第112話:厄神様はかく打ち明け
どうもこんにちは。
まさか夏休みのバイトが14時間労働だとは夢にも思っていなかったガラスの靴です。
誰だ! 夏休みになれば暇になるとか言ったヤツは!
というわけでえらく遅くなりましたが第112話をどうぞ……。
「……直樹。本気で言ってるの……?」
「ああ。本気だ」
「ここまで嘘くさい本気もないですねー……」
あそこまで天狗に言われてしまっては、もう隠しようがない。
そう判断した俺は、玉藻の正体を打ち明けることにした。
「で、でもよ、突然そんなこと言われても……」
あの単純な桜乃ですらここまで混乱しているのだ。他の3人の混乱振りは想像することさえ難しい。
「……あの、なんか今すげー失礼な想像された気がするんですけど……」
「ああ、気のせいじゃないか?」
こんなやりとりにもどこかぎこちなさが混じる。
「た、確かにどこか妙だと感じるところはあったけれど……、でも……!」
松崎が玉藻の耳と尻尾をちらりと見ながら言う。人間、どうしても今まで生きてきた価値観の中で説明をつけようとするものだ。冷静に考えればありえない耳と尻尾も、何か理由をつけて納得してきたのだろう。
「やはり、直樹さんのような人は珍しいのでしょうか」
「そのようだね! 彼らの反応こそが正常なものだと思うよ! 無論、舞君の反応とて決して一般的とは言えなかったがね!」
「神楽さんは神楽さんですから」
勝手に意味の分からない分析をしてるんじゃない。
「とりあえず、あたしは信じないわよそんなの」
「藤阪、でもな――」
「妖怪? 妖狐? まったくもって信じられないわ。だからこの話はもうおしまい」
いやおしまいってお前。
「……別に、どうだっていいじゃない。玉藻が誰だって」
「……はい?」
柄にも無く間抜けな声が出てしまった。
「あ、なるほどー」
「……そうね。そういうことなら」
「……え? え? 何の話?」
事情が飲み込めない桜乃を除いた2人が納得したように賛成する。
「藤阪、どういうことだ?」
「だーかーらー、玉藻が誰だっていいって言ってんの!」
だからその意味を訊いてるんだよ。
「センパイも頭の回転悪いですねー。仮に、ありえないことではありますけど、万に一つ」
……こいつも相当に現実思考の強い奴だったんだな。意外なようならしいような。
「玉藻さんが妖怪とやらだったとして、何か変わりますか?」
「そりゃお前……」
……何が変わるんだろうな。具体的に何かと尋ねられると言葉に詰まる。
「……そういうことね。狭山くんがどう感じているかは勝手だけれど、どちらにせよあまり結果は変わらないのだから」
「玉藻は玉藻よ。そこに異存はないでしょ?」
なんだか丸め込まれた気もするが、とりあえずこいつらが納得できればいいか。どんな論理にせよ、自然に玉藻が受け入れてもらえるなら俺は何も言うことはないだろう。
「……そう思わないと、今すぐおかしくなりそうだしね!」
あ、無理してるっぽい。
「さて! そろそろ本題に入ろうか!」
「無理矢理ですね」
「唐突にと言ってくれたまえ!」
市原の突っ込みに意味の分からない返し方をしつつ、神楽が玉藻を天狗の前に引っ張り出す。
「あ、終わったの? よくわかんないけど」
「なに、ようやくスタートラインに立っただけさ! ときに玉藻君、彼の顔に見覚えはあるかな!?」
「ないぞ」
……はい終了。
「と言ってるぞ天狗。お前の妄想もこれまでだな」
「ちょちょちょちょちょっと待ってよ! 玉藻!? ほんとに覚えてないわけ!? ねぇ!?」
天狗の態度。
玉藻の態度。
明らかに相反したものだが、そこに1つの鍵を入れてやるだけで、ひどく自然に繋がる気がした。
「……直樹さん、ひょっとして天狗さんが言っているのは……」
「そうだな。……玉藻の、母親だ」
「母親ぁ? 狭山、お前なに言ってんだ?」
そう考えれば全ての辻褄が合う。
玉藻は2人いたのだ。
1人は当然、今ここで天狗を怪しむ目つきで睨む玉藻。
そしてもう1人は、金毛白面九尾の狐、大妖怪・玉藻前。
「わらわの母上じゃと? なぜそんなことが言えるのじゃ」
「ふむ、確かに玉藻君は母君と瓜二つだったよ! もっとも、当時は違ったかもしれないがね!」
「なんであんたが知ってるのよ」
「マダムキラー、ですか……」
「な!? そ、それは違うぞ舞君!? あらぬ誤解を招く発言はやめてくれたまえ!?」
悪いがコントに付き合っている暇はない。こいつが本来知りえない情報をさも当然かのように披露するのにはもう慣れた。俺は天狗に確認をとることにした。
「お前の言っている玉藻は、こいつの母親じゃないのか?」
「……う〜ん? ……あぁ、確かによく似てはいるけど、ボクの知ってる玉藻はもう少しおしとやかだったかな……?」
「な、なんじゃと!? わらわをバカにする気か!!」
……たぶん事実だ。
