第13話:厄神様はかく歌えり
こんにちは、ガラスの靴です。
今回は退魔士様のお話です。
「狭山ーー!!」
「なんだ。俺は今時計の秒針の動きを見るので忙しいんだ。話しかけるな」
「なんでそんな適当な理由付け!?」
ある放課後、桜乃が満面の笑みで俺の席に寄ってきた。こんな時はろくなことがない。無視して帰らせてもらう。
「まあまあ。いい話があるんだよ」
「そうか、おめでとう」
「少しは真面目に聞けよ!!」
まったく、なんだというのだ。
「へへ、実はな、ここだけの話なんだけどさ、これからナンパに行こうと思うんだよ」
そうか、頑張れ。
「まあまあ待てよ! それでさ、カラオケの無料券が3枚あるんだ。誘った女の子とフィーバーしようぜ!?」
「藤阪ー! 桜乃がカラオケの無料券くれるらしいぞー!」
「なに言ってんだテメェーー!?」
だが、どうやら藤阪は帰ってしまったらしい。くそ、タイミングが悪かったか。
「ほらほら、どうするよ?」
あえて厄病神を入れて3人と数えてもいいが、確実に不審者扱いされるだろう。
結局、どうせ失敗するだろうと踏んでついていくことにした。駄目なら券を奪ってまたいつもの3人で行けばいい。
「ねーえ彼女ー? カラオケの無料券があるんだけどさぁー?」
「ウザイ」
「ね、ねえ、そこのキミ。俺達とカラオケ行かない?」
「死ね」
「……カ、カラオケ」
「2点」
「ちくしょーー!!」
予想通り全敗だった。今時ナンパなんて流行らないだろ。最後の奴はやたら厳しいな。
「うるせぇよ!! そんなに言うならお前やってみろ!!」
だからどうしてわざわざ時代遅れの勧誘をせねばならない。
そう思うものの、これで俺も失敗すれば桜乃も諦めがつくだろう。そう思って適当にそこら辺を歩いていた奴に声をかける。
「なあそこを歩いている外国人風のお嬢さん。俺達とカラオケなんていう庶民のささやかなストレス発散の場で歌詞の意味も正確に理解していなさそうなアイドルの曲でも歌わないか?」
「なんでそんな嫌々感出してんだよ!?」
「カラオケ……なの?」
「お?」
存在すら無視されると思っていたら、意外と食い付きがいい。銀色に光る髪が気品を滲ませている。
「……興味はあるの」
おいおいおい。マジか。
あんな適当な誘い文句とも言えない言葉の羅列に興味を持つとは本当にお嬢様なのかもしれないな。
「おっ!? マジマジ!? それじゃあさ、俺達についてきてよ!!」
「うん……わかったの……」
日傘をさしたそのお嬢様は本当にトコトコと桜乃の後をついていく。まずいだろ。
「おーい、お嬢様」
「……? なに?」
「ああ。さっき付き人が探してたぞ」
「……それはいけないの。早く戻らないとダメなの」
……本当にいたのか。
「そうだな。早く戻った方がいい」
「……バイバイ、なの」
ペコリ、と頭を下げて去っていく少女。俺は一人の少女を平民のうす汚れた世界から守った達成感に包まれながらその後ろ姿を見送った。
「なに帰してんだテメーー!!」
「がっ!?」
後頭部に手刀を喰らった。くそ、殴るぞ。
「さも殴ってないかのような言い方をすんな……」
煩い。黙っていればわからないものを。
「ほら、どうせナンパなんて無理だ。諦めて藤阪と3人で行こうぜ」
「この券、今日までなんだ……」
なんて使えない男だ。
仕方がない。適当に知人を探して行くか。
俺が放課後勉強もせずに商店街に来ている暇人を探していると、ついこの間も見かけた奴がいた。あいつでいいか。
「おい、碧海」
「なあぁぁ!?」
だからなんなんだ。
「さ、狭山!! いるならいるで声をかけろ!!」
だから声をかけたじゃないか。
「そ、そうだったな。すまない……」
まあいい。俺達これからカラオケに行こうと思うんだが、碧海もどうだ?
