第126話:厄神様はかく外食し
どうもこんにちは、ガラスの靴です。
うーん……当初の予定ではもう少し早く更新できる筈だったんですが……
とりあえず、小夜と下らないことで喧嘩してしまった直樹さん。
そして神様のいらん演出のせいで気まずい状況に。
さぁどうする直樹!?
そんな第126話、どうぞ。
結論として、小夜は霊媒体質である市原の体を借りて、俺の赤裸々な告白の一部始終を見ていたのだった。
「…………」
どうも、今日は色々と気まずいことが起こる日らしいなと、他人事のように考える。
日が長くなったとはいえ、流石に夜の帳が落ち始めた帰り道、まんまと神楽の策に嵌った形で家に帰る。
……1人きりで。
―――
――
―
「――いやぁ、君が見破ってしまったのは少しばかり予想外だったようだねぇ……」
「……お前、本当になんつーことを……」
小夜は市原の体を借りたまま部屋に閉じこもってしまい、俺も神楽も接触できなくなってしまった。
「お前があんなことしなけりゃ、ここまでこじれることもなかったんじゃないのか?」
「何を言うかね、僕の活躍によって、少なくとも君たちが喧嘩している状態は解消されただろう!?」
「その代わりに気まずさ3倍増しになったけどな」
「ま、小夜君は暫く僕たちの方で預からせてもらうよ! 2、3日も経てば落ち着くだろう! 良いかね!?」
「……どっちみち、今の状態じゃ家に帰って来られないだろうしな。……小夜のこと、よろしく頼む」
「うむ!この僕に任せたまえ!」
―
――
―――
「あいつらになんて言おう……」
脳内に『交渉決裂のようだな』『やはりきらわれたのか?』と事情も知らずに好き勝手なことを言う居候の顔が浮かぶ。
……いや待て、もしかしたら本当に『交渉決裂』で『嫌われた』のか?
いやいや、でも喧嘩状態は解消したし、いやいやいや、もしかしたら喧嘩以上に発展したのか……?
「……っだあぁーーー!? どうすりゃいいんだぁーーー!!」
突然胸の中に沸き起こってきた様々な思考に思わず叫びだす。ついでに通りすがりの人がギョッとしてこちらを見るので我に帰って恥ずかしくなる。
「……いいや、とりあえず帰ろう……」
「ただい――うおわぁ!?」
「……ふにゅおう〜…………しんでしまうのじゃぁぁ〜……」
玄関を開けて最初に目に飛び込んできたのは、リビングから半分身を乗り出した状態で力尽きて倒れている玉藻の姿だった。
「な、なにやってんだお前は!? 死神はどこに行ったんだよ!?」
「さっき、出かけていってしまったのじゃ……」
どこに行ったんだ。買い物か?
「そんなもの知らないのじゃ〜……。お主の父親もおきてこんのじゃあ〜……」
「情けない声出すな。なんだ、父さん寝たのか?」
少し耳を澄ませてみるが、確かに物音らしい物音は聴こえない。
「……仕方がない、もしかしたら死神が夕飯の買い物に行ってるのかもしれないしな。ちょっと連絡してみるか」
携帯電話を取り出し、死神の番号をコール。
――プルルルルル、プルルルルルル
『――やあやあ直樹氏ご機嫌麗しゅう!!』
「おっとしまった間違えた」
――ブツッ!
