第12話:厄神様はかく招かれ
番外編の「厄神様はかく過ごせり」を連作短編として連載小説に変更しました。
ご迷惑をおかけします。
そんなものに興味はないという方はスルーして下さい。
では、第12話です。
今回は気分屋様のお話です。
「藤阪、部活に行くぞ」
「いや」
なんでだ。
今日も今日とて藤阪を引っ張って部活へ。
「わかったわよ。出ればいいんでしょ、出れば」
そう言う藤阪は流石に音楽室の前まで来て観念したのだろう。俺の手を払って先に入っていった。俺も後に続く。
「――煩いわね! 少しくらい遅れたからってギャーギャー騒ぐんじゃないわよ!!」
……訂正。逃げよう。
「あーまったく、何なのあの女は!?」
いい加減落ち着け。
「落ち着けるわけないじゃない!!」
……どうしろというのだ。
もはや松崎との仲は修復不能だろう。それはいい。誰とでも仲良く出来る人間の方が不気味だ。
だがせめて機嫌は直して欲しい。非常に気を遣う。
「そうね……直樹、あんたちょっと付き合いなさい」
何だって?
そんなわけで次の日の放課後、何故か俺は藤阪に連れられて駅前に来ていた。
「さあ! ついてきなさい!」
何故だ。確かに機嫌を直せと言ったのは俺だが、手伝うと言った覚えはない。
「いいから! 早く来なさい」
俺の文句は封殺された。ああなったら何を言っても聞かないな。
「重い……」
「遅いわよ! 置いていくからね!」
駅前のデパート。婦人服売り場。女と男。
この3つが合わされば結果は見えている。俺は漫画みたいな量の荷物を抱えて藤阪の後をついていくという非常に前時代的な光景の一部と化していた。
「早く来なさい!」
大声で指図するな。通り過ぎるおばさんたちの生暖かい目が非常に痛い。
「……藤阪さん、楽しそうですね」
微笑ましげに言う厄病神。お前もこの前似たようなことやっていただろ。量は圧倒的に違うが。
「服もこれだけ買えば暫くはいいわね」
俺がぶら下げた荷物を見て言う。なんて奴だ。どうやら俺を使って数ヶ月分の買い物を済ませたようである。
「お前、こんだけ買ってよく金が持つな……」
「そんなに高い物ばかりじゃないわよ。高い金を出して良い物を買うんじゃ面白くないしね」
そういうものかね。
「さあ、次に行くわよ!」
勘弁してくれ。
次々と荷物を増やしてくれる藤阪。最早俺の積載能力は限界を超えていた。
「……無理だ……」
「しょぼいわねぇ……。仕方がないからこれで終わりにしましょうか」
「こ……こんなになるなら……桜乃も呼べよ……」
「……う、うるさいわね!! 悪い!? あんた一人で充分だと思ったのよ!!」
わかったからそんなに怒るな。
急に不機嫌になった藤阪は喫茶店に寄ると言い出した。ここでまた無駄に不機嫌にさせてもしょうがないので大人しくついていく。
「アイスコーヒー。それとシフォンケーキ」
仏頂面で店員に注文する藤阪。ちなみに俺はアイスティーを頼んだ。
「あんたお茶しか飲まないわよね」
「そう言われてみればそうだな」
昔からジュースなども飲まなかったので、気が付けば水と各種お茶しか飲まなくなってしまった。安上がりだからわざわざ他の物を飲む気にもならないしな。
「それにしても遅いわねぇ……」
まだ全然時間が経ってないだろ。喫茶店はファミレスのドリンクバーじゃないんだぞ。
「そういや藤阪、お前は生徒会長選挙で誰に入れる?」
「少なくとも神楽じゃないわね」
だよな。
別に神楽が会長になるのが嫌という訳ではない。ただどうせ奴が会長になるのだ。そんな中で俺達もあいつに入れたら面白くないではないか。
「神楽さんが可哀想です……」
煩い。俺の在野の精神に文句をつけるな。
「あんたどこ向いてるの」
「い、いや、蝿が飛んでた」
「ふーん……」
しまった、こいつ意外と勘は鋭いんだった。
「あんたさ、最近何かおかしくない?」
「な、なんのことだ?」
「……あんたが言いたくないならいいけどね」
……すまん。
「ただ、どっかの部長みたいに一人で突っ走って自爆するようなことはしないでよ。見てて腹が立つから」
そうだな。駄目なら相談することにしよう。
「ま、あたしも鬼じゃないからね。ここの分持ってくれるみたいだから深い詮索はしないわ」
安心しろ。充分鬼だよ。
「そうそう、この荷物。これ、あたしの家まで運んでね」
泣く泣く料金を払い、ご丁寧にまとめて置いていってくれた荷物を何とか店の外まで持って行った俺に再び死刑宣告が下された。少しは情けというものがないのか。
「あんたこそ、女の子にこんな大荷物持たせて帰るんだ。最悪ね」
最悪なのはどっちだ。そう叫びたかったが、俺は頭の悪い連中と違って自制心は強い方だ。世の中の理不尽さと馬鹿神様に心の底から恨みの言葉を吐き続けながら藤阪のあとに続いた。
「ありがと。助かったわ」
そりゃどうも。
既に日は暮れきり、夜の帳が街を包んでいた。藤阪の家は俺の家とは反対方向だからここからだとちょっと遠いな。
「……あんた、一人暮らしでしょ? どうせなら夜ご飯食べていけば?」
藤阪から嬉しい提案が出る。確かに今からスーパーに行って晩飯を準備するのは少々面倒だ。何より疲れた。
「…………」
だが常識的に考えてみろ。異性の家で晩飯をご馳走になるというのはかなり普通でない状況ではなかろうか。少なくとも俺にそんな経験はかつてない。
「あー……わざわざ誘ってくれて悪いが……」
「……そ、そうよね。……あはは……何言ってんだろうね、あたし……」
「……悪いが、ご馳走になる」
「……は?」
何を阿呆みたいな顔をしているのだ。お前が言ったんだろ。
そこ、煩いぞ。日本語がおかしかった? 知るか。黙れ。煩い。
「直樹さん、私はこっちですけど………」
煩い。お前に話しかけた訳でもない。誰かがいた気がするんだよ。
「そ、そう? それじゃあちょっと訊いてくるわね!?」
藤阪はさっさと家に入っていってしまった。一人外に取り残される俺。これで親御さんの許可が下りなかったらどうするんだ。無茶苦茶馬鹿みたいではないか。
「あー……大丈夫だって……」
……親御さん、やっぱり断ってくれてもよかったぞ。
「あ、あははー……ご、ごめんねー? ウチの親、馬鹿だから……」
「……あ、ああ……」
藤阪の家で食べた夕飯の食事風景は敢えて割愛させていただく。記憶も固く封印しておこう。見るに堪えん。
「そ、それじゃあな」
「う、うん。また明日」
藤阪の見送りを受けて家へ帰る。やはり余所の家で夕飯を食べるのには覚悟がいるな。
「直樹さん、熱でもあるんですか?」
「煩い! 黙れ! 話しかけるな!」
「直樹さん、もしかして……?」
「ええい黙れと言ったはずだ! 俺は帰って寝る!」
夜風が気持ちいい。俺はそれ以外のことを考えないようにしながら家路についた。
アレ……? なんだこの空気……?
最初は主人公が気分屋の機嫌を一生懸命直す話だったのですが、いつの間にやらこんならぶらぶこめこめした話に。
後半の藤阪、なんか性格まで違う気がします。
これが巷で話題のつんでれというやつでしょうか。
次回は退魔士様のお話です。