「それにそれに、もうちょっと美人だったし、こう、カリスマ? みたいのがあったし、すごく強かったし、めちゃくちゃ優しかったし――」
「うがーーー!!」
「うわ、あのガキ、言いたいこと言うなぁ……」
「まあきっと事実なんでしょうけどねー。やっぱり物事はオブラートに包んで言わないと、たいてい図星をつかれた相手は怒りますからねー。それが図星だってサインなのも気付かずに」
「あんたも充分言いたいこと言ってるんじゃない」
ええい、話が進まん。
「……って、あれ? じゃあ、オマエ誰?」
「だから玉藻と言っておるじゃろうが!」
玉藻の子供だ。お前が知ってる玉藻の子供。
「……え? ってことはまさか……、あのムカつくキツネ!?」
「キツネじゃないわー! 妖狐じゃー!」
少し気になる言葉が出てきた。
「キツネ? ……というのは、どういうことでしょうか……?」
「あー、思い出したらだんだん腹立ってきた……! こいつ何かと噛み付いたり引っかいたり、ボクのこと攻撃してきたんだよ!?」
なんだ、結局昔に会ってるんじゃないか、てなことはひとまず置いておいて、噛み付くだの引っかくだの、どうにも嫌な予感しかしない。
「……ま、まさか、玉藻さん、昔は……」
「そうだよ! 完全に思い出した! オマエ昔はただのキツネだったろ!!」
やっぱりな。
「……藤阪葵。今の話はどのように解釈するのか聞きたいところだな」
「ふふふ……空耳よ空耳……」
やっぱり信じろという方が無理な話か。だがこの際藤阪たち一般ピープル勢には構ってられん。
「わらわがただのキツネじゃとー!? おのれ、愚弄しおって! もう許せんぞ!」
「た、玉藻さん、落ち着いてくださいー!?」
猫が猫又になるようなものか? まぁ何にせよ、なんでただのキツネがこんな姿になれるのか、そのへんを訊かせてもらおう。
「そんなこと訊かれても知らないよ。どうせ玉藻がなにかやったんじゃないの? アイツ、妖術のスペシャリストだったし」
「ほう」
そこで何故かピクリと反応する死神。お前はなんでそう物騒な方面の単語にしか興味を示さないんだよ。
「何を言う。健全な言葉にも興味はある。例えばグリム童話――」
「健全か? あれ」
俺には残虐なイメージしかないんだが。
「まぁそのようなことはどうでもいい。天狗、妖術と言ったな? それはどのようなものだ」
「どのようなもの、って……。炎出したり、姿を消したり……」
なるほど、妖術って言葉のイメージ通りだな。
「よし。ならば玉藻も習得できるということだな?」
何故か不意に俺の家が火ダルマになっている映像が浮かんだ。
……絶対にやめさせよう。
「ちょっと! あんたたちそんなことばっか話してるんじゃないわよ!」
「結局、何の目的でこんな風に監禁してるんでしたっけ?」
「あ」
本来の目的を忘れるところだった。藤阪が天狗の前に立つ。
「……あんた、この旅館に変なイタズラしかけたりしてないわよね?」
「ああ、あの幽霊? 自信作だったんだよねー。なに、もしかしてお姉さんも引っ掛かったの?」
「…………」
「〜〜〜〜っっっ!?」
藤阪さんや、無言で頬を力の限り引っ張るのは止めてやれ。ただでさえ抵抗できないんだから
「ていうか、結局ただの作り物だってことか? なんだ、じゃあ狭山と藤阪がイタズラに引っ掛かっただけ――げふぅ!?」
「黙りなさい」
藤阪はなおも天狗を尋問する。
「で? 当然それはもう撤去してあるんでしょうね?」
「はぁ!? なに言ってんの!? 折角の自信作を外すわけないじゃん! バカじゃないの――いだだだだだだ!?」
「被告人は与えられた質問にだけ答えていれば結構」
怖い……。
「流石に尋問が様になってますねー……」
「恥だわ……」
辻と松崎が異なる感想を口にする。まぁどっちも分からなくはない。
「よし! ではこうしよう! 君がその幽霊の仕掛けを外してくれれば、我々はもう君に干渉しないよ!」
「おいおいおい神楽、お前なに勝手に決めてんだよ。オレたちが頑張って捕まえた意味がねーじゃん」
俺は賛成だ。というかこれ以上この天狗をこのパーティーと接触させていたらお互いによくない気がする。
「よし、じゃ善は急げね。行くわよ」
「ま、待て、ボクはまだ行くなんて一言も……うわあぁぁぁぁ!!」
……結局、日本の妖怪だったか。
「だからわらわを見るな」
天「妖怪をバカにするなー!!」
玉「そうじゃそうじゃ! だいたい、お主とて妖怪じゃろうが!!」
ネ「……なんだ、私のことか? 貴様らと一緒にするな」
天「なんなのコイツ!? すっごいムカつくんだけど!?」
響「……いやまぁ、オレらにしてみたらお前のほうがムカつくからさ」
というわけで続きモノな第112話でした。
とりあえず次回からは微妙に苦手分野に突入する可能性大なので、ちゃちゃっと終わらせてしまおうかと思います。
なので読者様はもう暫くご辛抱ください。
ではではー……。