第118話:厄神様はかく介抱し
どうもこんにちは、ガラスの靴です!
今日は朝から夜までバイトなので、いっそのことということで朝に更新してみました。
鬱陶しいバトル編も終わり、いつも通りの気の抜けた話です。
では、どうぞー!
「…………ん…………」
暗転していた意識がゆっくりと戻ってくる感覚。
ふと後頭部に心地良い冷たさを感じ、それと同時に体全体が軋み――
「――っあだだだだだだだだだぁぁぁ!?」
「だ、大丈夫か狭山!?」
……やっぱり慣れない決闘なんてするもんじゃないなあこん畜生。
「まったく……、驚かせるな」
「いや……悪い……、まさかこんなに怪我してたとは……」
痛みという最悪の目覚ましで覚醒した俺がいるのは、どうやら旅館の一室のようだった。後頭部には氷嚢、枕元には碧海が座っていた。
「今何時くらいだ?」
「8時だ」
……はちじ?
窓を見てみると、暗かった。
「……俺が天狗と決闘したのって何時くらいだったっけ?」
「2時頃だ」
「ずっと寝てたのか?」
「その通りだ」
「お前は?」
……おい、なぜそこで顔をそらす。
「と、とにかく、天狗には相応の制裁をしておいた! 大丈夫だ!」
「…………」
いやまぁ、気にしないようにしようか。俺が寝ている間の空白の時間も、天狗の成れの果ても。
と、その時。
――ヒュルルルルル……パァーーン!!
「お」
外から花火の音が聞こえた。そういえば桜乃が花火セットを大量購入していたな。
「碧海、俺はもういいから、行ってきたらどうだ?」
「だ、大丈夫だ。こうして花火の音を聞いているだけでも楽しいし、それに……その……こうしている方が――」
――パパパパァーーーン!!
「…………? スマン、花火の音とかぶってよく聞こえなかったんだけど、なんて?」
「……っ、な、なんでもない! 忘れてくれ!」
よく分からない奴だ。『忘れてくれ』って、そもそも聞こえなかったんだが。
だが実際、碧海の言うことも分からなくはない。花火は当事者としても楽しいが、こうして音を聞いているだけでも風流だろう。耳をすますと、藤阪たちの楽しげな声が聞こえてくるようだ。
「はい次、2番藤阪葵! 『ロケット花火で狙撃』いきます!」
「いやあぁぁぁぁぁぁゴメンナサイ許してえぇぇぇぇぇぇ!!!! この縄解いてお願いだからぁぁぁぁぁぁ!!!!」
…………。
「なぁ、碧海、今の天狗の声――」
「ふ、風流だな!」
「……いや、今なんか天狗の悲鳴みたいな――」
「き、きっと虫の声だ!」
あんな鳴き声の虫がいたら直ちに殺虫剤を撒き散らしてるな。
……まぁ、別にいいか。天狗がどうなろうと知ったことじゃない。
「はーい! 次3番辻満月! 『ネズミ花火ピアス』いきまーす!」
「なんでオレまで縛り付けられてんのコレっていうか辻ちゃんそれはマジでやばいからぁぁぁぁぁぁ!!!!」
……まぁ、別にいいか。馬鹿がどうなろうと知ったことじゃない。
「……今、随分と冷酷な思考をしていなかったか?」
「忘れた」
どちらかといえば1番が誰だったのか激しく気になるところだが、怖いので聞かないでおこう。
「……それにしても」
「ん? なんだ」
碧海が俺の体を見ながら溜息をつく。
「どうしてこんなになってまで天狗と闘うなどと言い出したんだ……」
「……まぁ、いろいろあって」
闘ってる途中にぐるぐる考えてた気がするが、結局忘れてしまった。
「……とにかく、これからこんな危険なことはするな。私に任せておけ」
「だからそれをやめいというに」
布団から手を出して碧海の額をポカリと叩く。
「……何故だ」
少し、いやかなりムッとした顔で碧海が言う。
「退魔士っていったって、お前はお前なんだ。危ないこと全部お前に任せるようなことできるか」
結局は、そういうことなのだろう。
自分でも整理できていないが、要は碧海が危ない目に遭っているのを黙ってみていられるような性格はしていない、ということなのかもしれない。
