第109話:厄神様はかく出動し
どうも皆さんこんにちは! ガラスの靴です
世間ではそろそろ夏休みですね。皆様は夏休みのご予定は決まりましたか?
自分は先の見えない真っ暗なトロッコに乗っている気分です。
それはそうと、とうとう現実時間が作中時間に追いつこうとしています。
今日は松崎さんの誕生日。おめでとう部長。
こんなランナーズハイ的なテンションでお送りする第109話、どうぞー!!
「おい狭山! なんでオレたちこんな山奥に来てるんだよ!?」
「そうだ直樹。ここは車の通る道から若干近い。押し倒すならもう少し奥――」
「一辺死んでこいーーー!!」
何故、旅館に出る幽霊を退治する筈の俺達が山に来ているのか。
それを説明するためには、時間を遡って見てみる必要がある。
………
……
…
「……誰か、宿泊代を持ってきた奴」
「持ってくるわけないじゃない。タダって聞いたのよ?」
「ましてそれがそのような大金となればな」
結論として、俺達の誰一人として3万などという金を持って来た奴はいなかった。
「お、女将さん、僕らにはそんな金額を払える経済力はないのだが……」
「それは困りました」
「そ、そうだろう! だからここはひとつ、出来る限りの努力はするから――」
「――ですので、どうかあの幽霊を退治してくださいね?」
「……なんだか急に女将さんへの認識を改めなければいけない気がしてきましたねー……」
奇遇だな、俺もだ。
俺と辻の意見が一致したところで、食堂に入ってきた人間がいた。
「やれやれ、酷い目に遭った。ネーベルさん、悪戯にしたって度が過ぎるよ」
「父さん!」
傷だらけで、木に吊される前にボコボコにされていたのは明らかであった父さんだが、今はそんな姿も輝いて見える。
「ん? どうした直樹。何かあったのか?」
「父さん、宿泊代が必要になったんだ。3万5千円×12人分出してくれ」
そうだ、確かに俺達にそんな経済力はない。だが父さんは社会人だ、その位の金はなんとかなるだろう。
「ないぞ」
「よし、それじゃ皆、とりあえず俺の父親が出してくれるから……って、ない?」
「ない。元々我が家の財政は母さんが管理してるし、俺の金を誰が男なんかのために使うというんだ。そうだな、藤阪さんや碧海さんたちの分は俺が出すから、男は皿洗いでも何でもして払いなさい」
最低な人間だ。
「あ、それいいわね。それじゃ直樹、頑張って」
「ふざけんな! お前は幽霊見てるだろ! 手伝えよ!」
「そうですね……。狭山様に断られては、この旅館ももう……」
「だぁーーー、分かりました! やりますよ!」
どうやら女将さんは本気で俺達に幽霊退治をやらせる気らしく、もう何を言っても通じそうにはなかった。
「小夜、同じ幽霊同士だ、お前が行って来い」
「ぜったいに嫌ですっ!!」
試しにけしかけようとしてみたが、涙目で拒絶された。そこまで怖がることじゃないだろ。
「……ネーベル、お前は確かさっき『幽霊もどき』と言ったな。どういうことだ?」
観念したのか、或いは最初からそのつもりだったのか、碧海が普段と変わらない口調でネーベルに問いかける。
「なんだい、あんな近くで見ていてそんなことにも気付かなかったのか?」
「…………」
ということはやはり昨日のクナイ手裏剣は碧海だったか、などと納得している場合ではない。懐に手をやった碧海を慌てて止める。
「ネーベル、もしかして夜に現れたアレは幽霊じゃないのか?」
「当たり前だ。波長が違う。あれは作り物だね」
あれは作り物だったのか。
「……ってことは人間の仕業だったのか、アレは?」
「それは違う」
俺の考えを碧海が否定した。
「昨日の幽霊には妖気が感じられた。恐らくは他の妖怪が作った、という意味だろう」
もしそうだとしたら、わざわざそんなことをしているそいつの目的は何なのやら。
「女将。何か知っているのではないか?」
死神が女将さんに尋ねる。いや、尋ねるというよりそれはほぼ確認に近かった。
「……はい。皆さまのお考えの通りでございます」
女将さんも、隠すつもりはないのだろう、話を始めた。
「元々この山々は私の祖先の土地だったのですが、明治初期に開放したもので、今では麓の村に数多くの方が住んでいます。ところが数年前から、私どものところへ奇妙な噂が届くようになりました」
そして、自分にも言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「――『天狗を見た』と……」
「天狗……」
かの牛若丸に剣術を教授したのも天狗だという説がある。妖怪としてはあまりにも有名だった。
「……で、その天狗を、退治しろっていうの?」
「お願いします」
藤阪はそれを聞いて呆れたように息をつくと、すっくと立ち上がった。
「バカバカしい。そんなの探したって出てくるわけないじゃない。あたしは遠慮しとくわ」
「信じていらっしゃらないのですか?」
当たり前でしょ、と部屋に戻ろうとする。
「……信じていらっしゃらないのならどうということはないでしょうが、天狗はひどく執念深いと聞きます。昨晩の悪戯に失敗したその対象があなただと知れば、どんな恐ろしい仕返しを用意するかわかりませんねぇ……」
「…………」
女将さんの口撃が効いたようだ。藤阪の動きがピタリと止まる。
「いえ、それどころかあなたの家まで――」
――バァン!!
