に行ければきっと楽しいと思います。でも、直樹さんが厳しいのにはきちんと理由があるんです」
「むむぅ……」
「だから……ね?」
「……仕方がないの……」
おお、やるな。
「こうして見ると小夜は母親みたいだな」
死神も感嘆しているようだ。生意気な娘をよくここまで手なずけたな。
「さしずめお前は娘に舐められている父親と言ったところか」
うるさいな。お前はなんなんだ。
「間男がいいな」
「そんなん選ぶなぁ!!」
「直樹さん、まおとこってなんですか?」
「知らんでよろしい!!」
「わらわは知っておるぞ! 部屋と部屋の間に潜む妖怪で通りかかる人間をガバァっと食べてしまうのじゃ!」
「そうなんですか! 怖いです!」
嘘知識を誇らしげにひけらかす様は見ていて滑稽である。本当の事を教える気はさらさらないが。
「死神、お前の方がまだマシだろうから言うが、あいつがおかしなことをしないように見張っててくれ」
「いいだろう」
そして次の日。
「えー、急ですが転校生を紹介します。それでは入ってきて下さい」
「今日からここに通う三途川黄泉だ。よろしく」
俺はこの時ほど日本の銃所有禁止を憎んだことはなかった。
「よ、黄泉さん、どうしたんでしょうね?」
「どうしたもこうしたもあるかぁ!! なんでお前がここにいるんだぁ!?」
「狭山くん、声が大きいですよ」
大きくもなるわ。
「学校とはどのようなところか気になってな。大丈夫だ、お前に迷惑がかかるようなことはしないつもりだからな」
すでに迷惑なんだが。
「なんだ狭山、お前あいつの知り合いか?」
「あの人、スゴくカッコいいね! 狭山くん、紹介して!」
「いや、そう、ただの小学校時代の友人だ」
「怪しいわね」
頼む、藤阪。勘が鋭いのは分かってるから今だけは見逃してくれ。
「えーと……さんずのかわ……くん? 狭山くんとはどんな仲なの?」
追及の矛先が今度は死神に。下手なことは言うなよ。
「同棲している」
「ロォーーリングソバットォォォ!!」
「おお、転校生の爆弾発言が飛び出したと思ったら往年のタイガーマスクを彷彿とさせる大技が炸裂したぞ………」
「お前、わざとやってないか? そこまで誤解を招く表現は狙わないと出ないだろ」
「いや、すまない。わざとだ」
シャイニングウィザード。
「直樹、どういうこと………?」
どうってことはない。アパートの家賃が払えなくなったから俺の家に転がりこんできただけだ。
「あんたの知り合いってまともなのがいないのね」
遅刻常習が何を言うか。
それ以上追及されなかったことに安堵しつつ、俺も嘘が巧くなったなと悲しくなりつつ、HRが終わると俺はすぐに死神を以前神楽のカミングアウトを受けた階段踊り場へ連れ出した。
「何のつもりかじっくり訊かせてもらおうか……?」
「神に言われてな」
「背後からの飛び蹴りは危険ではないかな……?」
「妥当な代償だろ」
神楽の教室に乗り込みそのまま飛び蹴りをぶちかますと、つっぷして動かない神楽から弱々しく抗議の声が上がった。当然無視する。
「そもそもあの置物から狐が出てきたのはどう説明する気だ」
「そうか!! ついに封印を解いたか!! 彼女の様子はどうだね!? なあにお礼を言う必要はなはぁっっ!?」
「な、直樹さん! それ以上やっては神楽さんが大変なことになってしまいます!」
ええい黙れ。
「そうだ死神、お前に玉藻を見ておくよう言っておいただろ。どうしたんだ」
「問題はない。1日分のコマーシャル最初の一文字を全部書いてテレビ局に送ればもう一台テレビが貰える、と言ったら早速挑戦していた」
それはまた大変なことを……。
「時に神、そろそろ真面目に説明せねば死ぬぞ」
「そ、そのようだね……」
やっとまともな弁解が始まるか。
「つ、つまりだね……シー、いや黄泉君をボディガード代わりにすればいいということさ」
いらん。
「まあそうは言わないでくれたまえ! 黄泉君さえいれば碧海君の手を借りずとも暴漢を撃退できるよ!」
まあ俺も碧海にあまりそんなことをさせたくはないが。
「……って、碧海……?」
「うわぁ……」
何とはなしに嫌な予感がして教室に戻ってみると、碧海の席からは負のオーラが滲み出ていた。
「あの退魔士も同じ教室だったのか」
「とても具合が悪そうです……」
「直樹氏、心当たりでもあるのかね!?」
心当たりと言うほどではないが、碧海の家から放り出された後に碧海本人には何も言っていなかった気がする。
「父親に追い出されたのだから仕方がないだろう」
「でも、きちんと説明しなければダメです!」
「ふむ、これではっきりしたね! 彼女は落ち込んでいるのだろう!」
「あんたたち、今度は何? スパイの真似事?」
げ、藤阪。
「げ、って何よ。自分の教室なんだからとっとと入ればいいじゃない」
頼む、見なかったことにして黙って通り過ぎてくれ。じゃないと、
「もう気付かれているぞ」
なんてことだ。
「狭山……」
「あー、その、なんだ……この前のは逼迫した事情があったというか……」
「ふふ……まあ当然だろうな……私の家など泊まる価値もないからな……」
あの、碧海さん?
「随分ネガティブだね! 直樹氏、これは業が深いよ!」
黙らっしゃい。
「碧海さん、その、ごめんなさい! 何も言わずに帰ってしまって!」
「いいのだ、小夜……」
これは駄目だ。
「碧海、よく聞け。まあ何故家を出る羽目になったかといえば追い出されたからなんだが、それを伝えなかったのはこちらの責任だ。すまない。しっかりと伝えてから帰るべきだった」
「……い、いや、こちらこそすまない。妙なことで取り乱してしまった」
うむ、やはり誠意は通じるものだな。
「はっはっは! 直樹氏もなかなかだね!」
何がだ。
「さーやーまー」
「うお、桜乃、なんだお前、そんな恨めしげな声出して」
「お前、せめて藤阪の前では……って、言っても無駄だよな。あーそうだろうよ」
何を言ってるんだ。意味が分からん。
「天然記念物、か」
「お、三途川、だっけ? 中々鋭いな」
「ふ、礼には及ばん」
変な連帯が出来た。
「まあいい。狭山、お前のせいで遣わんでいい気を遣ったオレのストレス、体育の時間に晴らさせてもらおうか!」
「なんなんだそのストレスってのは」
俺は桜乃に謎の言い掛かりをつけられ、釈然としないまま1時限目の準備を始めた。
どうもこんにちは、年賀状は出した数より返ってくる数のほうが少ないガラスの靴です。
かなり無理やりな続き方ですが続きます。
というわけで次回は体育のお話です。