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第124話:厄神様はかく隠蔽し

お待たせしました、日常の始まり始まり〜!


……というわけで、夏休みを遥かにしのぐ怒涛の一週間を終え、パソコンに触れたのがそもそも1週間ぶりくらいなガラスの靴ですが、ようやく更新できました。


とりあえず、そんな理由での遅れなので、質は全く向上しておりません。下手すると悪化している可能性も。

なにはともあれ、第124話、ご覧ください……

 見ていられない光景、というものがある。

 それは例えば残虐な映像だったり、あまりにも哀れな状況だったりと、直視することで自分の中の何かが壊れてしまいそうなものだ。

 そんな現実があると分かっていても、なお受け止めることが出来ない。

 だからこそ、人はその現実から目をそらして生きていくのだ。

 それでも、決して目をそらすことが出来ないことだってある。

 そんな時に、自分が出来ることは。

 

 

『――という訳でして、えー、この夏は君たちにとっても大切な時期であり、あー、今一度勉学に励みつつ、その……』

 

 

 ……「今が夏であることを再確認しておこう」といわんばかりの炎天下の校庭、そこに強制的に集合させられた約1000人の生徒達が発する物言わぬ怒りの視線を一身に受け、暑さ以外の原因で流れる汗を拭きながら必死に演説をする校長の話が、せめて早く終わらないかと願うだけだった。

 

 

「終業式なんて単なる飾りじゃねえか……。校長の話なんて誰も必要としてないんじゃねーの……?」

「それを言うな……聞いてるのが余計に辛くなる……」

 前に立つ桜乃のもっともなぼやきに返事をしながら、これはもはや拷問といっても差し支えない無意味な時間が過ぎていく。あ、1年の誰かが倒れて保健室に運ばれていったな。

『――と、という訳でして、2学期にはひときわ輝きを増した君たちの姿を見ることができると思っております。そ、それでは、これで終わります』

 それを見て流石に限界を感じたのか、そそくさと演説を締めにかかる校長。それが出来るならあと5分早くやってほしかった。

 最後に、生徒会長の挨拶。

『今年の夏は一生に一度きりだ!! 諸君、全力で愉しもうではないか!! 良い夏を!!』

――うおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!

 演説が短いのは支持率アップの鍵である。

 

 

「これで今日はもうおしまいですか?」

「そうだな。あとは教室に戻って、成績発表があって、手紙をもらって終了だ」

 うちの担任はあまり説教に興味がない。

 渡すものは渡したのでまた来年――そう言って3学期の修了式に3分でHRを終えた姿が未だ鮮明に脳裏に浮かんでくる。

 生徒の波にしたがって教室に戻りながら、小夜と話を続ける。

「本当にはやいんですね……。今日、直樹さんが『玉藻の昼の支度は必要ない』って仰った理由がようやくわかりました……」

「正直、お前が今日ついてくる必要があったかどうかも定かじゃないしな」

 玉藻も今日は珍しく素直に『早く帰ってくるのか、それはよいの』なんて言っていた。家に1人なんてのは、どんな事情があっても楽しいものじゃないだろう。

 教室に入って暫く桜乃たちとだべっていると、やがて担任が入ってきた。

「さて、それでは答案と各種手紙を配ります。自分の分をとって後ろに回してください」

 ……答案と手紙を同じ扱いで配っていいのだろうか。

 それでもクラスメイトは必要最低限、自分以外の答案は見ないようにしながら回していく。時々誰かが答案を眺めるように見ると、その後ろからぶっ叩かれる。なんともバランスの良いことであった。

 で、当然俺もこのクラスの一員であるからして、辿るべき経路を辿って最初の半分くらいの厚さになった答案(&手紙)の束が前の席から回ってきた。英語、数学、国語……と科目数を頭で確かめながら、答案は直接見ずに手の感覚だけで答案を回収、後ろの藤阪へ回す。

「……見てないでしょうね」

「見るわけないだろ。お前もとっとと自分の分とって回してやれよ」

 ちなみにこの間に担任は事務的な口調で注意事項らしきことを言っている。だがテストを受け取った生徒も受け取っていない生徒もそれどころではなく、担任自身も聞かせる気がないようで、まったく問題なくHRは進行していると言えた。

「……って、あら? あたしの答案、英語がないわね」

 最後尾なので、隣の机に答案を渡した藤阪が不思議そうに呟く。ちゃんと確認したのか。

「したわよ。当然じゃない。ねぇあんた、まさか持ってたりしないでしょうね?」

「そんなわけあるか。取らないまま回したんじゃないのか?」

 念のため自分の分の枚数を確認してみる。試験科目は11科目。大丈夫だ、きちんと11枚――

――パラリ。

 そんな擬音が聞こえそうなほど、ゆっくりと11枚目だった(・・・)答案用紙が2枚に分かれていく。何をするのも忘れてその分かれた2枚目を見つめ――、

『一学期期末試験 英語  3−D 38番 藤阪葵 39点』

 ……うわぁ。

 見てしまった。それはもう、ばっちりと。

 そもそも、見た見ないの問題ではないのだろうが、これはまずい。本当にまずい。ただただまずい。

 万が一俺が持っていたのがばれれば、確実に血を見ることになるだろう。しかもこの点数だ、おそらく藤阪の憤慨はプラスアルファ6割増といったところだろう。

 なんとかしてこのブツを戻さねば……!

