第21話:厄神様はかく食べれり
どうもこんにちは、ガラスの靴です。
神様のお宅に突撃です。
結論から言えば、神楽の家は非常に普通だった。
というかマンションのワンルームであった。
「なんで神の癖にこんなひもじい暮らしをしているんだ」
「おおっと!! それは世のマンション暮らしの人々に失礼だよ! 住んでみれば意外と快適なものさ!」
そういうものか。
「でも、神楽さんはどうしてこのマンションになさったんですか?」
「ふふふっ! まあその内わかるだろう!」
こいつは答えを焦らすのが好きなようだ。そういや狐の置物も家に放り投げたままだったが突如爆発したりしてないだろうな。
「時にシー君!」
「なんだ」
「調子はどうかね!?」
「普通だ。狭山直樹に危害を加えようとした不良を撃退して何故か怒られた以外はな」
「君のことだ! 大方相手に大怪我でもさせたのだろう! む、どうした2人とも!?」
いやいや神楽。
「あの、『シー君』というのはもしかして、死神さんのことですか……?」
「そうだとも! 名前がないならせめて愛称を付けてあげないとね! ちなみに死神の『し』をとってシー君だ!」
んなことは想像がつく。死神は神楽の事をなんて呼んでいるんだ。
「神」
こりゃまた随分温度差のある呼び方だな。俺を呼ぶ時みたいにフルネームで神楽龍一じゃ駄目なのか。
「それは偽名だからな」
待て。
「そうだったんですか!? 初耳です!」
「はっはっは! 気にしなくていいさ! 我ながら気に入っているからね!」
「ひょっとして自分で考えたのか?」
「その通り! 僕のネーミングセンスもなかなかのものだろう!?」
神で『神楽』なんて偶然にしては出来すぎだと思っていたが。
「……だったら、死神にも名前付けてやればいいんじゃないのか?」
「…………」
なんだその沈黙は。
「……それだ!!」
なんだなんだ。
「いやはや、今までまったく気付かなかったよ! そうかそうか、僕が名前を付ければいいのか!! 直樹氏、君もなかなかやるね!!」
お褒めに預かり光栄だ。
「それじゃあ、どのような名前にするんですか?」
「俺は別に今まで通りでいいのだが」
「いやいやよくないよ! 折角直樹氏が無い頭を振り絞って名案を出してくれたのだからそれに報いなければ!」
殴っていいか?
「う〜ん……死神さんですから、それっぽいのがいいですよね……」
「そうだな! 出来る限り縁起が悪い方がいいな!」
なんでこいつらはこんな真剣に考えてるのだろうか。というか仮にも知り合いにつける名前として縁起が悪いのはどうなんだ。
「直樹氏! 何をぼうっとしているのだ! 君も考えてくれたまえ!」
俺もかよ。
「むむ……三途川……黄泉、とか……?」
自分で縁起が悪いのは避けろとか言っておいてこれはないな。
「いや悪い、今度は真面目に――」
「それだ!!」
「のわぁ!?」
「聞いたかねシー君!? どうだ彼の渾身の偽名は!?」
あんなんでいいわけないだろ。
「ああ……素晴らしいな……」
「嘘ぉ!?」
「直樹さん、凄いです!」
「うむ!! 縁起の悪い方向に関する頭の回転は流石と言ったところだね!!」
悪かったな。
「ではここに宣言する! シー君の名前は『三途川黄泉』君だ!!」
――ガチャ。
「神楽さん、少し煩いですよ――」
「あ」
「あ」
「神楽さんのお家って、舞さんのお隣だったんですね〜!」
「はっはっは! ばれてしまっては仕方がない! 実はそうなのさ!」
何が『仕方がない』だ。最初から発表する気満々だったじゃないか。
「それは言わない約束だよ! 舞君、今日は随分と早いね!」
「煩いので様子を見に来たんです。まさか狭山さんたちがいるとは思いませんでしたが」
そうかい、悪かったな。
「直樹さん! そういう言い方はいけません!」
分かった分かった。今日は寝床を借りに来たんだ。
「…………」
「舞さん? どうかなさったんですか?」
「……気にしないでください。少し考え事をしていただけです」
「はぁ……」
「ところでそちらの方は……神楽さんのお仕事仲間ですか」
おお、碧海も源三郎さんも分からなかったのに、こいつが見分けるとは。
「彼女の霊感は並ではないからね! 黄泉君、自己紹介したまえ!」
「死神の三途川黄泉だ」
その名前使われると逆に恥ずかしいんだが。
「市原舞です。神楽さんのお世話をしています」
またそういう誤解を招くような言い回しを。
「いやいや直樹氏! 今回ばかりはあながち間違いでもないのだよ!」
なんだって?
