第122話:厄神様はかく罰せり
どうもこんにちは、ガラスの靴です。
そろそろ大学が始まる時期になってきました。
もうこれ以上いじめないでって感じです。
さて、最後の朝に、ちょっとした騒動。
第122話を、どうぞー。
朝、爽やかな目覚め。
人間はやはり自然な目覚めが一番健康的だと再認識したところで目を開ける。
「あ、センパイ。おはよーございます」
「…………」
……脳が視覚情報を受け取り、解析を終了する。続いて最優先になすべき行動をシュミレーション。実行に移す。
「なん――!?」
「――おぉっとセンパイ。叫ぼうとしたって無駄です。昨日も昨日で夜中にどっか抜け出しちゃうし、こうなったらもう強攻手段に出たって文句は言えないですよねー」
ありまくりだこの野郎。
しかし、身動きもろくに取れない上に、口を塞がれて叫ぶことも出来なくなったこの状態でどうすれば逃げられるだろうか。
「さて、まぁ時間もあんまりないですし、ここからどうしてくれましょーかねー?」
どうもせんでいい。とっとと離せ。このままだと――
「まったく、いつまで寝てんのよ。い、いい加減起きないと布団ひっぺがすわよ! い、いいわね! ほら、起きなさ――」
――バサッ!!
……さて、ここで問題だ。
ここから惨劇を回避するためには、どう行動すべきだろうか。
1.たたかう
2.にげる
3.いいわけする
「イヤ待て実は俺も起きたらこんな状態で訳が分からないんだ話ならとりあえず辻から――」
「ふざけんなあぁぁぁ!!」
……いや、何を選んでも無駄だったと諦めよう。
――カチャカチャ。
「…………」
「い、いやー、朝飯が美味い! な、藤阪?」
「…………」
朝食の時間。
一言も言葉を発しない藤阪になんとか会話を持ちかけようとする桜乃の努力が痛い。
「……なんじゃ? なんでだれもしゃべらんのじゃ?」
「心配はない。原因は既に明確だ」
死神がこちらを見ながら玉藻に答える。
「……どうも、あそこで柱にくくりつけられている狭山さんがこの事態の一端を担っている気がします」
「舞君、人は誰しも欲望の虜になってしまうことがあるのだよ!」
殺すぞ。
で、俺を柱に縛りつけた張本人はというと、
「…………」
無言で怒りオーラを振り撒きながら朝食を機械的に口へ運ぶ作業を続けている。
「藤阪センパーイ? ご飯はもっと楽しく賑やかに食べるものですよー?」
「……そうね、朝からあんな害のある光景さえ見なければもっと穏やかな朝食をとれたかもしれないわね」
だから俺のせいじゃないだろ。
そう俺は頑なに主張しているわけだが。
「……狭山くん、最低ね」
「正直、狭山がそのようなことをする人間だとは思わなかったぞ」
「はぁ……」
――とまぁ、何故か女性陣からは非難の嵐。ドレフュス大尉も苦悩したであろうこの状況で、俺に救世主は現れるのであろうか。つーか小夜、溜息ばっかついてないでせめてなんか言ってくれ。
「不甲斐ないな。それでも私の息子か」
少なくとも肉親の援助は期待できないらしい。何に対して不甲斐ないと感じているかは訊かないことにしよう。
「……ナオキは、ごはん食べないの?」
「久し振りに会った第一声がその空気読めない発言かい」
ネーベル(昼)が不思議そうに尋ねてくる。この食卓に流れる気まずい雰囲気を少しでも察して欲しかった。みろ、そのせいで藤阪のこめかみにピクリと怒りマークが。
「誰のせいでこの空気になってると思ってるわけ?」
「すみませんでした」
原因は俺でした。
「喋っていいとは言ってないわ」
「ひでぇ!?」
どこの鬼軍曹だお前は。
「……それで、ナオキはごはん食べないの?」
頼むからそっとしておいてくださいネーベルさん。もうこれ以上は色々と挫けそうです。
「てゆーか、柱に括り付けられてる時点で食べられるわけないじゃん。バカじゃないの?」
「なるほど。コノハは頭がいいの」
「……ねぇ、ボク、こんなのにやられたわけ? 泣けてくるんだけど」
気持ちは分かるぞ天狗。
ちなみに『コノハ(木葉)』というのがこいつの名前らしい。別に『天狗』でもよかったのだが、それだと色々とすわりが悪い、と藤阪たち一般ピープル勢の主張により、名前はなんというのか尋ねてみたところ、
――……別に、なんだっていいじゃん。
――じゃあ『まめ太郎』って呼ぶわ。
――なにそれ!? もはやイジメに発展してもおかしくないよ!?
――それが嫌なら名前を教えなさい。
――……木葉。
――それだけ? 下の名前は? それともそれが名前なのかしら?
――どっちだっていいでしょ。とにかく、これで文句ない?
