第114話:厄神様はかく闘い
東京からこんにちは、ガラスの靴です。
合宿から帰ってまいりました。
えらく疲れましたが楽しかったです。
とりあえず本編をどうぞ。
「直樹さん!」
俺が林に入ってすぐ、小夜も追いついてきた。2人で碧海を追うが、既にどこへ行ったか分からない。少しくらい手加減してくれてもいいんだぞ。
「い、いませんね……」
「草の根分けても探すぞ」
今回の碧海は確実に放っておいてはまずい。そんな気がする。
だが、そもそも見つからないのでは話にならない。俺達はひとまず手分けして碧海を探すことにした。
「……碧海……?」
探し物というのは分からないもので、いくら探しても見つからないと思って替えの品を買ったその夜に転がり出てきたりするものだ。
俺と小夜が手分けして探そうと決めたその数分後、俺はあっさりと尋ね人を発見した。
「碧海!」
「……狭山か?」
何を考えているかは知らないが、こんな林にいてもいいことはないだろ。早いところ帰ろう。
「それは出来ない」
「なんでだ」
「……私は……自分がわからない」
天狗と決闘になりそうだから、なんて単純な答えを期待していたのだが、返ってきたのは予想通り反応に窮するものだった。
「自分って、お前は碧海凛だろ」
「もちろんだ。他の誰にもそれは譲れない」
問題はもっと別の場所にある、ということか。
「……私は、退魔士として生きてきた。幼少から父と共に人知れず魔を祓い、人々のためを思って行動していた筈だった」
退魔士と簡単に言っても、そこには想像を絶する厳しさがあるのだろう。
「だが、お前たちと出会ってから……いや、正確には小夜と初めて会った日から、退魔士としてどうするべきか、自信が持てなくなった。……それも違うか、退魔士としてすべきことははっきりしていた」
幽霊に死神に妖狐か。確かに世間としてはいて欲しくない連中ばかりだな。
「……しかし、退魔士としての判断に、どうしても体が従えなかった。思考のどこかで、小夜たちと共に過ごす日々を望んでしまっていた」
「……碧海、それは」
「分かっている。あってはならないことだ。退魔士として生まれたからには、確実に人を守るためだけに行動しなければならない」
……違う。
「……それでも、私は手を下すことが出来なかった。さっき天狗に言われて初めて気付いたよ、自分がどうしようもなく弱い存在だと」
違う。
「私は自分を許せない。人を守る退魔士として、……そして、碧海凛として――」
「――碧海、お前は1つ重要なことを見落としている」
「……なに?」
お前は確かに退魔士だ。それは認める。けどな、それだけじゃないだろ?
「俺は、退魔士と友達になったつもりはない。碧海凛っていう、えらく頼りになる奴と友達になったんだ」
お前は退魔士である以前に、碧海凛という一人の人間だ。
「だからこの際、はっきり言わせてもらう。お前が退魔士だってのは俺には関係ないことだ」
「……し、しかし……!」
「俺が守るべき一般市民だからお前は守ってくれてるのか? そんな理由だったら俺はお断りだ。こういうことを言うのは自意識過剰だって分かってるが、あえて言うぞ。俺は、碧海凛が傍にいるから安心して無茶できるんだ」
町の馬鹿どもに社会常識を説くときも、幽霊や死神や妖怪と一緒に暮らすことを決めたときも。
だから、
「俺が天狗を叩きのめしてやる」
「……無茶を言うな! 自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
さて、自分でも何を言ってるかよく分からなくなってきたってのが本当のところだ。
「……な……?」
「ただ、俺はこう見えても友達を赤の他人に馬鹿にされて黙ってられないんだ」
「ば、馬鹿げている! 相手は妖怪だぞ!」
それがどうした。
「俺は果たして妖怪に喧嘩を売るのか、ムカつく奴に喧嘩を売るのか。それは始まってみないと分からないだろ?」
「…………」
碧海は暫く俺を説得する言葉を探していたようだったが、やがて力なくうつむいた。
「……『痛い』で済む保証はないぞ」
「だろうな」
「……死ぬかも、しれないんだぞ……?」
「そうしたら仇でもとってくれ」
「……私は、お前に……」
心配するな。
「俺が勝ったら、ひとつだけ言うことを聞いてくれるって約束してくれ」
「……どういうことだ?」
いいから、約束。
「……あ、ああ……」
「……よし、大丈夫だ。これでもう負けない」
「…………?」
そして。
「……ねぇ、冗談で済ませていいのはここまでだよ。これ以上こんなばかげたことを続けるつもりなら、死んでも文句は言えないからね」
「望むところだ」
「……ふむ、両者とも準備はよいかね!? では、バトルスタート!!」
決闘が、始まった。
葵「……なにコレ」
直「…………ちょっとした出来心」
響「嘘吐け」
うーん……?
宣言どおりかなり微妙な流れになってしまったのですが、如何でしたでしょうか……
微妙に直樹に言わせたかったのは違うニュアンスだった気もするのですが、自分でも上手く言葉にまとまらなかったという不甲斐無さ。
しかもバトル小説感を全開で立てつつ次回へ引っ張るこの死亡フラグ満載な終わり方ですが、どうか生暖かく見守ってください。
本当にお願いします……!!
ではではー……