「あら神楽さん、こんにちは」
「こんにちは! 今日は友人がいるのだがいいでしょうか!?」
「ええ、構いませんよ。舞から聞いていますから。それに、神楽さんのお友達でしたら何人でもお呼び下さい」
「いやはや、いつもすみません! 感謝感激です!」
どうやら神楽は市原の両親に夕飯の世話になっているらしい。
「……ここまでくると……」
「完全にヒモだな」
「その代わりに勉強を教えていただけるので私は構わないのですが」
なるほど、交換条件か。確かに学年首席に教えられるのなら夕飯くらいはご馳走してやろうという気に――
「……ならないな」
「何がですか?」
「いや何でもない、こっちの話だ」
「憧れているのか」
阿呆か。
「お食事はおふたり分追加すればいいですか?」
いえ、夕飯までご馳走になるわけにはいきません。
「ああ、構いませんとも!」
おい。人がせっかく丁重に断ろうとしているのになにを言っとるんだ。
「大丈夫ですよ。それでは神楽さんの分を入れて三人分ですね」
行ってしまった。
「市原の親には霊感がないのか?」
「はい。私だけです」
不思議なものだな。しかし神楽が他人に敬語を使うところなんて初めてみた。食事の恩は身分をも超えるってところか。
「では直樹氏! 存分にくつろいでくれたまえ!」
市原の親に言われればそうするよ。
「では遠慮なく」
「やめんかぁ!」
「お! 食事が出来てきたようだね!?」
神楽の言う通り、市原の部屋にまでいい香りが漂ってきた。
「おいしそうですね……」
厄病神は複雑な顔をしている。やはり食べたいという欲求もあるのだろう。
「……神楽さん、アレをやっていいですか」
「ほう! 舞君の方から積極的に提案するとは珍しいな! いいのかい!?」
「はい。お願いします」
なんだ。黒魔術でも始めるのか。
「惜しいね! まあ、百聞は一見に如かず、だよ! 小夜君、ちょっと来てくれたまえ!」
「……はい……?」
「おいしい!!」
「そ、そう? 普段とあまり変わらないと思うけど……」
「とってもおいしいです! 感動です!」
「そ、そう。そう言ってもらって嬉しいですよ………舞」
そう、さっきから100ワットの笑顔で市原の母親の料理を絶賛しているのは市原だ。誰がなんと言おうと。
「かなりのものだな。どちらの精神にも全く負担がかかっていないようだ」
「当然だよ! 僕が鍛え上げたからね!」
どういうことかというと、まあ単純に言えば厄病神が市原に乗り移っているのだが、違和感の塊である。
「彼女には霊媒の才能があるからね! そこは伸ばしてやるべきだろう!」
「そうだな。いい判断だ」
だが市原の両親はかなり戸惑っている様子だ。事情を知っている俺でさえ軽く引いているのだから当然かもしれない。
「ま、舞……今日は随分機嫌がいいな。どうしたんだい?」
「はっ! べ、別に何もありません! ふ、普通です!」
いや、変だから。
「舞、時々ああいう風に性格が変わるんです。神楽さんは思春期特有の健全なものだと説明してくれるのですが、大丈夫なんでしょうか……」
……ははは、もう何も言えないな。
結局俺と死神は神楽の家で、厄病神は市原の家で寝ることになった。もちろん霊媒状態は解除されている。
「いや、今日は楽しかったね! またいつでも遊びに来てくれたまえ!」
……そうだな、気が向いたら来るかもな。
こうして俺達の放浪の旅も最後の夜を迎え、不思議と充実した気分になりながら俺は意識を閉じたのであった。
今、かなりの危機に瀕しています。
具体的に言うと、今日から期末試験です。
しかも、風邪を引きました。
正直こんなことをやっていていいわけがないのですが、一日一話は目標であり使命であるので頑張ります。
ええ、馬鹿です。
というわけで市原さんは霊媒体質です。
時々神楽が面白がって霊を憑依させます。
本人も嫌がってないのでいいのでしょう。
次回はようやく帰宅です。