通話開始からゼロコンマ2秒で切ボタンを押し、もう一度注意深く死神の携帯電話にかける。
『――掛けてきたのは君だろう!? なぜすぐに切ってしまうのかね!! ちなみに言っておくとこれは黄泉君の携帯電話で間違いないよ!!』
「なんでお前が出るんだよ……」
さっきさんざん話をした相手だけに、どうもうんざりした気分になってしまう。
「理由は簡単さ! 黄泉君は今こっちに来ているんだよ!」
「……は? なんで?」
出かけたとは聞いていたが、神楽の家に行ったとは聞いていない。
『まぁ、詳しい理由は後々伝えるとしよう! とにかく、暫くそちらには帰れないから夕飯はよろしく頼むとのことだよ!』
「……前にも似たようなことがあったな。まさか大怪我してるわけじゃないだろうな?」
『はっはっは! 流石に二度目はないよ! 安心してレストランにでも行きたまえ! ではさらばだよ!』
……勝手に切りやがった。
「――というわけで玉藻、今日は死神も帰ってこないらしいから、ファミレスでも行くか」
「なんだ、結局そうなるのか。最初からそれでよかったんじゃないのか?」
「いや父さんには言ってないんだが」
父さんはいつの間にかリビングにやって来ていた。玉藻が思わず距離をとる。
「……まさか、お主もくるのか?」
「当たり前さ、玉藻さんが行くなら私が行かないわけにはいかないだろう」
「……わらわは行かぬ」
「なら私も行かないことにしよう」
「……うにゃー!! なんなのじゃお主はーーー!?」
「コントはその辺にしとけ」
このままじゃ永久に出発できないだろう。嫌がる玉藻を無理やり引っ張って俺達はファミレスへ向かった。
「――なんじゃ、きつねうどんはないのか?」
「残念ながらここは洋食だ。ハンバーグでも食べて我慢しとけ」
結局、食欲の前では父さんの存在も気にならなくなったらしく、玉藻は一心不乱にメニューを眺めている。
出かけるのがもう食事するには少し遅い時間だったため、ファミレスに着いた頃には夕飯を食べに来る客のラッシュも一区切りしていた。なんら待つことなく席へと案内される。
「メニューを1人で独占するなよ……。父さんはもう食べるもの決まってるのか?」
「ああそこの可愛らしいウェイトレスさん、すまないが水を持って来てくれないかな?」
「人の話を聞けよ」
「ん? ああ、注文する品なら決まっている。そんなことより、ここのウェイトレスさんはなかなか美人揃いじゃないか? 見ろ、あそこで皿を下げている彼女なんてかなり……」
いい加減殴ろうかと思えるほどベラベラとどうでもいいことを話していた父さんの口がポカンと開いたまま閉じなくなる。目線を追った俺も思わず行動停止してしまった。
「藤阪さーん、4番テーブルのお客様にお冷お願いしまーす!!」
「はーいこちらお冷3つ只今お持ちしましたどうぞごゆっくりってなんであんたたちがいんのよ!?」
「それはこっちの台詞だーーー!!」
「――だから、せっかく夏休みに入ったわけだし、ちょっと小遣い稼ぎよ」
「まさかお前がバイトとはねぇ……。一番そういうイメージとかけ離れて痛たたたたた!?」
「なんか言った?」
どうやら藤阪は夏休みの間、ファミレスのバイトをすることを決めたらしい。
まだ勤務時間中なのに客と話していていいのか疑問だが、藤阪の説明によればピークを過ぎてしまうと暇になるので構わないそうだ。
「なんじゃ? お主はここに食べに来たのではないのか?」
「だから働いてるって言ってるでしょ。玉藻、アルバイトって聞いたことある?」
「ないの」
「……直樹、ちゃんと一般常識くらい教えときなさいよね」
俺のせいか。
「しかし、葵さんも制服に包まれていると雰囲気が変わるねぇー」
「なに? オッサン死にたいわけ?」
「……ごめんなさい」
「客にそんな口きいていいのか?」
「いや、あんたたち客って認識じゃないから」
本当にこんな奴がサービス業で働いていていいのだろうか。
「ていうか、あんたたち外食するのね。あんまりそういうイメージ無かったわよ」
「あぁー……いや、今日は特別なんだ。実はかくかくしかじかで……」
「……ふーん……」
流石に小夜云々の事情は話せなかったが、死神がいないせいで料理の出来る人間がいなくなった、ということで話をした。
「だから、明日からの食事も考えないといけないんだよなぁ〜……。玉藻がいるからあんまりコンビニとか店屋物に頼りたくないし」
「……だったら、さ。あ、あたしが料理つくりに行ってあげようか?」
「……え゛?」
「なによその反応は?」
俺の認識では、お前は料理が得意ではなかったと思うんだが。
「へいきよへいき。ここの残り物とか持って帰っていいんだって。だからそれを適当に盛り付けなおすだけだし」
「それって結局ここで食べてるのと変わりないんじゃないか?」
「気分の問題よ。それじゃ、とりあえず明日そっちに行くわねー」
言うだけ言って、さっさと仕事に戻ってしまった。明日って、いつ来るつもりだ。
「……あいつ、意外といい奴じゃのう」
食べ物で懐柔されてるし。
神「おや、直樹氏の側でもなかなか面白いことになっているようだね!」
死「そのようだな」
小「……あ、あの、それでわたしはどうすればいいんでしょうか……?」
舞「大丈夫です、痛くありませんから」
というわけで第126話でした。
高校生だしきっとアルバイトしてる人もいるんだろうと思います。
ちなみに直樹達が通っている高校はアルバイト禁止です。
では、次話をお楽しみに。