食堂の扉が思い切り開け放たれる。
「……行くわよ」
「は? なんだって?」
「……行くわよ、全員。早く準備しなさい」
こちらを振り向きもせず低い声で宣言する。
「もうこうなったら誰だっていいわ。あたしにあんな馬鹿な真似をした奴には全員、骨の髄まで後悔と絶望を叩き込んであげる」
「……あ、あの、藤阪さん……?」
「あんたたちもさっさと準備しなさい」
……かしこまりました。
そして藤阪が部屋へと消えてから5秒後、
「――あんたはいつまで寝てんのよ! 殺されたくなかったら7秒で支度しなさい!」
「あぎゃああああああ!?」
呑気に寝ていた桜乃の絶叫が響き渡った。
………
……
…
「……思い出したぜ、安らかな睡眠を楽しんでいた俺を襲った悪夢を……」
「運が悪かったんだろうな」
陣頭で指揮をとる藤阪を遠くから見つめる。
「黄泉と玉藻とお父さんがA班、南を探しなさい。凛と満月と静流がB班、北東を捜索。ネーベルと響と舞はC班、西側を探して。龍一とあたしと直樹はここで各班に指示を出すわ」
普段の部活の時もあれくらいの指示能力を発揮してほしいと思ったのは秘密だ。
「あのー、藤阪センパーイ。ほんとにやるんですかー?」
「ええ。これは闘いよ。己の誇りをかけたね」
「誇りがかかってるのは藤阪センパイだけじゃないですか。ていうか圏外なのにどーやって指示を出すんですか?」
唯一心配なのはその他の一般人だが、単なるレクリエーションだと思ってくれていることを期待しよう。
「気合よ気合。それでは各班、捜索開始!! 狙うは目標の捕縛、射殺も許可!!」
「「お、おぉー!!」」
殺してどうする。
「本当に天狗がいるんでしょうか……?」
さあな。幽霊に死神に妖狐に吸血鬼がいるんだ、今さら天狗が増えたところで驚きはしないさ。
「辻や松崎のことを考えると、出てきてもらわないほうが好都合なんだが。神楽、どうなんだ?」
「ふむ、僕としては彼女らに見せるのも楽しいと思うよ! 玉藻君も他と変わらない接し方をされているしね!」
アレは耳と尻尾をつけた、なんて苦し過ぎる言い訳をしてるからだろ。
「そこ! ちゃんと探しなさい!」
分かってるわ。天狗の行動を予想しているんだよ。
「まあどちらにせよ、ここまで本格的に捜索されているのが分かっている以上、余程の短絡思考でない限り隠れ――」
「わはははは!! たかが人間がこの程度の規模でボクを捕まえようだなんて、甘すぎるよ!!」
……どうも日本には、短絡思考の妖怪が多いようだ。
ネ「なんだいこれ。全然進んでないじゃないか」
直「説明しないでガンガン飛ばしても意味ないだろ」
?「そうだよ! ホントならボクが大活躍の予定だったのに!」
葵「名前も出てきてないのがでしゃばるな!」
というわけで前回のちょっと補足&新キャラ登場でした。
天狗を出す、ということは前々から決めており、実は他にもいるので勘のいい人は何が出るかお気づきになるかもしれません。
やたら強そうに出てきてますが、まぁこの作品の方向性からして在来種の強さは予想できると思います。
ではでは、続きが気になるこの展開!
次週をお楽しみに〜!
(もっと早く更新します)