第15話:厄神様はかく憂えり
どうも、ガラスの靴です。
今回は部長様のお話です。
「センパーイ! ちょっと来て下さいー!」
未だかつてない大散財をしてしまって数日後、俺が自主練習に勤んでいると、またしても辻が厄介事を運んできたようである。厄病神は間に合っているんだが。
「俺が何をしているかわからないのか。練習の邪魔をするな。むしろお前も練習しろ」
「そんなこと後回しですよー。大丈夫です、すぐ終わりますからー」
何が大丈夫なものか。
だがここで抵抗してもどうせ最後には連れて行かれるのだ。結果が変わらないなら最初から大人しくついていった方がマシだろう。
「それで、どうしたって言うんだ」
「顧問が来たんですー!」
ほう、それは確かに大変だ。
音楽室に行くと、そこには我が部の顧問と部長がいた。
「まったく、遅いわね」
これでも言われてすぐ来たんだ。文句なら辻に言ってくれ。
「えー!? センパイが抵抗してたんですよー!?」
ええい煩い。黙っていればお前の責任にできたものを。
「まあ特に急ぐ用ではありませんから。大丈夫ですよ」
顧問がフォローに入る。毎日見ている顔だと有り難みもなにもないな。
そう、吹奏楽部の顧問とは何を隠そう俺のクラスの担任その人なのだ。別に覚えなくていいぞ。
「藤阪はどうしたんだ」
「あの藤阪さんがこういうことに真面目に参加すると思って?」
わかった。もういい。そんな怖い顔をするな。
「それでですね、ゴールデンウィーク前に一度収支を確認しておこうかと思いまして」
成程、そういえばそろそろゴールデンウィークだ。学校も1週間近く休みになる。
「貴方、毎回確認をとってないの? 金銭関係のことはしっかりとして頂戴」
ある程度まとめてからじゃないと殆ど毎日顧問のところに行かなくちゃならなくなるんだよ。教員室に入り浸るなんて俺はごめんだ。
「そう。なら早くして。先生もそんなに長居は出来ないそうだから」
藤阪が毛嫌いするのもわかるな。口煩くてかなわん。
「この前、辻の馬鹿が楽器を壊したので合計で2万くらいですかね」
領収書を渡しながら大体の金額を見繕う。今月は少し高いな。
「辻さんは頑張ってるじゃないの。馬鹿だなんて酷いわね」
だからいちいち口を出すな。馬鹿は馬鹿だ。騙されるな。
「ふむ……そうですね……。分かりました、経費として認めましょう」
仕事は俺がやるといっても部費を預かる訳ではない。あくまでも顧問が管理しているのだ。そのため顧問から清算してもらわないと俺の自腹となる。
「ゴールデンウィークには何かと物要りでしょうから早い方がいいですね。明日取りに来て下さい」
よし、助かった。
「では先生、こちらもよろしいでしょうか」
俺が2万の返金を確約されて今日の夕飯は豪華にいこうかと考えている隣で、松崎が別件で顧問と相談していた。
部長として相当走り回っているようで、松崎に任せておけば安泰だとさえ言われる。ただ俺達にさえ何も告げずに予定を組み立てる節があり、そこがさらに藤阪との不仲の一因となっていることに本人は気付いていない。
「……はい。わかりました。ありがとうございます」
「では、私はこれで」
相談も一段落ついたようだ。顧問が帰っていく。今度は何だって?