「……しかし、だからといってお前が闘えばいいということではないだろう」
それもそうだが。
「……本当に、心配したんだぞ……」
「お、おい!? ちょっと!?」
「途中で、何度お前を行かせてしまった自分を呪ったことか……」
「い、いやでも大丈夫だったし……」
「私は……本当に……」
突然、碧海が俯く。これは正直言ってかなり居心地が悪い。
どうにかこうにか宥めようとするが、何を言っても効果は薄そうだった。
「…………うりゃ」
「っひゃあ!?」
言って駄目ならやってみる。
とりあえず後頭部を冷やしていた氷嚢を碧海に放り投げてみた。
「……やってくれたな……」
笑顔の先がひくついてるぞ。
「っだぁ!? 冷たい冷たい!!」
すると碧海はいきなりその氷嚢を俺の額に押し付けてきた。冷たい通り越して痛いわ。
「……このっ……!!」
「……やあっ、やめっ!?」
その氷嚢を手にとって碧海のつま先に乗せてやる。文字通り飛び上がった碧海は何を思ったかいきなり布団を引っぺがし、
「……これでどうだっ!」
「――っぎゃはああああああ!?」
俺のシャツの内側に氷嚢を突っ込んできた!
「はぁ……はぁ……、思い知ったか!」
「死ぬかと思ったわ!」
元はといえばこちらが悪いんだが。
「というかお前、いくらなんでもシャツの中まで入れるなよ!」
「…………?」
俺が心の叫びを言うと、碧海は暫く言っていることが理解できないかのように行動停止した。
「……お? もしもし? 碧海?」
「…………っっっ!?」
途端、顔を真っ赤にしてそっぽを向きだした。いやその反応はおかしいだろお前。
「す、すすすすすま、すまない! つ、ついむ、夢中になって、なってしまって……!」
「あ、いや、まぁ、別にいいんだけど……」
恥ずかしいのはこっちだぞお前。寝た直後だから汗かいてたし……。
「〜〜〜〜っ!! すまない!! 私はちょっと席を立つ!!」
「っておい逃げんな! ってうわ!?」
「――きゃあっ!?」
立ち上がろうとする碧海に思わず腕を掴むと、バランスを崩した碧海はそのまま倒れこんできた。
「――直樹さん、今声がしましたけど、もしかして意識が戻られ…………」
……世界が、時を止めた。
「…………なおきさん?」
「…………ハイ…………ナンデショウカ…………?」
底冷えするかのような小夜の迫力に、思わず片言になってしまう。だが待て、よく考えたらこれは不可抗力であって決して故意ではないのだから、やましいことなどない筈――
「いつまでそうしているつもりですか?」
「はいすいませんでしたぁっ!!」
電光石火で飛び起きる。って碧海、お前もいい加減俺の上から動いてくれいや本当に頼むから。
「あ、あぁ! す、すまない!!」
そうしてお互い微妙に距離をとる。こうして3人の間に謎の空間が生まれた。
「……直樹さん、何か言うことはありますか?」
「え、えー……本日はお日柄もよく――」
――ビッタァァァァァン!!
小夜が投げた氷嚢が俺の顔面を直撃、ついでに弾けて中の氷水が全身に飛び散った。お前コレなんで持てるんだよ。
「最っ低です!!」
そのまま怒って帰ってしまった小夜。あとにはオロオロする碧海と氷水が滴るアホ(俺)が残された。
「……え、えっと……狭山……?」
「……もう、こおりごりだ、なんつって……」
「…………」
あ、碧海も帰った。
響「…………」
葵「…………」
直「…………ふ、ふと頭に浮かんでしまったもんはしょうがないだろ!!」
響&葵「…………」
直「や、やめろ! 俺をそんな目で見るなあぁぁぁぁ!?」
そんな時ってありますよね。
というわけで、久しぶりな雰囲気の漂う今回のお話、いかがだったでしょうか?
最後のしょーもないオチを除けば、今まで以上に力の抜けた話で作者的には気に入っております。
途中で少し暴走した感は否めませんが。
ではでは、次回をお楽しみに〜!