「おかしいわね〜、最後の席まで答案が回ったのに何もなかったってことは、やっぱり誰かが取ってったのかしら……って直樹、なんか妙にそわそわしてるけどなんかあったの?」

「い、いや!? 何にもないぞ!? 俺はいつだってそわそわしてるんだ!!」

「なんかあんたおかしなことになってるわよ……?」

 さて、誤魔化したつもりが実は『素直に謝る』という最後の逃げ道を自分で粉々に打ち砕いてしまった。こうなるとあとはもう『ばれないように戻す』か、『いっそのこと永久に俺がもっておく』の二択しか残されていないわけだ。いやスマン、後者は俺の精神がもたない。一択だ。

 こうなると問題はどうやって戻すかだが……

「ま、英語なんて別に帰ってこなくてもいいか、出来もそこまでよくなかったし。それよりもこのあとどっか行かない? あんただってどうせヒマでしょ?」

「ど、どうせとか言うなよ……」

 俺の席は藤阪の前。すなわち、何かアクションを起こせば、いやそれ以前に俺が後ろを向けば、藤阪は何の障害もなく自分の答案の存在に気がつくということだ。それだけは避けなければならない。せめて何かに気を逸らすことが出来れば――

「……あ、そういえば響はどうだったのかしら? まさか赤点なんてとってないでしょうね?」

 そう言って藤阪は桜乃のもとへ行こうと席を立った。今だ!

「でもまぁどうでもいいか。HRが終わってから訊けば充分ね」

「うおわああぁぁ!?」

「なっ、なによ……?」

 俺の席の横を通りすぎる間際、急に方向転換した藤阪に、危うく事件の全貌を見られるところだった。思わず机に覆いかぶさり、テストを全部隠す。

「む、なによあんた。そんなにあたしにテスト見られるのが気に食わないわけ?」

「い、いやぁ……そういうわけじゃ……」

「なら見せなさいよ。それともなに? 他に見せられない理由があるわけ?」

 ああ、その通りだ。

 などとは口が裂けても言えず、ただ曖昧に誤魔化し笑いを浮かべることしかできない。

「あ、あはは……。ちょっと人にはとても見せられないようなアホな答えを書いてしまっていて、恥ずかしいんだ」

「いいじゃない、見せてみなさいよ。大丈夫、言いふらすから」

「全然大丈夫じゃないだろ!?」

 と、その時。

「あ、やべ。消しゴム落としちった」

「ん?」

 誰か男子生徒が机から落とした消しゴムがコロコロと床を転がり、コツンと藤阪の足下へ。

「あー、悪い藤阪。それとってくれ」

「ったく、自分で取りに来なさいよね」

 そう言いながらも消しゴムを拾おうとかがみこむ藤阪――今しかない。

 答案用紙を左手で掴み、右サイドにいる藤阪からは死角になるよう身体で防御しながら後ろを向く。そしてその机の上に置いてある他の答案の間に適当にそれを突っ込んだ。

 そこまで来たところで、消しゴムを手に収めた藤阪がゆっくりと身体を起こし始める。このままでは駄目だ、さっきと完全に同じ態勢に――!

「はい、いくわよ」

「おっと、悪い。サンキュ」

「さて、……って、なんであんた息上がってるの?」

「き、気のせい、だ」

 少し不審がられたようだが、バレてはいない。

 あとはこのまま藤阪がもう一度答案を確認し、英語の答案が出てきたところで『なんだ、ちゃんと探してなかっただけじゃないか』とか何とか言って軽くからかってやれば、この事件は幕を下ろす。完璧だ。

「んん……?」

 そして待つこと数秒、後ろから怪訝な声が聞こえる。どうやら答案を見つけたらしい。

「なんだ藤阪、英語の答案でも見つけたか? 最初から探してなかっただけじゃないだろうな? まったく、人を疑う前にまずは自分を――」

 そこまで言ったところで俺は思考を中断する。身体は丁度、真後ろの席を向いたところだった。

 俺の計画は完璧だった。藤阪だって、『あれ、おかしいわねぇ……?』なんて言いながらも納得していたのだ。

「……そうね、答案用紙なら見つけたわよ。ただし、『なぜか』あたしのじゃなかったけど」

『一学期期末試験 英語  3−D 21番 88点』

 そこに刻み込まれた文字は、明らかに俺が数日前答案用紙に書き込んだものであり。

「……なんでこんなところからあんたの答案が出てくるのかしらねぇ……? 不思議なこともあるものねぇ……?」

「あ……あは……は……」

 つまるところ、俺の机の一番上に置いてある答案は明らかに他のものと筆跡が違うのであり。

「……なんであんたの机にあたしの答案があるのかしらねぇ……?」

「…………」

 

 

 判決。

 昼飯おごり(3週間)。

葵「あ、そうそう。あんた結局どうだったのよ? いつもなら『いや〜今回も危なかったわ』とか言いながら結果を見せ合いに来るのに」

響「…………点」

葵「……え? 何点?」

響「……赤点。ついでに言うと補習。2週間」

葵「……ま、がんばんなさい」

響「ちくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



完全犯罪は成立しないのである、という第124話(嘘)。


というわけで、終業式です。1学期の。

なんというかまぁ、まだ7月の話をやっているのかよ、といった感じなのですが、ご容赦ください。


そしてそして、どうにも止まらない忙しさ。

次回更新がいつになるか分かりませんが、なんとか今週中には……!!


で、ではでは、次回をお楽しみに〜!

……自分が4人くらいいれば……

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