「『俺達』……? 狭山とその幽霊少女か?」
違う。どうやって幽霊がマイクを握るんだ。
「あの、凛さん!」
「ど、どうした」
あそこで痙攣してる桜乃とだ、と続けようとした俺の台詞を遮って厄病神が会話に割り込んできた。
「私にも名前があるんです! 小夜といいます! そう呼んで頂けないでしょうか!?」
「あ、ああ……。小夜、でいいか?」
「……はい、ありがとうございます!」
なんでそんな嬉しそうなんだ。どうしてそこで俺を見る。言っておくが俺は厄病神という呼び名を変えるつもりはないぞ。
「それで、狭山と小夜の他には誰がいるんだ?」
「桜乃だ」
「桜乃……? どこにいるんだ?」
そこにいるだろ、と振り返るとさっきまで倒れていたところから姿を消していた。さらに探すと、
「ねえねえ彼女、俺の奢りでカラオケ行かない?」
「……碧海、あいつを意識が飛ばない程度にボコボコにしてくれ」
「……いいのか?」
「構わん。俺が許可する」
「――そんなわけで、カラオケの無料券をみすみす無駄にするのもなんだ。無難に碧海と行くことにする。いいな?」
「あい……すびばぜんでじた……」
流石碧海、見事に抵抗の意思だけを奪い去ったか。
「さ、狭山、私は歌など歌えないぞ!」
問題ない。大丈夫だ。
「おい!? 何が大丈夫なんだ!?」
「いやあ、歌った歌った!」
「お前、俺達の2倍くらい歌ってたんじゃないのか?」
「く……一生の不覚だ……」
2時間後、カラオケ店から出てきた俺達は三者三様の顔をしていた。
満足気な顔。
不機嫌な顔。
そして、真っ赤に染まった顔。
「お前、そんな恥ずかしがる程ひどくもなかっただろ」
「私は音楽にあまり関わりがないんだ……。普段から音楽をやっているお前たちと一緒にしないでくれ……」
「でもそんなに音程外してもなかっただろ」
「そうだな。案外素質があるんじゃないか?」
「そ、そうか……?」
たまにはこういうのもいいかもしれない。藤阪には悪いがまた違った楽しみ方ができた。
「お前のカラオケ券も意外と役に立ったな」
碧海と別れ、俺達は帰路についていた。既に日は暮れかかり、家路に急ぐ人々が街を行き交っている。
厄病神も俺や碧海が歌っていた時一緒に歌っていたので楽しめたんだろう。
「いやホント、今日は藤阪が帰ってくれて助かったな!」
「あら、そう?」
「確かにな。おかげで碧海の新しい一面が見れた」
「ならあたしはここであんたたちを見つけてもそのまま立ち去るべきだったのかしら?」
「……でもさ、やっぱり藤阪がいないといつもの感じが出ないよなー、あははははー……」
「そ、そうだな! どうしても藤阪には及ばないな!」
「あははは……」
「はは……」
2人、後ろを見る。
藤阪が笑っていた。
だが目は笑っていなかった。
「あんたたち、ちょっと話を詳しく聞かせてもらえるかしら?」
「狭山……オレたち……」
すまん、いつの間にか俺の厄が伝染したらしい。
俺達はずるずると路地裏に引きずられながら、殴られる数を1つでも少なくする言い訳を考えていた。
「直樹さーん! 先に帰ってますねー!」
厄病神、お前だんだん冷たくなったな。
という訳で碧海さんのお話でした。
この後彼女はこっそりと歌の練習を始めたりするのですが、それはまた別のお話です。
それからこの後2人とも藤阪にボコボコにされるのも別のお話です。
次回は後輩様のお話です。