という訳で、めでたく名前も披露されたわけで、ようやくスッキリしたのである。
……誰がスッキリしたんだ? 俺は別にどうでもよかったが。まぁいいか。
で。
「……じゃあ、わたしが食べさせてあげるの」
「お前はそろそろ空気を読むと言うことを覚えても……は?」
「だから、わたしが食べさせてあげるの」
俺の耳がいかれた訳ではないらしい。その証拠に、他の皆も目が点になっている。
「大丈夫。私もよく家で食べさせてもらってたの。今度は私が頑張る番」
「その頑張りはもっと他にとっとけぇーーー!!」
「……ある意味、ネーベルのおかげで助かった……」
「朝から難儀だな」
結局、「そんなことさせるくらいなら」と藤阪もしぶしぶ俺を解放してくれた。あのままだと朝食どころか旅館に置いてきぼりにされそうだったからな。危なかった。
「さて諸君!」
皆の食事が一段落したところで神楽が話を始める。
「様々な思い出の詰まった今回の旅行も、今日で最終日を迎える! 10時にここを出る予定なので、それまで各自荷物をまとめるなり外を散策するなり、自由に過ごしてくれたまえ!」
「リーダーのように語ってるが、お前は途中からの乱入者だったよな?」
「直樹氏、過去ばかり見ていては前には進めないのだよ!」
「少しは直視しろ」
まぁ、俺とて異存があるわけではない。あと1時間とちょっと、自由に過ごさせてもらおう。
「さて、どうしようかしらね?」
「私はもう荷物もまとめ終わった」
「私も、特にやらなければいけないことはないはずね」
「それじゃ、皆で温泉でも行きませんかー?」
「それもいいかもね。舞はどうするの?」
「先に入っていてください。……小夜さん、憑依りますか?」
「え? いいんですか?」
「構いません。ゆっくり疲れを取ってください」
ぞろぞろと部屋を出て行く藤阪たちと、それに遅れて歩いていく小夜イン市原。なんだか、いつの間にか随分と仲良くなったな。
「なぁなぁ、狭山」
「どうした桜乃」
女性陣がどこかへ行ってしまったあと、桜乃が急に小声で話しかけてきた。
「オレたちも温泉に入らねぇか?」
「朝風呂か? 今からだとあんまりゆっくりできないんじゃないか?」
「バカお前、考えてみろ。これが最後のチャンスなんだよ!」
……何のチャンスかは、変態色に染まった馬鹿の顔を見てなんとなく察しがついた。
「行かない」
「えぇ!? なんでだよ!? オレとお前の仲だろ!?」
「そんな変態的な友達を作った覚えはない」
「頼むよう! こんなに気が置ける友達なんてお前くらいしかいないんだよう!」
「俺達、ものすごく仲悪かったんだな」
そんな押し問答を繰り広げていると。
「ふむ、話は聞かせてもらったよ!」
「忘れられては困るな。俺達という……戦友を」
「心配することはない。今回はこの私も参加する、失敗などありえんさ」
「正直このタイミングで会話に加わって欲しくはなかった!!」
馬鹿どもがわらわらと群がってきた。特に三番目、帰れ。
「なになに? なんの話? ボクも混ぜてよ」
「お前はもう山に帰れよ! なんでここで乗ってくんだよ!」
「ふむ、丁度いいところに木葉君。君のその素晴らしい戦力が是非とも必要なのだが……」
「へーぇ、なかなかいいところに目をつけるじゃん。ま、協力してあげてもいいよ」
「せめて話を聞いてから承諾しろぉぉぉぉ!!」
「そういうわけだ」
「ま、観念しろ」
「嫌だあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
1対4は無理だった。
「――さて、今度の罰は何がいいかしら? 全員このまま山の中に放り捨てておきましょうか?」
「さんせーでーす!」
「……学習しないわね、貴方たち……」
「い、陰謀だ! ちくしょーあいつら、風呂場についてから妙に協力的になったと思ったら、オレ達だけ残して逃げやがった!!」
「おのれ直樹め! 息子は父の盾となるもの……い、痛い! 痛い! すみませんでした!」
「うわーん!! なんでボクまでーーー!?」
「さて、帰るとしよう」
「うむ! ここにいても面倒なことになりそうだからね!」
「……ま、せいぜい頑張れ」
そんな話。
響「テメェらマジで覚えとけよこんちくしょおぉぉぉ!!」
葵「辞世の句は詠み終えたかしら?」
直「……ふっ」
小「な、なんだか、直樹さんがひどくやさぐれてます!」
というわけで、罰されたのは直樹だけじゃなかった今回の話。
あそこから直樹も、といういつもの流れでも良かったのですが、上手いこと逃げられた、みたいな?
まぁ、今回で温泉編はほぼ終了。
次回で帰りのシーンを挟んで完結となります。
ではでは、次回までどうかお付き合いくださいー!
……なんか、最終回の1話前みたいなあとがきだ。