第113話:厄神様はかく撤去し
新潟からこんにちは、ガラスの靴です。
ただいま絶賛合宿中でございます。
まぁ読者様にとってはそんな話は興味がないこと山の如しだと思われるので、さっさと本編にいきましょう。
では、どうぞー。
「あ、これこれ」
天狗がやって来たのは昨晩の幽霊が現れた場所からやや離れた林の端。ちょうど俺と藤阪がいたトイレの所まで一直線に見ることができる。
「なによこれ」
「えーと……アレだな、ピッチングマシーン」
「どうしてこんなものがあるんでしょうか……?」
「私に尋ねられても困る」
そこにあったのはどう見てもバッティングセンターにあるような機械だった。確かに、なんでこんなものがあるのやら。
「なに? これが何かもわからないの? バカじゃない?」
「凛。壊しなさい」
「いいだろう」
お前ら少し頭を冷やせ。
ちなみにここにいるのは俺と天狗を除けば、藤阪、桜乃、碧海に小夜だけだ。他の連中は全員『面倒』の一言でもって旅館に残っている。
「くー! オレ、野球好きなんだよなぁ! なぁなぁ、ちょっと動かしてくんねぇ!?」
何か琴線に触れるものがあったのか、桜乃が正面に立って棒を構える。
「おいおい、危ないだろ。何が出てくるかも分からないのに」
「ボクはいいよ。動かしたげる」
天狗が機械のスイッチを入れると、電源が繋がっている様子もない機械が作動音を響かせ始めた。
「あ、あの、天狗さん! あぶないものは出てきませんよね?」
「あぁ、驚かせるための仕掛だもん。攻撃プログラムを組み込ませると誤作動も増えるし」
言っている言葉の意味はよく分からないが、とりあえず危害を加える類のものではないようだ。
「よし、いくよー!」
「バッチこーい!!」
……ま、あいつなら怪我しようが死のうが一向に構わないな。
「本当に危険ではないのだな?」
「ていうか、結局何が出てくるわけ?」
繰り返し確認する碧海に、未だ疑念を隠さない藤阪。
「あー? だからあぶないものじゃないってば」
そんな2人に対しどうでもよさげに天狗が答える。
「ただの幽霊弾だし」
――ボシュッ!
「ヒギャアァァァァァァ!!?」
……ストライク、バッターアウト。
「なにが『危険じゃない』だこのスットコドッコイ! 死ぬかと思ったわ!」
なんだ、生きてたのか。
「なんであんたがガッカリするんだよ!?」
「まあそれはさておき」
本当に、何が『危険じゃない』だ。危な過ぎるだろ。
「あっはっはっは! おかしぃーーー!! 『ヒギャアァァァァァァ!!?』だってーーー!!」
駄目だ、まるで聞いちゃいない。天狗はさっきから腹を抱えて笑い続けていた。
「ちょっとあんた、アレなんなのよ!? 野球ボールじゃなくてお、お化けみたいのが出てきたじゃない!?」
「……ヒィヒィ……、当たり前でしょ。アレはボクが特殊改造した特製の人工幽霊製造機だよ。そこらへんの草木からちょっとずつ集めた霊気で幽霊を作って、それに特殊磁場をぶつけて可視状態にしてから飛ばすんだ。あとは人間を見つけて勝手に追尾してくれて、ぶつかったりしたら衝撃で消えちゃうって寸法。どう? ボク天才でしょ?」
もう何が何やら。とりあえず努力の方向性が間違っているとだけ言っておこうか。
「そうだな。下らない機械は早く撤去してもらおう」
「……なに? ボクの発明が下らない? だったらその後ろの幽霊」
天狗に睨まれて肩をすくめる小夜。
「え……? え……?」
「そいつをこの中に詰め込んで飛ばしてやってもいい――」
――ヂャキ。
「それ以上話を続けるつもりなら、首が飛んでも文句を言う資格はないぞ」
いつ目の前に立ったか分からない。
気がつけば、碧海が天狗の正面に立ち、喉元に木刀を突き付けていた。
「……なんだよ、オマエ……!?」
「黙っていろ。それ以上口応えをすれば命はないぞ」
「……り、凛さん……?」
今までだって碧海に助けられたことは何度もあった。
だが、今回の碧海はどこか違う。
守られている筈のこちらさえゾッとするような殺気を放っている。
「……なんだよ、退魔士かよオマエ。だったらまず後ろの幽霊から先に始末すればいいじゃん。バカじゃないの?」
「…………ッ!!」
――ドサッ!
碧海が一瞬体をぶらしたかと思った瞬間、天狗の体が地面へと倒れた。
「……お、おい! 碧海!?」
「……心配はない。気絶しているだけだ」
確かに、よく見れば天狗は目を回しているだけだった。ひとまずホッと胸を撫で下ろす。
「……す、すげぇな碧海! なんだかよくわからなかったけどあっという間に倒しちまったぜ!」
「そ、そうね……。ちょっとやり過ぎかとも思ったけど、……よくよく考えればまだまだ足りないわ。このまま木に吊そうかしら」
桜乃と藤阪もとりあえず普段通りのノリで反応したが、一瞬の戸惑いと動揺は隠し切れていなかった。
「……放っておけばまた良からぬことをしでかすかもしれない。お前たちはそいつを旅館に連れて帰ってくれ」
「え……、『連れて帰ってくれ』って、お前は……?」
「……私は少し、用事がある」
そう言い残すと、碧海は木々を抜けて林の奥へ歩いていってしまった。
「お、おいおい、碧海のヤツ、どうしたんだ……?」
「……悪い、先に行っててくれ」
「って狭山お前もかよ!?」
俺も碧海のあとを追って、林の奥へ向かった。
直「そういえば、お前って玉藻前の子供じゃなかったのか?」
玉「な、なにを言うか! わらわは正真正銘の妖狐じゃ!」
響「……いや玉藻ちゃん、答えになってないから」
小「でも、初めは狐さんだったんですよね……?」
神「ハッハッハ! 妖狐の子が最初から人に化けられるとは限らないものなのだよ! そうだろう玉藻君!」
玉「わ、わらわはそんなふぬけではないわ!」
直「いや、意味わからんぞお前」
というわけで、玉藻は平安京都の玉藻前の子供です。
前回の話で玉藻はそこら辺の狐から妖狐になったと受け取ってしまったっぽい方がいたので一応。
分かり辛くてすみません……。
さて、何やら展開が怪しくなってきました今回のお話。
他にも色々怪しくなってきた感が満載ですが、それには目を瞑って次回を楽しみにして頂ければ幸いです。
ではでは〜!