第127話:厄神様はかく毒盛り
どうもこんにちは、ガラスの靴です。
携帯電話を0円で機種変更しようという計画が絶賛頓挫中です。
なんで新規契約より機種変更の方が高いんですかねぇ。
というわけで、ある意味で藤阪さんの活躍目覚しい第127話をどうぞ。
「…………これは…………?」
「やーねー、昨日言ったでしょ? あんたのためにわざわざ持って来てあげたんだから、感謝しなさい」
蝉の鳴き声が絶えず響き渡り、テレビからは海水浴の賑わいを伝えるニュースが流れているこの夏の盛りにも関わらず、我が家の食卓は妙な薄ら寒さに包まれていた。
「……あれ、お前の店ってエスニック店だったっけ? なんか見たことない料理が並んでるんだけど」
「なに言ってんの、普通のファミレスよ。ただ残り物を持って来るんじゃあまりにも味気ないから、ちょっと手を加えてみたの」
余計なことを、とは死んでも言えない。言えないが、言わないとこのまま死にそうだ。
改めてテーブルの上に並べられた品々を概観する。
「の、のう……? お主、こ、この緑色の細長いのがたくさん入ったのはなんなのじゃ……?」
「あ、それ? バジルが和えてあるスパゲティだったんだけど、そういうのって風味が大切じゃない? だからバジルソースをちょっと煮詰めたのをソースとしてかけてみたの」
「あ、葵さん、こっちの、なんだかヌメヌメした物体が若干香ばしい香りを放つ黒い固まりに付着たかのような皿はなんだい……?」
「あ、それだったらハンバーグステーキに焼き色を足して和風に仕上げてみたのよ。なめたけとかって体にいいのよね?」
むしろ手を加えない方が体に良いと思います。
「で、これは特製よ。ホワイトソースとカルボナーラソース、それにフレンチドレッシングを加えて、ご飯を煮込んだリゾット。もはやこれは至高の逸品ね!」
至高すぎて見てるだけで魂持ってかれるよ。
「……お前……これ、味見したか……?」
「え? してないわよ? 量が減っちゃったら嫌だもん。でもそこまで味は悪くないと思うわよ」
その確信がどっから来るのか知りたいよ。
「いいからさっさと食べちゃいなさいよ。早くしないと部活に遅刻しちゃうじゃない」
え? マジで? マジで食べるのコレ?
――ガタタン!!
「あぁー! お父さん大事な仕事を仕上げなきゃいけないの忘れてたー! そんな訳でちょっと出掛けてくるなー!」
さやまともかずは にげだした!
「……お、おぉっと! そういや俺も夏休みの宿題のたもに図書館で調べ物しなきゃならないんだったぁ!」
「……わ、わらわも用事がある気がするのじゃ! はやくいかなければジョセフィーヌが死んでしまうかもしれぬ!」
さやまなおき と たまも は にげだした!
――ガシィッ!!
「あらー? こんな豪華な食事目の前にしてどこに出掛けようとしてるのかしらー? だいたいジョセフィーヌっで誰なのかしらねー?」
にげられなかった!
「さー、冷めないうちにどうぞー!」
「……い、いやじゃ……」
「こ、このままでは……」
「ほらほら、玉藻? 口開けてー」
「……ひ……!?」
――……いやあああああああああ!!
「オッス! 生きてるか狭山!?」
「……スマン…………今は話しかけないでくれ……。ちょっとでも刺激を受けたら内蔵がこのまま弾け飛びそうだ……」
机に突っ伏し、腹の中で荒れ狂う元・料理の数々を精神力で抑え込む。
「いやー、すみれちゃんが言ってたよ。『お姉ちゃんが狭山先輩を死なせないように祈ってます』って」
「……残念ながら祈りは届かなかったよ……」
「っていうか、料理くらいで大袈裟だよなぁ。どんな味付けしたって人が死ぬわけないじゃん?」
あぁ、横で呑気に笑っているこのバカの口にあの凶器を目一杯詰め込んでやりたい……。
「災難ね……。今回ばかりは同情するわ」
「げ、松崎」
「貴方は部員でもないのにどうしてここにいるのかしらね。まぁいいわ、どうせ狭山くんも今日は1日動けないだろうし、あまり練習にならなさそうだから」
珍しいな、お前がそんな風に言うなんて。
「……ちょっと、昔ね……。小学校の調理実習の時に、彼女と同じ班になったことがあって……」
「……いや、もういい……」
経験者にしか分からないトラウマに、お互いそっと涙を流す。
「……すげぇな、冷酷無比なこの2人の心をこうも砕く藤阪の料理は……」
お前も食ってみろ。きっとトベるから。
「で、玉藻ちゃんは大丈夫なわけ?」
「あぁ、あいつなら……」
今ごろ家のベッドで生死の境をさまよっているだろうな。断れないまま1皿食わされてたし。
「あー! あんたこんなところにいたのねー!?」
ビクゥッ!!
「ふ、藤阪!? ど、どどどうしたんだ!?」
「今日は何か食べたいものあるかしら? 何でも作ってあげるわよー! あ、そうだ、部活が終わったら買い物一緒に行きましょうか? どうせあんたん家まで行くことになるんだし」
「い、いや! 毎日作ってもらうのは悪いし、お前も大変だろ!? きょ、今日は遠慮しとくよ!」
「……あら、いいの? ご飯ほんとに用意できるんでしょうねぇ?」
コクコクと、首を何度も振る。
「……ふぅん……。じゃ、ほんとに体に気をつけるのよ?」
……危なかった……。
「……『何でも作って』……?」
「……『家まで行く』……?」
「……あ、いや……、それはその……」
あいつ、こいつらのことが目に入ってなかったのか? なんで?
「なんだ? 藤阪のやつ、わざわざお前ん家でメシ作ってんの?」
「い、いや、それはまぁ、色々あってだな……」
「……貴方たち、まさかとは思うけれど……」
――バァン!!
その時、教室の扉が勢いよく開かれた。
「――ふっふっふ、話は聞かせてもらいましたよ! 今日のご飯は不祥わたくし、この辻満月にお任せ下さい!」
……また、話がややこしくなる予感が。
葵「…………♪」
す「……ね、ねぇ、なんだかお姉ちゃんがすごく機嫌よさそうなんだけど、なんで?」
拓「ぼ、僕に聞くなよ……。兄さん、知ってる?」
響「……さぁてね」
というわけで、料理で人が殺せるのかという第127話でした。
藤阪は他の2人が見えていなかったようで。なんででしょうかねぇ。
次回は辻のターン。