「夏休みの練習の件よ。どうしても外せない用事がある日なら予め言って。振り替えておくわ」
ポンと日程表を渡される。……といっても俺はとりわけ予定の多い人間ではない。しっかりと休みが入っていることだけ確認して返す。
「たぶん大丈夫だろ」
「たぶん、じゃ困るのよ。しっかり確認して」
予定は未定だろ。未来に確かなことなんて何もないのさ。
「……そう。それを少しでも確かにするのが私達の仕事だと思っていたのだけれど」
耳が痛いな。
「よう! 調子はどうだ!?」
教室に戻ると辻と桜乃が談笑していた。練習しろ。お前は帰れ。
「ひどいなオイ! たまに聴きに来てやったのによぉ!」
頼んだ覚えはない。
「へっ! 辻ちゃん無茶苦茶上手くなってたからな! 追い抜かれても知らねえぞ!」
「マジか」
「もはやセンパイなんて敵ではないって感じですねー」
こんな調子で言っているが、桜乃の耳は本物である。音大卒の両親を持った音楽一家で、桜乃以外の3人の兄弟姉妹は全員が音楽に関わっている。
ところがこいつは何故か音楽を避けているようなところがあり、自分は聴くだけで演奏する方には決していかないのだ。
とは言え、血も環境も音楽に染まったような家で培われた耳は俺や藤阪にとって非常に助けになる。時々こうして演奏を聴いてもらい、欠点を指摘してもらうのだ。
「――どうだ?」
「……そうだな。まだ吹き始めに少し雑音が入る。長く吹いた後の音程も前よりマシだが若干乱れてるな」
「そうか」
「だがまあ音色と楽譜の解釈はかなりいい方だろ。毎日毎日飽きずに練習してるだけあるな」
「一言多いんだよ」
「桜乃センパイ、合奏も聴いていきますかー?」
「おっ! いいねえ! 辻ちゃんの活躍を聴くとするか!」
はしゃぐな、気持ち悪い。
「うーむ……」
「どうだ。何か感想はあるか」
「そうだな……曲全体の音量バランスを意識しながら吹けばもっといいかもな」
「よし。皆わかったか」
合奏でのこいつの注意点はダイレクトに役立つ。俺もある程度は指摘出来るがこいつが来てくれた時にはこいつに指摘してもらった方がいい。
「――てかさ、あいつ学生指揮だからってカッコつけすぎじゃない?」
「なんで指揮者なのにトロンボーンばっかり練習してるんですかねー」
「馬鹿だからに決まってるじゃない」
「そこの馬鹿3人! 煩いわ! お前も役目は終わりだ! 帰れ!」
「――しかし、やっぱりあの部長は違うねぇー」
合奏が終わった後の教室。やはり松崎のフルートはこいつをも唸らせるものがあるようだ。
「お前もそこまでの耳があるんなら楽器をやればいいだろ」
「ジョーダン。俺は聴衆役がお似合いなのさ。何につけてもね」
何やら意味深な台詞を残して桜乃はとっとと帰ってしまった。
「狭山くん、早く片付けてくれないかしら」
教室の鍵を持った松崎に急かされる。少しのんびりしすぎたか。
「桜乃がお前の演奏に感嘆してたぞ」
「そう。いつも来るなら部活に入ればいいのに。部員以外が部活に入り浸るのはあまり感心しないわ」
松崎は桜乃をあまり快く思っていないようだ。……藤阪とよくつるんでるしな。
「終わった?」
「あ、ああ」
では俺はどうなのだろうと疑問に思う間もなくタイムリミットが宣告された。幸い片付けも終わっていたので教室を出る。
「じゃあね」
「ああ。それじゃあな」
松崎と別れて帰路へ。
「部長さんも大変なんですね」
そうだな。俺には真似できないかもな。
「……でもなんだかあまり皆さんの評判は良くないみたいです」
やっぱり性格の問題だろう。慣れていればいいが我の強い奴には合わないんだろうな。
「なんだか部長さんが可哀想です……」
お前がそんなに気にしなくてもいいだろ。人望ないって言っても、俺に比べれば随分マシだ。
「……直樹さんって、ひょっとしてすごくバカですか?」
馬鹿とはなんだ馬鹿とは。
「気付いてないならいいです。早く帰りましょう?」
「むう……」
かなりはぐらかされた気がするが気にしないことにしよう。俺は先を行く厄病神の後を歩き始めた。
筆者以外の高校でも生徒に会計なんかは任せるのでしょうか?
部長の話と言いながら桜乃の話もだいぶ混ざってますね。
厄神様の出番が少ないかもしれません。
次回からは増えます! 多分!
次回は神様と霊感少女のお話です。